2012年2月19日日曜日

71;核に立ち向かう監督たちの怒りと希望について・ベルリン国際映画際より

第62回ベルリン国際映画際のフォーラム部門で紹介され、前回でもお知らせした日本のフクシマ原発事故をテーマにした3本の映画は、ドイツはもちろん国際的にも大きな反響を呼びましたが、本日2月18日、残念ながらいずれも受賞は逃しました。
何しろ、舩橋淳監督の作品"Nuclear Nation"の上映などは、監督によれば、毎回いづれも満席で、800席の会場に立ち見席をもうけても入りきれなかった上映もあったとのことです。(それにしても、消防法で立ち見席は禁じられているドイツですから、警察は目をつぶったようです。一般の映画館では絶対にあり得ない事態です)。

もちろんメディアでの反響もよく、したがって、これほどの関心を呼んだ作品がそろったので、何らかの受賞はあるとわたしも期待したのですが。
ひょっとしたら、フクシマ3作品のひとつだけに賞を出すことは難しく、とはいって3作品にまとめて出す賞もないので外れたのではないかと、いささかうがった質問をホーラム部門のディレクターのテルへヒテ氏に立ち話で尋ねてみましたが、彼も審査内容は知らずわからないとのことでした。

期待があっただけ、わたしも少しがっかりしたのですが、一方で、未成年向けの部門で、やはりフクシマ原発事故をテーマにした、平林勇監督のアニメ「663114」が、特別賞を受賞したことは、大変嬉しいことです。

また、短編部門で和田淳監督のアニメ映画「グレートラビット」が、銀熊賞の栄光に輝いたと先ほど報道されました(これはフクシマには関係ないので残念ながら観ていません)。

さらに、フォーラム部門では、これも朝鮮半島と同様に国家と家族の分断を体験し、痛みのわかるドイツ人の心に深い共感を呼んだ、梁英姫(ヤン・ヨン匕)監督の「かぞくのくに」がアートシアター賞を受賞したことは、大きな成果です。

梁監督は「ベルリンは間違いなく私の人生において特別な場所になったと実感している」と喜びを述べたとのことですが、ベルリンっこのわたしも大変嬉しく思います。
写真をひとつお見せしますね。
Funahashi Atsushi, Yang Yonghi ,Berlinale 18.Feb.2012 Photo:T.Kajimura

 これは本日、フォーラム部門の賞が発表された直後の舩橋淳、梁英姫監督の写真です。舩橋さんは惜しくも賞を逃し、梁さんは見事に受賞しましたが、お二人とも厳しい国際舞台での連日のプレゼンテーションと寝不足で疲れが隠しようもなく顔に出ています。

しかしわたしは、これは柔和な東洋の「核に立ち向かう監督たちの闘いの表情」であると思います。ひとりはヒロシマの被爆二世として原発事故に立ち向かい、もうひとりは祖国の分断と固定化の背後にある核兵器に対し、作品の力で立ち向かっています。どちらも人類史最悪の暴力に、それぞれの芸術の力で正面から立ち向かっている、まさに勇者であるのです。彼らに潜んでいる人間の根源にある怒りと希望が、彼らの作品に籠められているのです。

また、舩橋監督はベルリンでの受賞は逃しても、今年の夏にはアメリカの30都市で上映されることが決定したとのことで、大いに張り切っていました。問題は日本国内での上映です。

じつはもう一枚、ベルリン映画祭ならではの珍しい写真がありますので、これも紹介しましょう。
Fujinami Kokoro,Ulrich & Erika Gregor.Berlinale,18.Feb.2012 Photo:T.Kajimura
舩橋監督らと話していると、こちょこちょとどこかで見た少女が現れました。岩井俊二監督の"frieds after 3.11"に出演し、ベルリンへ初めてやってきた中学生の藤波心さんです。

わたしは、彼女のことは全く知らず、たまたま先日の東京代々木公園での2・11 集会で、すばらしい挨拶をし、「ふるさと」を高唱した姿を報道で知り、大変に感動したところでした。
早速、矢継ぎ早に質問をしてから、「あなたのこころからの演説は本当に素晴らしかった。ノーベル賞作家の大江健三郎さんの下手くそな原稿読み上げ演説とは対照的で、内容も日本の政治家が心に刻むべき素晴らしいものだった。日本の脱原発運動では、滅多にない超一級のできだ。あれが即興で出来るのは素晴らしいことだ云々」と、本心から口を極めてベタほめをしました。彼女、突然出会った知らない爺さんのそんな言葉に、おじけづくほどびっくりしたようです。

そこへ彼女へのご褒美でしょうか、ゆっくりと現れたのがこのお二人です。ウーリッヒとエリカ・グレゴールご夫妻です。そこで、おふたりに「藤波さんは脱原発でがんばっている日本の若い女優さんです」と紹介し撮らせていただいたのがこの写真です。
実は、このご夫妻は知る人ぞ知る、ベルリン映画祭のフォーラム部門を築き上げた功労者なのです。彼らなしには現在のベルリン映画祭はありません。

時間がないので藤波心さんには、とりあえずこのことだけを伝えておきました。詳しくは、ブログで紹介すると約束しましたので、2年前にこのご夫妻のについて書いたものがありますので、それを→次回に紹介します
 今年、80歳になられるグレゴール氏と、怒りと悲しみをこめて脱原発に励む15歳の日本の女優さんのベルリンでの出会い。これも決して偶然ではないのです。

彼女はフクシマ事故で世界を覆った暗天に輝く日本の若者たちの希望の星のひとつです。
彼女のような若者が次第に現れ、フクシマの人道犯罪、自然破壊犯罪で未来を奪われつつある日本の子どもたちが集まり、やがてそれは希望の銀河となるでしょう。



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1 件のコメント:

  1. 目を耳を澄ませた世界。

    偶然のメビウスの輪は転じて必然に。
    無為が導く運命の女神の御手には束縛も呪縛も無い。
    遍く拡散する脱原発の動きは天網に鳴り渡る。
    天衣無縫の心には嘘も恐れも無用。

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