2012年10月29日月曜日

お知らせ:小沢一郎氏ドイツ訪問への記事の紹介

お知らせです。 
先の小沢一郎氏ドイツ訪問に関する報告に、永井潤子氏の記事の紹介を「一郎くんを見直した」と題して追加で紹介しました。→ここの文末の追加をご覧ください。

また→最新のシジミチョウ異変に関する報告もお忘れなく。

123:論文紹介『ヤマトシジミに対する福島原発事故による生物学的影響』大和田幸嗣

 このブログの111回(8月11日)で、琉球大学の大瀧研究グループによる論文『ヤマトシジミに対する福島原発事故による生物学的影響』が英国の『ネイチャー』誌関連の→電子版で発表されたことと、これに関する特に欧米メディアの報道に関して→「ヒバクチョウが実証されました・・・」とお伝えしました。
 この研究に関しては最近もドイツの公共第一テレビARDがニュース番組で琉球大学の研究室の現場まで取材して伝えています。チームメンバーの女性研究者が「汚染地帯から避難すべきだ」と訴えていました。

 ところが、この実証的な科学研究を、日本の大手メディアは相も変わらず無視しています。 
このような状況を憂慮された「市民と科学者の内部被曝研究会」に参加されている分子細胞生物学者の大和田幸嗣元京都薬科大学教授が、最近当論文紹介として、第三者の科学者としての評価を執筆されました。これは内部被曝研究会医療部門内部で配布されたものですが、わたしにも送られてきましたので大和田氏の承諾を得以下そのまま掲載させていただきます。
氏は当研究を高く評価し、結論として「 放射能汚染が日本中に広がらないうちに正常なヤマトシジミのサンプルを収集しゲノムを解析し,変異体のゲノムとの比較検討が期待される。」と次の研究段階への提言をされています。わたしも今後の研究に注目したいと考えています。
なを、筆者紹介は文末にわたしから加えておきます。
以下引用 
          
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              論文紹介   
                    大和田幸嗣 20121019 

   『ヤマトシジミに対する福島原発事故による生物学的影響』

Hiyama, A., Nohara, C. et al. The biological impacts of Fukushima nuclear accident on the pale grass blue butterfly. Sci. Rep. 2, 570-579 (2012).
 DOI: 10.1038/srep00570

目的
 上記論文が電子版で発表されたとき、ヨーロッパ(ドイツ、フランス、スイス、イギリス)のマスコミはいち早く取り上げ詳しく報じた。このことを内部被曝研のメンバーでもあるベルリン在住のジャーナリストの梶村太一郎氏が内部被曝研のMLで伝えてきた。しかし、内部被曝研内でもこの論文にたいして否定的な見解があり、この論文の価値とその意義について積極的な議論がなされなかった。このことについてはメンバーの1人として私も責任を感じている。日本のマスコミはこの論文に対して無視に等しい態度を示している。フクシマ原発事故による人を含む生態系への影響、現在と未来にわたる継続的惨劇ついて、過小評価し忘れ去らせようとする流れが起きているように私には感じられる。
 
 私は分子細胞生物科学者で昆虫学の専門家ではないが、この論文(本文9ページとsupplemental information7ページ)と関連文献を読み、学び理解したこと伝え、本論文が正しく理解されるためのたたき台を提供したい。そのため、論文理解のための前提条件としてのヤマトシジミの特色や実験方法についても詳しく述べた。

はじめに:
 
 大瀧譲二研究グループ(琉球大学)の上記論文は、環境指標生物の一つであるヤマトシジミを用いて、福島事故で放出された放射能による事故後2ヶ月目と6ヶ月目の短時間での生態系への生理的・遺伝的影響を検証した世界で初めての貴重な論文である。
 
 ヤマトシジミは体長が約3センチの小型蝶で北海道を除く日本全域に生息し、田んぼ、公園、人家を生息場所としカタバミを単性食として繁殖する。冬は幼虫として地中で越冬し、餌のカタバミが生える春に幼虫から、蛹、成虫へと成長する完全変態昆虫である。その一生(ライフサイクル)は約1ヶ月と短く、一年で5〜7世代の世代交代をおこなうことから、環境要因がライフサイクルと世代へ及ぼす生理的・遺伝的影響を迅速に測定し判定出来る優れた系である。
  
 2010年、大瀧グループはヤマトシジミを実験室で飼育交配させ、何世代にも渡って継代維持できる手法、継代飼育法を樹立した(Entomol. Sci. 13, 393)。雌は1回に約100の卵を産卵する。子世代が成虫まで育つのは野生では数パーセントであるが、この方法によれば、約90%の子世代を育成できる。それ故、出現した変異を統計学的に解析する際にも有意な母集団を与えることが出来る。
  
 方法1:今回、原発事故後2ヶ月(2011年5月)と6ヶ月(2011年9月)に原発周辺の7地域でヤマトシジミを採集、形態観察をおこなった。継代飼育法を用いて、健康そうな蝶同士(親をPと現わす)を交配・産卵させ、子世代(F1)の形態観察をおこなった。F1成虫の形態を親世代と比較した。また、F1では幼虫から蛹、羽化に要する時間の各地域間の比較もおこなった。原発からの距離が近い程、卵から蛹まで、卵から羽化まで多くの日数がかかることがわかった。
 この7地域の福島第一原発からの距離 (km)を示す。北から、福島県福島市(62.8)、本宮町(58.8)、平野町(20.7)、いわき市(33.3)、茨城県高萩町(82.3)、水戸市(82.3)、筑波市(172)。
 
 次に、F1で観察された形態異常が孫世代(F2)へ遺伝するかを検討した。5月採集の蝶のF1で形態異常を示した各地域の雌と正常な筑波地域の雄とをかけ合わせて孫世代(F2)を作成した。 
 
 なお、形態異常は、①前(はね)のサイズの縮小(成長の抑制)、②翅裏にあるカラースポットのサイズ、配列、③翅の形,折れ曲りやしわ、一部欠損等、④肢の形、節の数の異常、⑤触覚の形と大きさ、⑥複眼の形やくぼみ、⑦口や下唇鬚等の付属器官について、目視と顕微鏡を用いておこなった。検定は二人で行い、同意出来た観察結果のみを採用した。
 
 結果1:2011年5月は越冬幼虫からふ化した一世代目の蝶の成虫を、9月は4〜5世代目の成虫を観察したことになる。表1は5月と9月の世代を追って形態異常の割合を比較したものである。
           
        表1 全体を通しての形態異常の割合
  世代        採集 2011年5月       2011年9月
  親(P)                      12.4%                    28.1%
   子ども(F1)                  18.3%                    60.2%
    (F2)                     33.5%                    NT
NT, not tested. 9月採集の蝶からのF2作成と結果は示されていない.

1.  各世代における異常率はそれぞれの意味が異なるため単純に比較することはできないが、5月では、異常率がPF1F2 と世代を経るごとに増加し、孫では親の2.5倍となった。P世代における異常率では、地点別に大きく異なりばらついていたものが、F1では発電所からの距離に反比例する形で統制が取れてくる(supplementary tableを参照)。F1におけるこの傾向は5月、9月共に同じであり、さらに、9月のPでは採集場所の地面の放射線量に比例して異常率が上昇する傾向が見られた。これは、P世代では野外で採集される個体は、比較的軽傷な個体のみ(重度な個体は生存できないため)であるのに対し、F1では被曝個体が潜在的に持つ生殖細胞における異常が表現されるためであると考えられる。さらに、F1F2間での形態異常に高い類似性が認められた。加えて、PF1で見られなかった形態異常がF2で出現したことは、世代を追って変異が蓄積して起こることが示唆された。

2.  4~5世代経過した9月では、異常率は5月の2倍以上に増加し、さらにそのF160.2%5月のF2の約2倍と極めて高い。9月に採集された蝶の世代は、汚染されたカタバミを何代にも渡って餌として生存して来た蝶の子孫であることから外部被曝よりも内部被曝による影響が強いからかと考えられる。
以上から、福島地域のヤマトシジミで観察された形態異常が3世代に渡って雌の生殖細胞を介して遺伝的に受け継がれることを示している。

 このことを実験的に確認するために、著者等は外部被曝と内部被曝を実験室で試みた。
  
 方法2:実験には福島第一原発の事故の影響が殆どないと考えられる沖縄地域のヤマトシジミと餌も沖縄産のカタバミを使用した。雌のプールから集めた幼虫200匹から、150匹を照射用、50匹を非照射用のコントロールとしプラシチックコンテナーに入れた。
 
 セシウム137による外部被曝には線源として137CsCl(14.3 MBq)を用い、180~280時間または177~387時間照射した。積算被曝線量はそれぞれ3~55 mSv (最大 0.20 mSv/h)57~125 mSv (最大 0.32mSv/h)であった。
  
 内部被曝実験のソースには、2011年の7〜8月に福島県の4つの地域(福島市、広野町、飯舘町の山間部と平野部)から採集したカタバミの葉を用いた。コントロールとして山口県宇部市産の葉を使用した。卵から幼虫の1~2齢期までは沖縄産のカタバミで飼育した後、各汚染地区と宇部市産由来のカタバミの葉の上に移し飼育した。尚、葉に含まれる放射線量は、乾燥後の葉をホットプレート上で灰にした1.60 gの灰のβ線量をcpmとして測定した。cpmはベクレルに換算し、葉の重さ当りの灰の割合からキログラム当りの葉のベクレル数を算出した。
   
 外部及び内部被曝させながら幼虫や蛹を飼育し生存率を調べ、羽化した成虫の形態異常を調べた。
 結果2:野外で採集した蝶と同様の形態異常前翅のサイズの縮小、目、触覚、カラースポット等の異常が両被曝で確認された。内部被曝実験では、蛹の死亡率やカラーパターンの異常率がセシウム137の量と相関した。
 非照射に比べて両被曝とも異常発生率が約倍高い(表2)。内部被曝の方が外部被曝より影響が強いようだ。

表2. 外部被曝・内部被曝実験による沖縄産ヤマトシジミの異常発生率
    非照射                 16.7%
       外部被曝                31.7%
         内部被曝                39.6%
 
 外部被曝よる死亡率は線量に依存し増加し、55 mSvでは20%125 mSvでは40%だった。55 mSvでは主に幼虫期に死亡し、125 mSvでは幼虫期に加え、蛹期間と羽化時に死亡した。
 福島市産と飯舘産の葉を食べたことによる内部被曝による成虫の死亡率は50%、広野産では30%といずれもコントロールの宇部産の5%より有意に高かった。
 
 以上の結果から、実験室においてもフィールドで観察された形態異常が再確認されたことから、福島原発周辺の7つの地域でのヤマトシジミの形態異常や死亡は、原発から放出された放射能により誘導された遺伝子変異が生殖細胞系を介して世代に受け継がれ蓄積し、多重変異の結果として生じる可能性を示唆する。
 
 一般には、劣性遺伝子の変異が表現型として現れるには2つの相同遺伝子の両方に少なくとも2回以上の変異が必要であると言われている。チェルノブイリ事故後、奇形発症率が2〜3世代となるにしたがって高くなるという事実はこのことと対応する。
 
 ベラルーシの遺伝学者ローザ・ゴンシャローヴァは事故後のハタネズミの調査から、遺伝的変異が22世代に渡って受け継がれ,代を追うごとに悪影響が増すことを報じた。それが染色体の安定性に関与する遺伝子群の多重変異による染色体不安定性の増加によるものか分子レベルでの解析が期待されたが政府の圧力により研究は中止させられた。
 メラーとムソー等はチェルノブイリ原発周辺のツバメの生殖細胞に異常を見いだし、個体数の減少や形態異常と相関することを報告した。
  
 ショウジョウバエのBar遺伝子変異と酷似した複眼の形態異常をヤマトシジミで論文著者達は観察している。Bar遺伝子は昆虫では良く保存されているので、ヤマトシジミでのBar遺伝子様の同定をおこない、さらにボデープラニングに関与するホメオテック遺伝子等の解析をおこなうことにより、ヤマトシジミでの形態異常の本質に迫ることが期待される。
 
 福島産ヤマトシジミで前脚の片方が雌でもう片方が雄の雌雄同体の変異体が見つかっている(論文の著者の1人の野原氏私信)。ホットスポットが見つかった柏市から北東に20キロに位置する茨城県牛久市の雑木林で雌雄同体のノコギリクワガタが2012年6月発見された(日経新聞 2012.10.7)。角は雄、前脚、胴体、腹部、そして生殖器は雌であった。
 飯舘村北部山間部のコオロギは4000 Bq/kg、本宮町で採取されたイナゴでは、72 Bq/kgのセシウム137が検出されている。 政府は岩手、山形、群馬の3県のクマの肉と、栃木県永野川の天然ヤマメが国の基準値(1キロ当り100Bq)を超えるセシウムを検出し出荷停止を各県に指示した(2012年9月10日政府発表、日経新聞 2012.9.11)。生態系に内部被曝が拡大している。
 
 放射能汚染が日本中に広がらないうちに正常なヤマトシジミのサンプルを収集しゲノムを解析し,変異体のゲノムとの比較検討が期待される。

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以上引用。以下は梶村。

筆者紹介:

大和田幸嗣(おおわだ こうじ)
1944年秋田県生まれ。横浜市立大学卒業。大阪大学大学院理学研究科博士課程修了。理学博士。大阪大学微生物研究所勤務。4年間西ベルリンのマックス・プランク分子遺伝学研究所で研究。1989年から2010年、定年退職まで京都薬科大学生命薬学研究所教授。専門はがんウイルスと分子細胞生物学。Srcがん蛋白質の機能と細胞周期制御。

この氏の経歴は、最近のこの共著
→『原発問題の争点』から引用しました。

大和田氏は本書では第一章「内部被曝の危険性/チェルノブイリの教訓からフクシマを考える」でチェルノブイリ事故に関する広範な研究を専門家の立場から細かく評価紹介されています。
わたしたち一般市民にとっては難しい部分もありますが、非常に参考となるまとまった論文です。じっくり読めば大変な勉強になります。本書の他の専門分野の方々の寄稿も力作ばかりですのでお勧めしておきます。
読んでいて、チェルノブイリの事故の後にドイツの母親たちが、同じように良心的科学者の論文を必至読み、講演に押し掛けた頃のことを思い出しました。また昨年末亡くなった東独の女性作家クリスタ・ヴォルフさんが遺された、その時の体験を描いたすぐれた文学作品のことも思い出しました。これについては昨秋にここでも紹介しようと考えたのですが、時間が無く果たせないでいます。いずれまた。
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10月30日追加です。 

このヴォルフさんの作品については、ブログでも今年の4月に少し触れていたことを、ある人から指摘されました。 

→みどりが爆発している  

いやはや、ボケていますね。すばらしい小説です。


2012年10月26日金曜日

122:福島近海の魚の高度放射能汚染は納まらない/英『サイエンス』誌/追加情報:来月東京でシンポジウム

 本日発売の英国『サイエンス』誌で、アメリカの海洋研究者が「福島近海の魚介類の放射線汚染は低下することことなく継続しておりこの状態は何十年も続くであろう」との研究が公表されました。欧米のメディアも大きく報じています。
-->Jack Cook, Woods Hole Oceanographic Institution
 これは同研究の日本農水省のデーターによる近海の魚介のセシウム汚染図です。







原文のありかといくつかの報道を挙げておきます。

*原文:『サイエンス』誌→ -->Fishing for Answers off Fukushima ,Ken O.Buesseler

*英BBC News-->Fukushima fish still contaminated from nuclear accident

     
 *独「シュピーゲル」誌-->Fukushima-Fischestrahlen noch immer

*米ブルームバーグ 日本語版 --> →福島沖で漁獲された魚、汚染レベルは1年前と変わらず-調査

福島沖で調査するケン・ブッセラー氏。シュピーゲル誌電子版よりWHOI/Ken Ostel

 上記の報道によれば、アメリカのマサッセチュー州のウッズホール海洋研究所の研究員ケン・ブッセラー教授はフクシマ事故から一年以上経た今年8月までの、主に日本の農水省の調査結果からも、海底近くに生息する一部の魚の汚染値は一年前から低下せず、いまだに高いことが証明でき、この状態は数十年も継続して納まらないであろうとしています。

シュピーゲル誌電子版に対して、ブッセラー氏は 一部の魚の高汚染値に関して「汚染値は全く低下していない」「普通には魚は摂取した放射線物質を毎日数パーセントづつ排泄するはずだ。ところが明らかに新たに放射能物質を摂取し続けている」、農水省の調査値を疑う必要は無いとした上で、一年前の汚染値との比較から言えることは「原子炉からいまだに汚染水が海に放出されており、もう一つは海底を汚染している放射性物質が持続して海水を汚染し続けていると解釈できる。」と答えています。
  -->
"Die Werte gehen einfach nicht zurück", sagt Buesseler im Gespräch mit SPIEGEL ONLINE. Normalerweise sollten die Fische die strahlenden Partikel ausscheiden, ein paar Prozent pro Tag. Doch offenbar nehmen die Meeresbewohner auch ständig neue strahlende Teilchen auf.
Es gebe aus seiner Sicht keinen Grund, an den Messungen der Japaner zu zweifeln, so Buesseler. Man sei außerdem bei eigenen Messungen im Sommer 2011 zu vergleichbaren Ergebnissen gekommen. Die Daten ließen sich nur so interpretieren, dass zum einen bis heute strahlendes Wasser aus dem Reaktor ins Meer laufe - und zum anderen verseuchter Meeresboden die Teilchen permanent ins Wasser abgebe. "Beide Prozesse laufen parallel ab", sagt Buesseler.


この調査研究に関するわたしの感想ですが、フクシマ事故は継続中で全く収束していないことが、これでも証明できるということです。

日本の大メディアはここでもあまり採り上げないでしょう。キールの海洋研究所の→太平洋汚染シュミレーションに関する報道はゼロでしたし(そのためかこの項のアクセスは20000近くになっています)、沖縄大学の→ヒバクチョウ遺伝異変の研究は、きっちり報道しないままです。日本語での詳しい速報は我がブログだけとは情けない。

これら貴重な学術研究には見ざる言わざる聴かざるの三猿を決め込み、iPS報道で競って誤報するメディアなど迷惑なだけです。将来を見通すことなど思いもつかないのでしょう。
彼らの堕落と無能力はホントに極限状態です。泣けてきます。

(追加情報)
なお、上記BBCの報道によれば、ブッセラー教授は来月11月12日から14日に東京の東大海洋研究所で行われる海洋研究のシンポジウム(→日本語情報)に参加し、そこで彼の最新の考えを述べるとのことです。
特に最終14日のパブリックコレキュウム(→日本語情報)では、事前登録すれば一般の市民も参加し質疑応答ができるので、 心ある学者とメディアの皆さんはもとより、一般の市民のみなさんも注目して下さい。ネイチャー誌の方による「報道の役割」についての講演もあります。

いずれにせよ、フクシマ事故で排出を止めることができない放射性物質が太平洋全体を長期的に汚染し、食物体系で人間も含めたあらゆる生物に取り返しのつかない悪影響を及ぼすことはもはや避けられません。
せいぜいできることは、出来るだけ早期に原子炉を封じ込め放射能物質の垂れ流しを止めること(これは東電だけの能力ではとうてい無理です。国家管理で全力で取り組む必要があり、それは国家の焦眉の義務です)と、予想できる環境汚染に対する厳重な対策だけです。除染できるのはほんのわずかな部分だけで、その大半は時間と金の無駄です。

次回は、ヒバクチョウの研究の解説を紹介します。

2012年10月20日土曜日

121:白ネコでも黒ネコでも脱原発法支持は良いネコ/小沢一郎氏と河合弘之弁護士のドイツ視察・その2/追加・「一郎くんを見直した」関連記事紹介

その2:脱原発法の鈴をつけた国会議員のベルリン視察訪問
日独国会議員会談の日、国会前広場の紅葉。奥はポツダム広場の遠望。10月18日。
さて、昨日の続きですが、まずは二枚の写真をご覧ください。今週明けのベルリンの天気は、気温も下がり悪天候でしたが、「国民の生活が第一」の小沢一郎氏らのドイツ脱原発視察団が到着した日から好転し、二日目の昨日はご覧のように、ドイツ語で「黄金の10月」と呼ばれるにふさわしい紅葉が政府中枢の広場でも堪能できました。このような好天には、ほんの数日しか恵まれません。
ドイツ国会議員と会談を終えた小沢氏と河合氏の満足感が見えます。
10月18日の午後、連邦議会環境委員会の委員長らと議員会館で会談を終えた5名の訪独団のみなさんには、ドイツでは脱原発促進政策だけではなく、文字どおり天も味方したかのようです。気温も18度まで上がり、コートも不要なほどでした。

小沢一郎氏の紹介は必要ないでしょうが、訪問団に参加している河合弁護士は、フクシマ事故後に脱原発弁護団全国連絡会を呼びかけ代表となり→脱原発全国ネットワークでは、先月、会期末の国会に提案され継続審議となっている脱原発基本法案を海渡雄一弁護士らとともに超党派の国会議員を巻き込んで市民議員立法として作り上げた、日本の筋金入りの反原発弁護士の代表格であることを、あらためて強調しておきます。

以下10月17日、18日のベルリンでの様子を、多くの日程の中から拾って、重点的に写真で紹介します。


17日の太陽光発電施設の視察


視察第一日目のこの日は、正午、アルトマイヤー環境大臣との会談(これは日本からの随行記者皆さんがすでに報告している通りです。ケチくさく、けしからんことに会談本体には日本大使館関係者だけが傍聴し、記者団は会談前後のぶらさがりの取材しか出来ませんでした。今度アルトマイヤー大臣に合う機会に苦情を言っておきます)を終えた午後、ベルリン近郊の昨年末に完成したばかりの太陽光発電施設を視察しています(前項のその1の冒頭の写真がそれです)。
施設に着いた両氏。
ここの施設は、ベルリンのシュパンダウ地区の郊外にある有限会社→Saferay社が、昨年末に約2ヶ月の工期で建設しています。同社は2010年から世界中に太陽光発電施設を建設している新しいベンチャー企業のひとつです。

 会社の目的としては、ドイツではエネルギー促進法(EEG)で再生エネルギー施設の建設営業には国からの援助特典があるが、それが消失するのを待つ前に、援助なしで自社投資だけで採算が取れる施設を実現しようとすることにあるとのことです。つい最近にはこの部門の商敵である中国にも進出しているとの説明がありました。

 さてここの施設は、1930年代には、世界一周した気球船ツェッペリンの飛行場であり、戦後はベルリンの壁に沿った旧東ドイツの軍事境界線緩衝地帯となったため、壁崩壊後も空き地であったところを利用して建設されています。今でも滑走路跡が残っているとのことです。そこは雑草が生えにくいのでありがたいとのことでした。
日本大使館の広報担当官もメディアの多さにびっくりしていました
この発電施設の発電能力は21メガワットで、太陽光モジュールはドイツのキューセルズ社のものです。小沢氏と河合氏の発電能力に関する質問への答えでは、このモジュールは太陽光の強い例えば南米のチリでは北国のドイツの2.5倍ほどとなり、日本ではそのおよそ中間ほどでしょうととの説明がありましたが、ここでは正確に通訳されていませんでしたので補完しておきます。

広大な施設を見学したあと、記者団のインタッヴューが始まったとたんに、薄曇りの間から陽が射し始めました。
小沢氏はどうやら陽のあたる人物のようです。
質問に答えて「日本では太陽光発電も良いですが、 わたしの地元の岩手でも温泉地の地熱発電がドイツよりもはるかに有望だと思います」などと良いご機嫌で答えていました。

わたしはこの人物に初めて合ったのですが、タフです。日本との7時間の時差など無かったように昨夕に到着したばかりのこの日も、早朝からベルリンの中心を一時間ほど散歩したとのことです。
消費税が原因とはいえ、脱原発でももたつく民主党を割って新党を結成 し、脱原発の旗を揚げて、河合弁護士らの能力に注目して脱原発基本法案の国会提案に飛びついた政治感覚はなかなかのものです。ドイツを視察して、脱原発構想が夢想ではないことを実感すれば、間違いなく増々タフになるでしょう。


ついに陽の当たる河合弘之弁護士
河合弁護士といえば、このブログでも早くから紹介しましたが、何度も日弁連環境部会のドイツ視察でお会いしています。
ずいぶん前からわたしは通訳もかねてドイツの初期の太陽光発電や、最新の原発の視察につきあったものです。

今回の訪問の連絡が事務所から あったので取材に出向きましたが、この日も施設の入り口を小沢氏と並んで入って来たとたんに、わたしを見つけてカメラの放列の前で「やーやー、梶村さん」と走って来て握手されたり、国民の生活が第一の副幹事長の松崎哲久衆議院議員には「この人はドイツの脱原発の生き字引だから」などと大げさに紹介されたりして、何度も面食らわせられました。これには、お互いに何十年も前からの高木仁三郎学校の生徒であったことが背景にあります。
  高木氏から学んで、何十年も原発差し止め訴訟で敗北に敗北を重ねて来た苦労と怒りが、この人物の今日のものすごいエネルギー源です。この日久しぶりに合って、請われて撮った写真は、ドイツの脱原発の「陽の当たる河合弘之」のポートレイトとなっています。このような河合氏の表情は滅多に観られないのではないかとおもいます。

この日、彼がわたしにぶつけた最初の質問は「ドイツ人はどうして反原発意識が強いのか理由がどうもわからない」でした。歴史的背景を説明して「それは二度と故郷を失いたくない。もう一つは二度と加害者にはなりたくないという歴史認識が根本にあるからです」というのがわたしの回答です。これについては→「フクシマが日本社会に問いかけるもの」を参照して下さい。

18日のドイツ連邦議会環境委員会の与野党議員との懇談。

二日目はドイツの商工会議所などとの懇談がありましたが、ここでは議員会館で行われた、ドイツ連邦議会環境委員会の与野党議員との懇談を取り上げます。
この模様は一時間足らずの短いものでしたが、記者にも公開で、ありがたいことにIWJで 平山茂樹さんが実況中継されており、録画も観ることができます。二つにわかれていますが録画は→こことここです。 長いものではないので是非ご覧くださり、ネットで拡散して下さい。平山氏は残りの南ドイツでの視察も中継録画されるようです。感謝します。

ここには緑の党の代表委員としては、もちろん前項でも紹介しましたようにバーベル・ホェーンさんが話しています。この会談での彼女の特に大切な発言は、ドイツでは再生エネルギー促進で、発電主が大企業の独占体制から、発電の民主化の実現として地方自治体と市民の手に徐々に移行しつつあるとの指摘です。今では風力や太陽光発電の普及で、発電主が全国で100万人ほどになっており、その11%が農民である。このようにして地方経済の活性化に有効である、との指摘でしょう。

 この日の通訳の女性は非常に優秀な方ですが、朝からの疲れもあってか、日本を良く知っているホェーンさんが「Atomdorf=原子力村」という日本語のドイツ語直訳を使った時にとまどっておられました。原子力村はいまや日本の原子力ロビーの代名詞として世界中に知られているのです。
議員懇談を終えて。国民の生活が第一訪問団4名のみなさん。右が松崎哲久議員。背景は国会議事堂。


 さて、懇談を終えた小沢氏に、感想を聞くと「日本では期限を決めた脱原発政策を持っているのが我が党一つだけであることにドイツの議員さんは驚いていたようだ」との感想でした。議員会館前でのインタヴューでは、会談で出された日本の増加するプルトニウムの問題に関しての質問に対し「原発を維持してプルトニウムを保持することが日本の抑止力となるとの主張があるが、内外に余計な誤解を生むだけであるから、そんなこことは発言すべきではない」との旨の返事がありました。
これは正論であり、わたしも全くその通りであるとおもいます。最近のこの手の発言は、ドイツのメディアでも極右政治家の本音として報道されています。日本を危険視しているのは決して中国、韓国などアジア諸国だけではないのです。
このような小沢氏の表情は珍しいでしょう。

終わりにドイツの日本人記者の長老である永井潤子記者が、ベルリンの印象を尋ねますと、「緑が多くて本当に奇麗ですね」と破顔一笑され、翌日から南ドイツへでの視察のため空港へと一行は向かいました。

 そこでは、廃炉が決定し稼働中止したの原発と、再生エネルギーで電力の自給自足を実現している自治体を視察する予定です。

 この訪独団は日本の圧倒的多数の願いである河合弁護士らの苦心による 脱原発基本法という希望の鈴を進んで身につけて実現しようとする日本の政治家の方々です。
80%の市民が脱原発を支持し、再生エネルギーで持続可能な社会を実現しつつあるドイツの現場を訪れて、この構想の実現こそが危機にある日本が立ち直る、最善で最短の道であることを小沢氏らは確信されるでしょう。
また、ドイツでは、大飯の再稼働にもかかわらず、日本がドイツを追い越してもっと早期に脱原発を実現するのではないかとの見通しもあることを皆さんに伝えておきました。知日派のドイツ人は日本人には思いがけない能力があることもよく知っているのです。

日本の皆さん、白ネコでも黒ネコでも脱原発法を支持するネコは日本を救う良いネコです。近いうちに、おそくとも来春あたりには総選挙があるでしょう。市民の力で政治家たちに脱原発基本法という鈴をつけて回りましょう。国会議員の過半数が鈴をつけるか否かに日本社会の将来はかかっています。

河合弘之弁護士の名刺には彼の信条として以下の言葉があります。

気宇壮大
本気ですれば大抵のことができる
本気ですれば何でも面白い
本気でしていると誰かが助けてくれる

これは1944年に中国で生まれ、敗戦の引揚者として生き延び、その原体験から弁護士として1250人の中国残留孤児の日本国籍取得を実現した実績のある人の信条です。
ドイツ市民が敗戦による領土喪失と故郷追放の体験から反原発の意思を固くしていることは彼には実感としてよく理解できるでしょう。おそらく二年若い戦後生まれのわたし以上に。

(お断り:写真はすべて梶村の撮影です。転載ご希望の際はお申し出下さい。無断転載はお断りします)

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(10月28日)「一郎くんを見直した」関連記事を追加して紹介します。

 上記にもお名前がでてきますが、 ドイツ在住の日本人記者長老の永井潤子さん(元ドイツの海外向け国営放送DWの日本語放送の記者)が、ベルリン在住の「魔女」たちと立ち上げた「みどりの1Kw」での寄稿で→「小沢一郎氏のドイツ訪問」を本日、大変丁寧に報告されています。是非お読み下さい。
ラジオ放送の記者であったこともあり、写真に慣れていないので写真はわたしの撮ったものを提供しました。 面白いのはベルリンの記者たちは誰でも知っていることなのですが、彼女はその昔、東京外大のドイツ語科学生のころ、小沢氏のお姉さんの家庭教師をしており、そのころ岩手から東京に出て来たばかりの「中学生の一郎くん」を知っていることです。世の中悪いことは出来ませんね。幸い、この寄稿で永井さんは「一郎くん」を見直したようです。

この記事と比較すれば、この視察に随行して来た「小沢番」の永田町記者たちの報道が、小沢氏から日本の政局の話しばかり聞き出し、それを記事にすることににしか主な関心がなかったことが明らかです。
いつも永田町の特に政治部の記者たちの、内向きな視野の狭さと、世界情勢への無知(ここではドイツの脱原発情勢への無関心と無知)にはあきれ果てます。

ここでも顕著になったことですが、日本の政治家の質の低下をもたらしている大きな責任のひとつが、記者クラブという井の中の蛙(カワズ)記者たちにあることが証明できます。このような報道しか出来ない記者たちを随行させるのは時間と経費の無駄遣いそのものです。
いったい何をしにエッチラ、オッチラ、ドイツくんだりまでついて来たのでしょうか。永井記者の報告を拳拳服膺して恥を知るべきでしょう。わたしに時間があれば、個々の報道を検証して槍玉に挙げて批判したいところですが、そうされる前に自ら検証して、あなたたちの記事と、それでよしとするデスクのナサケナさを自覚して下さい。
それもできなければ、日本の新聞テレビが市民からますます見放されるのは、ことの必然です。事態はホントに深刻です。
 他方で、今回の経験で小沢一郎代表以下「国民の生活が第一」のみなさんも、永田町のドブ板記者よりもソーシャルメディアの記者を優遇する、少なくとも対等に処遇することを徹底すべきです。それでないと民主党同様に政治生命が絶たれることを自覚して下さい。