2012年1月29日日曜日

67;市民と科学者による内部被曝問題研究会発足の記者会見と政府への提言

  127、東京の日本記者クラブと自由報道協会の二カ所で、前にもお知らせした市民と科学者による内部被曝問題研究会」の発足の記者会見がおこなわれました。会見では研究会発足の経緯と歴史的背景、その意義などが報告され、さっそく下記のような 「内部被曝の拡大と健康被害を防ぐ為に政府がとるべき安全対策への提言」が発表されました。

この提言と、また二つの会見のビデオは→内部被曝研究会のホームページ(左欄)から全部が見られます。

特に日本記者クラブでの肥田舜太郎医師の体験談は貴重なものですし、また松井英介医師の要領を得た問題点の説明はわかりやすいものでした。全体としてもナガサキ・ヒロシマ以来の日本の核被害の歴史を改めて考えさされる非常に意義深い記者会見でした。

会見で使われた資料は→日本記者クラブのホームページから下ろせますが、これです;


松井英介氏
http://www.jnpc.or.jp/files/2012/01/9171730f8056aab9a5562dfd9aa6abd9.pdf
沢田昭二氏
http://www.jnpc.or.jp/files/2012/01/1cdb72375b37cd1e83fbb44a0fd2d363.pdf
内部被曝研の提言書
http://www.jnpc.or.jp/files/2012/01/afe7f753fcfb6240a2d0e4f98a4dcf63.pdf
 




会見をしたのは、肥田舜太郎被曝医師、澤田昭二素粒子物理学被爆者、松井英介医師放射線医学呼吸器病学、矢ヶ崎克馬物性物理学、生井兵治(遺伝学)、高橋博子(歴史学)、岩田渉市民放射能測定所理事、大石又七(第五福竜丸元乗組員)らのみなさんです。

特に、「最後の被曝医師」として、少なくとも6000人の被爆者と臨床医として接してこられた95歳の肥田舜太郎医師の発言は、非常に貴重な歴史の証人の言葉ですので、是非ご覧ください。この方の体験と意見は、世界史的な価値があります。


 主催者自由報道協会による率直な感想はこちらで;

その他の報道は以下のようなものがあります;

肥田舜太郎氏ほか専門家が市民と科学者内部被曝問題研究会設立

 毎日新聞;内部被曝危険性訴え研究会設立へ 年内にも国際会議開催

共同通信;被ばく研究団体設立へ 政府批判研究者ら
  
時事通信;年1ミリ以上集団疎開を=広島被爆医師ら政府に提言

http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2012012700946

記者クラブでの会見では、米国の水爆実験で被ばくした「第五福竜丸」元乗組員の大石又七さんも参加されていました。典型的な内部被曝の被害者の発言は貴重です。
さらに肥田医師の研究会への思いも同会ホームページでご覧ください。世界史的な歴史の証言者の思いがよくわかります。 以下提言です;
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    2012127
内部被曝の拡大と健康被害を防ぐ為に政府がとるべき安全対策 (提言)    市民と科学者の内部被曝問題研究会
 東日本大震災にさいして起こった東京電力福島第一原子力発電所の事故(東電事故)は深刻な被害をもたらしています。広範な地域が汚染され、多くの 人々が被曝して、いのちと暮らしを脅かされています。これに対して私たち「市民と科学者の内部被曝問題研究会」は、日本政府に対して、「人間は核=原子力 とともに生きていける」との考えを根本的に改め、汚染地域には住み得ず、農林水産業はできない、との前提で、国家100年の計を策定することを求め、緊急 にいくつかの提言を行いたいと思います。        原発事故による放射線被曝の主要なものは、呼吸や飲食を通しての内部被曝です。政府や政府に助言する専門家は、被曝影響の評価を主として測定しや すいガンマ線に頼っています。しかし、内部被曝では、ベータ線やアルファ線がガンマ線よりもはるかに大きな影響を与えます。政府と東電は、ベータ線を放出 するストロンチウム90や、アルファ線を放出するプルトニウム239などの測定をほとんど行っていません。内部被曝の特性とその健康影響を意図的に無視し 続けているのです。       その背景には、アメリカの核戦略や原発推進政策があります。これらの政策の影響下で組織された国際放射線防護委員会(ICRP)、国際原子力機関 (IAEA)、国連科学委員会(UNSCEAR)などの機関は、広島・長崎原爆の放射性降下物による被曝影響を無視した放射線影響研究所の研究に依存して います。日本政府は福島原発事故の被曝に関しても、「100mSv以下では病気を引き起こす有意な証拠はない」とするなど、事実を覆い隠し、被曝限度に高 い線量値を設定して、市民のいのちを守ろうとはしていません。また、世界保健機構(WHO)IAEAと放射線被曝問題を除外する協定を結んでいます。       東電事故以来、政府はICRPの勧告を受けて、被曝限度値を通常の年間1mSvのところを突如20mSvにつり上げました。事故があったからといっ て、人間の放射線に対する抵抗力が20倍になるというようなことは金輪際ありません。本来は事故を引き起こした東電と原発推進を図ってきた政府の責任で、 住民の被曝回避にあたらねばならなりません。逆に、この措置は住民の保護を放棄し、住民を長期にわたり被曝さるにまかせて、事故を起こした者の責任と負担 を軽くするためのものです。住民のいのちを犠牲にする棄民政策です。  日本国憲法第二十五条には、主権者として保障されるべき権利として、「すべて国民は、 健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と明記され、「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努め なければならない。」と記述されているのです。     事故後10ヶ月を経過し、事故の被害は全住民に広がろうとし、今なお拡大の一途をたどっています。放射能汚染は福島に留まらず、日本全域に広がって います。陸だけでなく海の放射能汚染も深刻です。放射能汚染は、長期間続き、被曝の被害はますます深刻になることが予測されます。  中でも深刻なのは、放射 性物質を含んだ食物が、全国に流通していることです。原則的な考え方、根本的な方法で、食物をとおしての被曝回避を図らねば、全住民が深刻な被曝を受け続 けることとなります。子どもの「安全な環境で成長し教育を受ける権利」は侵され続けます。     野田佳彦首相は「原子炉が冷温停止状態に達し発電所の事故そのものは収束に至ったと判断」し、「事故収束に向けた道筋のステップ2が完了した」と 宣言しました(20111216)。しかし、圧力容器の下部にはメルトスルーで生じた穴が空いており、核燃料の状態も把握されていません。四号機の倒 壊も懸念されています。汚染水を垂れ流しながら「安定冷却できている」とするにはあまりにも不安定な状態です。いつまた核分裂などの暴走が起こるかわかり ません。今、幕引きができるような状態では全く無いのです。 私たちは次のような提言を行い、政府が速やかに実施することを求めます。
  1. 住民安全を保障できる体制確立
    原発を安全神話で進めてきた原子力村による委員組織ではなく公正な立場から客観的に判断できる委員会を構成し原子炉破壊状況と原因を究明するとともに住民安全を最優先する立場から情報迅速な全面公開を行ことを求める
  2. 子どもと被曝弱者を守る
    少なくとも法定年間1mSv以上放射能汚染が高い地域に在住する子ど もを即刻集団疎開させる乳幼児妊産婦病人等被曝弱者を即刻安全地域に移すこと全て保育園幼稚園学校給食食材安全を確保するために 産地を選びきめ細かく精度高い放射能測定を行
  3. 安全な食品確保と汚染無い食糧大増産
    住民に放射能汚染無い食糧を提供すること。「健康を維持でき る限度値現在限度値1001程度を設定して限度値以上汚染食品は市場に出さない東電政府責任で生産者にも消費者にも生活保障と健康 保障を行これからずっと続く食糧汚染を避けるために休耕地を利用するなどして非汚染地域で食糧大増産を行高汚染地生産者には移住して生産 担い手になる権利を保障する水産物汚染も非常に危険な状態に入っている全て漁港市場に放射線計測器を設置し汚染されたもが流通しない体制を つくる漁業者には補償を行
  4. 除染がれきなど汚染物処理
    ずさんな除染は非常に危険であり効果も期待できない一般住民に除染作業による被曝をさせてはならない放射能拡散を防ぐため汚染がれきなどは放射性物質を放出した東電責任において収集し原発敷地内に戻す
  5. 精度高い検診医療体制確立
    内部被曝を軽視するICRP等により現状医学医療現場は放射線 影響を過少評価しているからだあらゆる部位にあらゆる疾病出現が懸念されるこれらを丁寧に治療できる医療体制を即刻実現する保障対象疾病を 制限することなしに放射能被害者無料検診医療制度を確立する

2012年1月27日金曜日

緊急の呼びかけ;経産省前のお母さんたちの脱原発テント村を守ろう!/追加あり

国際的なインターネット市民運動であるAvaazからの緊急の呼びかけを転載します。
世界市民が連帯して抗議し、経産省前のお母さんたちのテント村を守りましょう。

もし枝野大臣が警察力でテント村を排除したら、それは市民の非暴力抵抗権を国家暴力で排除することになり、日本政府が自ら民主主義を破壊する暴挙となります。こんなことが許されれば、次には間違いなく窮鼠猫を噛む絶望的なテロ行為が必然的に起こるでしょう。大いに憂慮すべき事態です。そんな事態を世界市民の立場から連帯して防ぎましょう!


以下転載です:
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 日本全国の友人たちへ

 いま、恐ろしいことが起きつつありま す。福島のお母さんたちは、子供たちのために、放射能汚染のない未来を築くことを求めて、経 済産業省前で平和的なキャンペーンを行っています。そ のお母さんたちに対して、枝野幸男・経済産業大臣が退去命令を出しました。警察がお母さんた ちのテントを撤去しにやってくるまで、あと24時間ほどしかありません。警察を止められ るかどうかは、私たちの今の行動にかかっています!

枝野大臣は、影響力ある原子力産業の 圧力に負けつつあります。 原子力産業は、福島のお母さんたちの闘いが社会の注目を集め、その真摯な努力が実り始めていることに脅威を感じています。 今、全国で多くの国民が、お母さ んたちの闘いに呼応して、危険な原子力発電をやめるように、声を上げ始めています。この勇気あるお母さんたちが警察によって 立ち退かされないように、私たちが今、みんなで支援 をしなければ、子供たちの命を守る闘いはつぶされてしまいます。

残された時間は一日だけです!今す ぐ、枝野大臣の受信箱に何千通のメッセージを送り、退去命令の撤回を要請しましょう。枝野大 臣をはじめとする政治家たちにとっても、人命や安全が大事か、それとも目先の利益に固執するのか、選択の時が来ています。いま、福島のお 母さんたち、そして脱原発に取り組む活動家たちとともに立ち上がり、原子力産業の汚いやり口を終わらせるために、クリックし てください。そして、このメッセージをすべての人に 伝えてください。

http://www.avaaz.org/jp/stand_with_fukushima_mothers/?vl
日本では、驚くべきことが今起きています。福島での大事故から数ヶ月、原子力が安全でもクリーンでもない という事実に、国民が気づき始めました。メディアでも、数多くの活動家たちの努力が取り上げ られ、放射能汚染が危険なレベルに達していること、また、それが日本の未来にとって何を意味するのかということが、極めて身 近な問題として取り上げられ、多くの国民がこの事態 に懸念を抱くようになっています。

原子力産業に対する、国民からのこの圧力は功を奏しています。今、日本国内で稼動している原子炉は4基のみで、4月 末までには、この数がゼロになるかもしれません。 強力な原子力産業は、この事態に脅威を感じ、全力で延命策を講じています。福島のお母さんたちによる経済産業省前の座り込み が長引くほど、国民の支持はお 母さんたちの方に傾くことを知っているからです。そこで、原子力産業は全力で政府内の支持者に働きかけて、抗議行動を終わら せ、見せかけの平穏を取り戻そうとしています。しか し、私たちはもう後戻りできません。

金曜日には、経済産業省の係官と警察が、抗議行動を行っているお母さんたちを力づくで排除する可能性がありま す。警察官たちは、退去しなければ、懲役刑や罰金刑になると脅迫を加えるでしょう。でも、お母さんたちは、平和的に、合法的に座り込んでいるので す。私たちは、日本国民、また、日本に住む市民として団結し、政府が、原子力関連の利権団体 が主催する晩餐会における乾杯の音頭にではなく、国民の声にこそ耳を傾けるように、要求しましょう。私たちが今日とる行動 が、主権者である国民の、異議申し立てを行う権利を 守り、私たち全員の安全な未来を築くために闘っているお母さんたちと活動家たちを支え、その 決意をさらに強めることにつながります。あと24時間しかありません。メッセージを今送信し、これをすべての人に 転送してください。

http://www.avaaz.org/jp/stand_with_fukushima_mothers/?vl
環境に優しいクリーンエネルギーに支えられた日本の未来を築くチャンスは、今、大きな広がりを見せています。 この可能性の扉が閉ざ されるのを防ぐため、今こそ立ち上がりましょう!そのために、平和的に抗議行動を続ける福島のお母さんたちの権利を守ること から、取り組みを始めていきま しょう。

希望をこめて、

イアン、キア、ベン、アリス他Avaazチーム全員

出典:

Fukushima Diary "JP Gov is planning to remove the antu-nuclear tent in front of METI":
http://fukushima-diary.com/2012/01/jp-gov-is-planning-to-remove-the-antu-nuclear-tent-in-front-of-meti/#.Tx_tgGGqDb8.twitter
経産省前テントひろば "【緊 急】報道・記者会見予定など拡散願います。":
http://tentohiroba.tumblr.com/ 

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28日追加です。
27日午後、テント村はインターネットの呼びかけなどで集まった500人以上の市民の力で守られ、撤去を阻止しています。

その様子を田中龍三さんらの現場からの報告と写真をお借りしてから見てみましょう。市民の怒りの質がどんなものかが伝わってきます。

まず、田中龍三ジャーナルから一部を引用させていただきます;



原発事故で散々な目に遭った女性たちはお上高圧的な姿勢に怒りを募らせるテントを守り抜くことへボルテージは高まる一方だ郡山市から東京に自主避難してきた母親は「きょうは樺美智子になるつもりできた。福島の女をなめんなよ


脱原発テント」の支援者や見物人でごった返した。=27日午後5時頃、経産省前。写真:筆者田中龍三さん撮影

そして本日;

市民支援を受けてテントを守る当事者も熱が入る女性テント呼びかけ人椎名千恵子さんに経産省が強制排除に乗り出してきた時対応を聞いたごぼう抜きにされても、また戻って来て座り込む。臭い飯を食う(逮捕される)のも覚悟している」。椎名さんは本気だ


椎名さん正面左角はんてん姿女性話に聞き入る来訪者たち=写真28日午後写真中野博子撮影


また、昨日の様子のルポは以下のブログでも写真が多く見られます;



1/28 "脱原発テント村"撤去命令に市民らが抗議集会 撤去するは原発だ


この中で、浪江町の牧場主吉沢さんの訴えには身を切られる気持ちがします。
下部の動画をご覧ください。原発から14キロの牧場で、高度な汚染にさらされながら牛とともに絶望的な闘いを続けている吉沢さんの姿は、そのままフクシマの日本人の姿であるとおもいます。是非ご覧ください;

66;原子力村本店のIAEAは「原発推進の罪人」である;ブレヒトの言葉とドイツ放射線防護協会/補足あり

 
 本日1月26日、国際原子力機関IAEAの調査団が関電の大飯原発を訪問し審査を行っています。これについては多くの報道がありますが、この訪問目的が最もはっきりしている記事として日経新聞を挙げておきます。
 以下引用:
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IAEA大飯原発を視察 保安院はしっかり審査


                            2012/1/26 17:28

西電力大飯原子力発電所3、4号機(福井県おおい町)を26日視察した国際原子力機関(IAEA)の調査団は同日夕、「経済産業省原子力安全・保安院がス トレステスト(耐性調査)の結果をしっかりと検証・審査していることを確認できた」と語った。視察後に記者団の取材に応じた団長のジェームズ・E・ライオ ンズIAEA原子力施設安全部長が述べた。

 ただ、原発の再稼働については「日本政府にしっかりとした判断能力がある」と述べ、IAEAは審査と助言を与えるにとどめる方針であることを強調した。調査団は31日までに保安院に評価書を提出する見通し。

 同発電所3、4号機については保安院が、ストレステストの1次評価結果を妥当としていた。


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以上引用。

訪問目的が保安院が先日「妥当」とした同原発2基のストレステストに、国連機関としてお墨付きを与え、これを免罪符として日本政府が再稼働を認める筋書きにあることは、フクシマを体験した日本では、いまや誰の目にも明らかです。
団長のライオンズ氏によれば「日本政府にしっかりとした判断能力がある」そうです。彼がここでも、繰り返し強調するこの言葉は、大事故を起こした日本政府への皮肉にも聴こえますし、また自からの責任逃れともとれます。 すなわち再稼働の責任は一切日本政府にあり、自らには無いと強調しているのです。

この国連機関が原発推進についてどのような役割を果たしているかについて、わたしがチェルノブイリ20周年の2006年4月に「週刊金曜日」にベルリンより寄稿したものがあります。読み返してみるとフクシマを体験した日本にとって、まさにアクチャルになった内容ですので、そのまま転載しておきます。(掲載分とは固有名詞の表記を一部訂正してあります)。
これには、いささか変わったタイトルがつけられています。

 以下転載:
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「週刊金曜日」NO.603/2006年4月21日号掲載

真実を知らないのは、単なる馬鹿者だが、
知っておりながら、それを嘘だと言う者は罪人だ    

                          梶村太一郎

これは、ドイツの劇作家ブレヒトの大作『ガリレイの生涯』にある言葉だ。四月五日、ノーベル賞受賞団体である核戦争防止国際医師会(IPPNW)のドイツ支部と、ドイツの市民団体である放射線防護協会が共同で公表した報告書の終わりに、この台詞が引用されている。「チェルノブイリの健康への影響」と題されたこのレポートは、大事故が二十年間に及ぼした人体への非常に広範囲で深刻な影響についての数多い研究を、専門家以外にも理解できるように紹介したものだ。「罪人」としてやり玉に挙げられているのは、国連の国際原子力機関(IAEA)などの原発推進ロビーである。


昨年九月にウイーンでIAEAが主催した「国連チェルノブイリフォーラム」は「事故による被曝での死者は、将来を含めて四〇〇〇人と推定される」との数字を発表。あまりの少なさに、疑問と怒りの声が大きい。この報告書は最も厳しい総括的批判のひとつだ。例えば「事故処理作業従事者だけでも、これまでに死者は五万から一〇万人、現在の障害者は九〇万と推定され、死者は将来も増加する」とある。両者の差はあまりにも極端だ。そこで、執筆者のひとりセバスチアン・プルーグバイル物理学博士(58)を訪ねて話しを聴いた。


この人物は、一九八九年にベルリンの壁を崩壊に導いた東ドイツの市民運動の中心組織「新フォーラム」を結成したひとりで、壁崩壊後に成立した東独最後のモドロウ政権では無任所大臣となった。彼が、プロテスタント教会と協力して、チェルノブイリの被害を受けた旧ソ連邦の子どもたちを保養のために招待する活動を始めたのもこのころである。日本や世界各地の市民団体の救援活動のモデルとなった。彼は今でも創始者として、この活動を地道に続けている。また専門家としては、一九九〇年にミュンヘン大学放射線生物学のレングフェルダー教授らが結成した放射線防護協会に参画、現在は同協会の代表である。この団体は四月初めに、ウクライナ、ベラルーシ、ロシアの被曝現場で活躍する医師や物理学者をドイツに招き、ベルリン大学医学部で「チェルノブイリ二〇年・未来への体験と教訓」と題する国際会議を主催し、プルーグバイル氏は議長を務めた。


彼を自宅に訪ねるのは、これが二度目だ。九〇年代の初めに、今は亡き高木仁三郎氏と共に、ブレヒト劇場にも遠くない住居を探しあてた記憶がよみがえる。(居間のドイツ教養主義のシンボルのような古いピアノと、壁にかけられた年代物のバイオリンもそのままだ。/掲載文では削除されていますが、復活しますー梶村
「高木氏の喪失は日本の反核運動にとっては大きいのです」
「そうでしょう、でも彼の原子力情報資料室は良い活動を続けていますね」
これを挨拶代わりに話しが始まった。


「昨年のIAEA主催のウイーン会議に出席しましたが、初めからあのような結論ありきの、まともな議論もできない茶番でした。そこで、彼らが二年もかけてまとめあげた分厚い報告書を検討したところ、お粗末なものでした。事故の影響を汚染が最もひどいゾーンだけに限定し、被曝者の最大の問題を貧困やタバコ、アルコールの社会問題のせいにして、事故の影響を最大限隠そうとする意図が明白です。使われている研究データが一〇年か、それ以上に古いものばかりで、四〇〇〇というのも国連の世界保険機構(WHO)の一九九六年の報告データーの最小限の数字だけを恣意的に発表しただけです。だから私はIPPNWと一緒に書いた報告書に、この隠蔽の事実を学問的に詳しく指摘して、ブレヒトの言葉を引用したのです」
「あなたに『罪人』とされた、そのIAEAのエルバラダイ事務局長が、IPPNWと同じノーベル平和賞を昨年の秋に受賞しましたね」
「現在のイランの核問題でもわかるように、IAEAが核兵器不拡散に果たしている役割は確かに大切。だが、この組織はその規約の第一条に明記されているように『世界中で核エネルギーの平和利用を促進する』目的をもち、第三条では『得た情報に対する一定の制限も必用である』とあります」
「つまり、原発推進の目的のためなら情報を隠しても良いとの規定もあるのでこの報告書も規約違反ではないというわけですね」
「そうです。エルバラダイの前任者のハンス・ブリック事務局長は、チェルノブイリ事故のあと『核エネルギーの重要性からして、世界はチェルノブイリ級の事故が毎年起きても耐えられるであろう』と発言しています。この組織の変わらぬ本質を表現しています。まさに犯罪的な言葉です」


彼が共同執筆した報告書にも掲載があり、ベルリンの会議でも報告され、IAEAが隠すか無視するデータを二つだけ挙げておこう。
キエフのアンゲリナ・ニャグー教授によるとウクライナの北部の汚染地域では、癌以外の精神身体医学的病気が事故後に、突発的に増加した統計である。住人一〇万人当たりの八七年と九二年の病人の数と倍率である(表)。
九十三年から政府の予算が打ち切られ、この統計は取れなくなったが、教授は九六年までこの地域の住民の健康率を取り続けている。
これによれば、汚染地域の住民の内、八七年に健康な人の割合は五一・七%であったが、九六年には健康人はわずか二〇・五%になっており、健康な子どもは同期間に八〇・九%から二九・九%まで減少している。したがって、汚染地域の住民の大半が何らかの病気を複合してかかえ、平均寿命が極端に低下し続けていることは確実である。


もうひとつは、ベラルーシの高汚染地域ゴメルにボランティアで病院を建設し治療に当たっているミュンヘン大学のレングフェルダー教授による、最長で最新の甲状腺癌の年齢別発病数のグラフだ。プルーグバイル氏の解説では、被曝による癌の発病では、白血病は被曝後五年で最高率に達しその後低下するが、その他の癌は一〇年から二〇年後に増加を始め、はたしてピークが何年後になるかは、大半が解明されていない。このグラフから読み取れることは、子どもと青少年の甲状腺癌の発病はピークを越えたようである。しかし高年齢層ではまだ増加が続いており、ピークはまだ先のことだという。
「癌の転移がなくても、彼らには手術後、一生涯投薬が必要なのです。これに加え、今度の会議で問題になったのは、事故後に生まれた子どもたちの遺伝子の異変のことです。汚染地帯で生まれた約一〇%の子どもに遺伝子異変が見られます。糖尿病が異常に多いことも報告されました。この爆弾をかかえた子どもたちがどうなるか。さらに、その次の世代はどうなるか。チェルノブイリ事故には終わりはありません。まだ始まったばかりなのです。だから。せめて病気の子どもたちが安心して生活できる施設を建設中です。いまでも犠牲者たちを最も援助しているのはドイツと日本のNGOです」と博士は話しを終えた。会議の記者会見でニャグー教授も両国の市民による援助に感謝して、引き続いて子どもたちへの救助を訴えていた。


帰り道、ブレヒトが亡命先のアメリカで広島への原爆投下を聞き、『ガリレイの生涯』を書き直したことを想い出した。「科学の唯一の目的は人間の生存条件の辛さを軽くすることである」と、異端審問に屈したガリレイを厳しく断罪したのである。「権力のためではなく市民科学者として生きた」高木仁三郎氏が、今も一緒に歩いていることに気づいたのだった。(かじむら たいちろう・在ベルリンジャーナリスト)


(添付表)
ウクライナ汚染地域での癌以外の疾患(10万人あたり)
病名     87年/人 92年/人   5年間の増加率
内分泌系    631 → 16,304  25、8倍
慢性疲労/頭痛 249 → 13,145  53、6倍
神経系   2,641 → 15,103   5、7倍
循環器系  2、236 → 98,363  43、9倍
消化器系  1,041 → 62,920  60、4倍
皮膚組織  1,194 → 60,272  50、4倍
骨筋肉系    768 → 73,440  95、6倍
     A.Nyaguによる1994年の報告書より作成


添付図の「ベラルーシの甲状腺癌の突発的増大1985−2004年」は下記写真(上)。
上図出典;E.Lengfelder,C.Frenzelp「20年後のチェルノブイリ」、ミュンヘン大学Otto Hug放射線研究所、2006年2月/週刊金曜日2006年4月21日号30頁より

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以上転載。

 この寄稿で述べられているチェルノブイリの被災者の事故20年後の状態は、これから日本が次第に直面する事態を、多かれ少なかれ予測させるものです。
またもうひとつ明らかにされていることは、IAEAという組織は、世界中に原子力発電を推進するために、チェルノブイリの事故の膨大な被害を、組織を挙げて矮小化し隠蔽し続けている「倫理的な犯罪組織」であることです。
この犯罪的役割に半ば成功しているこの組織にとっては、フクシマの事故の被害の矮小化と隠蔽は容易いことであるようです。日本には原子力村という彼らの 強力なロビーが、事故以降も健在で大活躍をしており、政府中枢に食い込んだままですからなおさらです。しかも現在の事務局長は日本人の天野氏ですから全くもって好都合なことです。

また日本のマスメディアには国際組織、しかも国連組織のIAEAの暗黒面を検証して告発するだけの能力は、残念なことにほとんどありません。このことをフクシマで苦しんで闘っている日本市民のみなさまはしっかり認識しておいてください。日本の原子力村は、いわばこの国際組織の本店の日本支社なのです。

さて、上記の記事にあるミュンヘン大学のレンクフェルダー教授のインタヴュー(2011年7月)をポツダムのEisbergさんが最近、丁寧に全文を翻訳されていますので、これもぜひ参考にしてください:

 ドイツオットーフーク放射線研究所所長レンクフェルダー教授インタビュー フクシマはチェルノブイリよりも酷い



ドイツ放射線防護協会を支えるプルーグバイル博士やレンクフェルダー教授らは、外国人研究者としては、チェルノブイリの被害者たちに最も長く接しながら、さまざまな救援活動を続けている研究者です。まさにブレヒトの言葉「科学の唯一の目的は人間の生存条件の辛さを軽くすることである」を実践している学者たちです。

ブレヒトはアメリカ亡命中にヒロシマ・ナガサキを知り、若い頃の戯曲『ガリレオの生涯』を三度目に書き直しています。科学者の責任を厳しく追及しているこの戯曲は、ドイツの高校の教材としてよく使われています。
おわりにもうひとつだけそこから、「原子力の平和利用神話」の終焉にふさわしい彼の言葉を引用しておきましょう;

「科学の目的とは無限の英知への扉を開くことではなく、無限の誤謬にひとつの終止符を打っていくことだ」

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この書き込みにひとつだけ補足しておきます(1月28日)。


上記の寄稿にあるプルーグバイル博士の言葉;

「事故の影響を汚染が最もひどいゾーンだけに限定し、被曝者の最大の問題を貧困やタバコ、アルコールの社会問題のせいにして、事故の影響を最大限隠そうとする意図が明白です。」


これがそのまま当てはまるのが、昨年末12月22日に出された、内閣官房の


低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループによる報告書です; http://www.cas.go.jp/jp/genpatsujiko/info/news_111110.html   これを読めばよくわかるのですが、出席していた細野大臣が「福島を日本で一番癌の少ない県にする」などと本気で言い出したのも、このグループに洗脳されたからであることは明白です。ここまでくれば、茶番を通り越し、日本の悲劇です。 このグループが作った次の表をご覧ください。