2012年6月25日月曜日

97:「世界市民の声」その2:「アメリカは何をためらっているのか」松村昭雄、「独立した査察評価の必要性について」G.トンプソン

「世界市民の声」のその2弾として、これも大沼安史氏がブログで英語原文を翻訳して紹介されている二つを紹介させていただきます。転載を許して下さった筆者の松村氏、訳者の大沼氏の両氏にまずお礼申し上げます。

元国連アドバイザーの松村昭雄氏が、特にフクシマの危険性を警告し、先の6月11日に氏の英文プログに投稿され、世界中で大きな反響を起こしている呼びかけ「米国政府は何をためらっているのか?」と、それに対するアメリカの原子力技術の専門家であるゴードン・トンプソン氏の18日付同ブログへの回答です。
このお二人の「対話」を読めば、日本のフクシマを巡る世界中での懸念がどれほどのものであるのかが理解できるはずです。

わたしのブログでも紹介した→「日本の核の男爵・中曽根康弘氏 」が首相時代に唱えて実現しようとした「不沈空母」である原子力大国日本は、フクシマ事故で船腹中央に魚雷を喰らっており、放置すれば核兵器数百発分の放射性物質を地球上に流出させる危険が日々続いているのです。このままでは、日本が自爆して沈没するだけでなく、人類史最悪の核汚染が防げなくなります。
これは、杞憂ではなく事実です。野田政権に対処する能力がまったくないことも世界中は認識しています。

訳者の大沼氏は→ブログで次のように書いています。わたしも全面的に賛成です。

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今、死活的に最も重要なことは、世界破局要因であるフクイチの現在進行形の危機を、どう抑え込むかということと、そのための実情の把握である。いつまでも脅威を隠蔽し、矮小化していてはならない。「事故調」の次は「実態の調査」だ!
 世界を、人類を、地球を救う……これは大袈裟でもないでもない、私たちに与えられた最大の課題である。「フクイチ対策国際調査委員会」を、日本のリーダーシップで早急に立ち上げなければならない。


以下引用します。
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   米国政府は何をためらっているのか?
       2012年6月11日 
        松村昭雄
   原文→ (What Is the United States Government Waiting for? )
           大沼安史 訳 


福島第一原子力発電所4号機の倒壊により、世界はどのような破局に直面するか、世界 の科学者たちが次々に意見を述べ、それをネットで掲示する事態が続いています。そこで 発せられたメッセージはシンプルで明確なものです。日本政府が自ら、解決に動くことは ない。米国が前に踏み出すしかない――しかし、動きは、まだ何も出ていません。 

野田、オバマ会談
 →村田光平・元スイス大使による、参議院公聴会での意を決した訴えと、ロバート・アル ヴァレズ氏による、フクシマにチェルノブイリ事故の実に85倍ものセシウム137があ るという、すでによく知られた推定値を紹介した本ブログの記事を、100万人もの日本 人が読んだと知って、私は驚きました。記事は世界176ヵ国の人びとによって読まれ、 村田大使とロバート・アルヴァレズ氏の警告は、多くの国々のネットや活字メディアで引 用されて来ています
 
 しかし、こうした世界規模の懸念にもかかわらず、日本政府が、フクシマ・ダイイチで 高まる危険に取り組もうとしているとは到底、見受けられません。状況がいかに危険なも のかを伝えるため、私はこの4月、日本政府や自民党の指導者たちと会うべく、日本に飛 んだのです。村田大使と私は、官房長官の藤村氏と会いました。藤村長官は私たちの訴え を、4月30日のオバマ大統領とワシントンで会談する野田首相に、その出発前に伝える、 と確約して下さいました。
 けれど、とても残念なことに、フクイチに対する独立した査察チームの派遣と、国際的 な技術支援を受けいれるアイデアは、公に語られることはありませんでした。
 私はまた、日本の政治指導者の多くが、東電から何も聞かされていないため、世界破局 の恐れに気づいていないと聞いて、ショックを受けたのです。
 私は彼らのものの考え方を、なかなか理解することができませんでした。フクシマ事故 が引き起こした結果を評価し、それに対処するのに誰が最もふさわしいかを判断するために、どうして日本の政治指導者たちは、ひとつのソース(それも明らかに、利害の衝突が 内在する)に頼っているのか? この近視眼の結果、日本の指導部は状況の像をハッキリ 見ることができず、日本の国と日本の人びとをどこに追いやろうとしているか理解できな くなっているのです。
 フクシマ・ダイイチが、現時点において、科学者の誰もが解決策を持ち合わせていない 巨大な危険であり続けている理由を、ここで簡潔に述べたいと思います。
以下に掲げる事故がひとつでも起きたら、フクシマ・ダイイチの全域に対して深刻な危 険を及ぼします。 

 1)1、2、3号機では完璧な炉心溶融が起きています。日本の当局も、核燃料が圧力 容器の底を抜けてメルトスルーしている恐れを認めています。この結果、意図せざる再臨 界(連鎖反応の再開)、あるいは強烈な水蒸気爆発も起きかねないとの観測も出ています。 そのどちらが起きても、環境に対する放射性物質の大放出を引き起こしかねません。
 
 2)1号機と3号機からは、とくに強烈な放射能が発生しており、近寄れない場所にな っています。このため、フクシマの事故発生以来、いまだに補強工事は行なわれていませ ん。強い余震の襲われた時、耐えることができるか、定かではありません。 

 3)損傷した各号機に、当座の措置として設置された冷却水の管は、瓦礫や破片の間を くぐり抜けています。防護されておらず、ダメージにはとても弱いものです。このため、 核燃料の過熱させる冷却システムの停止につながり、さらなる放射性物質の放出を伴う核 燃料の損傷、新たな水素爆発、あるいはジルコニウム火災や使用済み核燃料プールにおけ る溶融さえも引き起こしかねません。 

 4.)4号炉の建屋および骨格は重大な損傷を受けています。4号機使用済み核燃料プ ールは総重量1670トン、それが地上100フィート(30メートル)の高さにあり、 しかも外壁のひとつは外側に撓んでいるのです。もし、この4号機プールが倒壊したり水 が抜けたりしたら、強烈な放射能の照射で、原発敷地の全域が立ち入りできなくなります。 フクシマ・ダイイチには、全ての核燃プールを合わせると、チェルノブイリの85倍もの セシウム137が貯蔵されているのです。

 以上、いずれの事態が起きても、フクシマ・ダイイチの全域に対して重大な結末をもた らし得るわけです。

 日本政府は人びとの求めやメディアの圧力で、5月26日、環境相であり原発担当大臣 である細野豪志氏を4号機に派遣しました。細野氏は、半時間、4号機の仮設階段の上で 過ごしました。そして驚くなかれ、核燃プールの下支えは大丈夫なようだ、と断言したの です(かくして、私たちが言い続けてきた、独立した査察チームを入れよ、とのリクエス トは、たったの30分間で、ものの見事に達成されたわけです。ありがとう、日本!)。細 野大臣はまた、4号機は震度6の地震にも耐えられると記者会見で発言しました。大臣が どうしてこんなことを言ったか、私には理解できません。日本の地震学者たちが今後3年 以内に90%の確率で震度7の地震が日本で起きると予測していることは、私たちが警告 しているところであります。 

 細野大臣は、震度7の地震は想定外だと言い訳の道をつくっているのでしょうか? 

 日本の政府は、こうしたパフォーマンスを真に受けるほど、人びとは愚かであると考え ているのでしょうか? もしも彼らがそれほどに厚かましくあるのなら、それは恐らく、 日本のメディアは自分たちの思い通りに報道するものと心得ているからでしょう。これが もし、ありきたりのことであれば、私としても、政治的なパフォーマンスと見なし、無視 することができるかも知れません。しかし私たちはいま、人類がこれまで経験したことの ない世界破局について語り合っているのです。「腹立たしさ」そして「失望」という言葉に、 日ごと新たな意味が追加されています。

 そこで私はワシントンに行くことを決意しました。かつて国連で知り合った旧友の、退 役した米陸軍中将に会い、国際的な安全保障上、フクシマがいかに緊急の優先事項である か、それがどれほど米国の即時行動を必要とするものなのかを訴えることにしたのです。 

 旧友の退役陸軍中将は私の意見に同意しました。彼もまた、フクシマについて、今すぐ、 行動が必要であることを非常にハッキリ、見てとったのです。同時にまた、関係するはず の当事者全員の動きが、どうしてまたこうも鈍いのかと当惑もしていました。

 事故からすでに1年と2ヵ月が過ぎ、米政府がなおもためらい、待ち続けていることは 不思議なことであります。4号機の査察は、優先されるべき国家安全保障上の問題です。 この14ヵ月の間、何事もなかったことは、ただただ幸運だった、に過ぎません。そして、 この重大な挑戦に立ち向かうかどうかは、あらゆるオピニオン・リーダーにとっての試金 石であります。しかし、今のところ、その挑戦に立ち向かってはいません。私はこれから の14ヵ月について、またも幸運に頼ることはできないと思っています。 

 私はワシントンで、親愛なるボブ(ロバート)・アルヴァレズとも会い、数時間にわたって話し合いました。私は彼に、フクイチにおけるセシウム137の貯蔵量を算出してくれ たことに感謝しました。単純明快な数字で示してくれたおかげで、この問題に対し、一般 の人びとが関心を寄せるようになったからです。アルヴァレズ氏はこう言いました。フク シマの4号機には、チェルノブイリの10倍のセシウム137がある、というのは低い見 積もりだが、科学的な反論は浴びずに済む。チェルノブイリの50倍と言えるかも知れな い。ということは、フクシマ・ダイイチの核燃プール全体で、チェルノブイリの85倍の 放出量になるという推定にしても、過小評価に過ぎないと批判されることもあり得るわけ だ、と。 
 そして彼――アルヴァレズは、4号機のセシウムがチェルノブイリの10倍であろうと 20倍であろうと、問題ではない、と言ったのです。とにかく4号機のセシウム137が 引き鉄となって、日本の国土の全域は避難ゾーンと化すことになるだろう。その強烈な放 射能は東アジアや北米に及び、放射性降下物は今後、数百年にわたって滞留し続けること になろう、と。 

 彼は私にこう尋ねました。日本の指導者たちはこのことを理解しているだろうか、と。
 私の答えは「イエス」でした。彼らは頭ではたしかに理解している。ただし、現実的な 感覚としては理解していない。この5年間で6人目の野田首相には、東電以外の、独立し た査察チーム、および国際的な技術支援を求める決断を下すだけの政治な力はない、と。 

 私はアルヴァレズに、日本がその第一歩を踏み出さないことを説明するためにワシント ンに来たのだと言いました。日本の指導部には自ら行動を開始し、政治的に生き残るだけ の力もなければ、次に来ることを思いわずらわず、最初の一歩を踏み出す勇気がない、と。 

 1990年に私たちが開いた「モスクワ・グローバル・フォーラム」のゲスト・スピー カー、ロバート・ソコロウ博士はプリンストン大学の教授(機械・航空工学専攻)です。 そのソコロウ博士が、2011年3月21日付けで、世界的な核問題専門誌、→『核科学者報』 に、こんなエッセイを書いています。 

 私たちは何度も繰り返し、「アフターヒート(溶融核燃料の熾=おき)」というコンセ プトを説明しなければならない。熾とは消すことのできない火。そしてそれは、核分裂 の破片から今この瞬間に生まれ、数週間後にも生まれ、数ヵ月後にも生まれる熱。しか し、この熱はなんとしても取り除かなければならない。ジャーナリストたちは、この「ア フターヒート」というコンセプトを伝えるのに悪戦苦闘して来た。自分たちも、自分た ちが書いて伝えるべき相手の人のほとんど誰もが知らないコンセプトだからだ。
 
 ソコロウ博士の言うように、未知の出来事を前にした政治指導者たちに行動を取るよう に納得してもらうことは、たしかに、とても困難なことです。今回のフクシマの場合、総 選挙のサイクルではとても考えられない、史上空前の破局が提起されているわけですから。 

 同様に私は、外国の指導者たちに対して、何度も繰り返し、日本の野田首相はコンセン サスの作り手であって、リスクをとる人ではない、と説明しなければなりません。彼が、 この4号機核燃プール問題というチャレンジに向き合うことはないはずです。

 だとするならば、答えはひとつ。論理の帰結として、自ずと米国政府が唯一の行動可能 なプレーヤーになるわけですが、なぜ彼らがこの問題に沈黙を続けているか、私としては 理解に窮するところであります。 

 もしも仮に、この世界破局が現実のものになった時、世界の歴史書はこれをどう書き記 すことでしょう? 

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日本の核災害リスク――独立した査察評価の必要性について
          2012年6月18日
ゴードン・トンプソン 「資源・安全保障研究所」常任理事 

原文→
-->Nuclear Risk in Japan – The Need for Independent Assessment

       大沼安史 訳 


 

 親愛なる松村昭雄へ 

 あなたが2012年6月11日付けのブログでお書きになった「米国政府は何をためら っているのか?」に対し、一言述べさせていただきます。あなたのブログは、福島第一原 子力発電所の事故による現下の放射能リスク、とりわけ4号機の使用済み核燃料プールの リスクに対し、正面から取り組むものでした。

 あなたの懸念は、正しい。4号機の放射能リスクは、プールの使用済み燃料の全てが撤 去され、ドライ貯蔵施設に移される日が来るまで、高いまま、推移することでしょう。使 用済み核燃料のドライ貯蔵施設への移管が完了するまでの期間において、リスクを低減す る選択肢は、いくつかあります。しかし、ここで注意していただきたいのは、なにもフク シマ・ダイイチの4号機だけが、高いリスクを抱えているわけではない、ということです。 日本の原子力セクターには、さまざまなリスクが存在している。そして、その一方で、そ れらのリスクを低減する選択策も存在しているのです。

 あなたはフクシマ・ダイイチのリスク、およびリスク低減策を評価する独立的な査察評価を呼びかけました。そうしたアセスメントが適切に行われるならば、それはとても有益 なものになり得ます。これまでの経験からすると、原子力産業や日本政府の主要研究機関 は、4号機のリスクや、そのリスクを低減する方策について、十全なる認識に至っていな いかも知れません。

 これまでさまざまな場所で、原子力セクターにおけるリスク、およびリスク低減策につ いての独立的な評価が行われて来ました。その一例が、1978-1979年に行われた 「ゴアレーベン国際検証」です。その検証に私は、国際的な20人の科学者チームに参加 する特権に預かりました。当時の西ドイツ、ニーダーザクセン州政府が行ったこの国際検 証は、ゴアレーベンに核燃料センターを建設する提案にメスを入れるものでした。検証の 結果、得られたものは、放射能リスクやその他の問題に注意を向けるものになりました。 国際検証はドイツの原子力政策に重大な影響を及ぼしたのです。

 ブログであなたは、米国政府がフクシマ・ダイイチのリスク、およびリスク低減策につ いて評価できるかも知れない、と示唆しておられました。残念ながら私としては、米政府 が、ほんとうに独立的な評価を行うとは思えません。国立研究所など米政府機関のいくつ かは、必要な技術的知識を持ってはいます。しかし、米政府が独立評価を行うとなると、 たぶん、原子力規制委員会に主導的な役割が与えられることになるでしょう。米原子力規 制委は、使用済み核燃料をプールで貯蔵するリスクについては、そのリスクそのものに対 する理解でも、リスクを低減させる行動の面でも、貧弱な実績しか残していません。

 リスク、およびリスク低減策の独立的な査察評価は、日本自身が行い得るものです。市 町村や県、あるいは民間団体が行うこともできるでしょう。その場合、国際的な専門家、 および日本国内の専門家たちも加わって行われなければなりません。日本には、有能な専 門家がたくさんいる。このことを明記するのは、重要なことです。日本の原子力関連機関 は、さまざまな点で不十分なところがありますが、専門家個人のレベルでは、有能かつ客 観的な能力の持ち主に欠ける、ということはありません。 

  今後とも、どうか、よろしく 
 
    ゴードン・トンプソン

ゴードン・トンプソンはマサチューセッツ州ケンブリッジの→「資源・安全保障研究所 の常任理事であり、同州ウースターのクラーク大学「ジョージ・パーキンス・マーシュ研 究所」の上級研究員を務めてもいる。

96:「世界市民の声」その1:「セシウム街道をゆく」西鋭夫


かつてドイツの哲学者エマニエル・カントが『永遠平和のために』で「世界市民」という概念を出しましたが、彼がこの言葉を初めて使ったのはかなり古いことだという研究も最近の→『世界市民の哲学』(現代カント研究会)掲載の論考(伊藤貴雄「カント世界市民論の成立原点」)でも知るところです。
ところが3・11以来、日本ではもうひとつ間違えば、国が滅亡して→「昔東方に国ありき・・」となることが間違いない開闢以来の危機が進行しているにもかかわらず、日本社会の内外からのそれを懸念する「世界市民の声」がなかなか聴こえてこないことが、大きな問題のひとつです。すなわち日本の知力の貧困こそがここに至たらす根本的原因である思っています。日本の市民の真実の声が伝わり、世界中に反響を呼び起こす知力こそが要請されています。
そんな中で、この貧困と戦い続けている大沼安史さんが、グログ「机の上の空」で、素晴らしい「世界市民の声」の翻訳を公開(pdf)されています今回はすでに4月6日にスタンフォード大学のフーバー研究所のサイトに公表された同大学の→西鋭夫教授の寄稿→「セシウム街道をゆく/On the Cesium Road」の日本語訳全文を紹介させていただきます。
快く掲載を許してくださった筆者の西鋭夫、ベテランの翻訳者でもある大沼安史の両氏にこころから感謝申し上げます。
以下転載です。
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  「セシウム街道をゆく」
                              2012年4月6日
      スタンフォード大学教授 西 鋭夫
                       大沼安史 
 
 
〔訳者注:本エッセイの初出は、著者の所属する米スタンフォード大学フーバー研究所の「フーバー・ ダイジェスト」への掲載。日本語訳タイトルの「セシウム街道をゆく」には、あの司馬遼太郎氏の「街道 をゆく」が含意されている。本文をお読みになれば分かるように、著者は、福島の風土・山河をセシウム まみれにした原発事故に憤り、日本の行く末を案じている。フクシマから続く「セシウム街道」は、やが ては「核の冬」に直面する厳しい道程である。それでも私たち日本人は冷静さを失わず、歩き続けなけれ ばないし、歩き続けることができる――と、著者は私たちを、励ます〕


日本人は怒りを覚えている。なおも、ないがしろにされていると。放射能と官僚制の囚 人として。

一年以上もの間、私は日本政府と東電が、耐えがたいものに耐え、昨年春の地震と津波 が引き起こした、あの息をのむような破壊の修復にとりかかる勇気を振り絞ってほしい、 と願い続けて来ました。しかし、よりよい明日は、視界の先にはありません。死の沈黙が、 フクシマの寂寥とした山河を包み込み、セシウムまみれの道が続く、長い、北日本の海岸 線を覆い尽くしているのです。

日本政府は無能と機能不全を、ますますさらけ出しています。東電は保身のタコ壺に潜 り込み、独占にしがみつくばかり。私は、この一年、日本政府と東電が公然と続けて来た、 この上なくギラついた偽りのひとつひとつを数え上げる時、日本人のひとりとして恥ずか しさを覚えます。

1.日本政府の調査委員会は、東電がなぜ事故のダメージの最小化に失敗したかを究明するはずのものだった。しかし「公開」ヒアリングは突然、打ち切られることに。塹壕に たてこもった官僚たちは、放射能に焼け太るように、新たな真実の発見を開示することな く、なおも肥大している。

2.この五年で六人目の野田佳彦首相は、その内閣、および最大野党と、消費税を五% から一〇%に引き上げることで合意した。しかし、今回の災害のダメージをカバーするに は、それでも足りないような顔をしている。それどころか、一年かそこらで消費税を、さ らに一七%まで引き上げることまで話し合っているありさま。私たちの日本が、世界に有 名な「奇跡」を――戦後経済のルネサンスを達成した時、そこに「消費税」は、なかった。

3.日本の五十四機の原発のうち、現時点〔2012年4月初め現在〕で動いているのは五 機に過ぎない。昨年の異常な暑夏、人びとは日本の電力に余裕はないと信じて(誤って信 じ込まされ)、停電を回避するため、節電を強いられた。この国を愛する国民は、日夜、不 便と不快さに耐え、節電に協力した。ところが、誰もが節電したせいで東電とその子会社 の収入は減ってしまった。そんな東電に味方する日本政府は、一般家庭で一五%、大店舗 や産業用では三五%もの料金値上げを承認する始末。

4.マスコミは国内メディアも外国メディアも、日本最大の核の秘密、「もんじゅ」につ いて、ほとんど語ることはない。知恵を司る仏さま、「文殊」にちなんで名付けられた、こ の日本最初の高速増殖炉は、なんと断層線の上に鎮座しているのだ。うたい文句は、日本 にある一万五千トンもの使用済み核燃料をリサイクルし、エネルギーを未来永劫に供給す る――だが、その建設に千五百億ドルもの税金をのみこんでおきながら、利用可能な電力 エネルギーをまったく産み出していない。たった一日たりとも。その「もんじゅ」が立地 しているのは、日本で最も美しい古都、京都の北、日本海の沿岸。そこにあるプルトニウ ムは、二万年以上の長きにわたって、致死的な脅威であり続ける。原子力は火のように、 使えるうちはいいが、使われるとひどいことになる。

5.日本政府は米政府同様、国家財政の負債の天井を天文学的なレベルにまで押し上げ 続けている。高い給料を食む国家公務員(いまや日本でただひとつの成長産業である)の 人員削減には何の関心も――この「失われた二十年」においてさえ、向けられて来なかっ た。それは、衆参両院議員の定員削減(カリフォルニア州より小さなこの島国では、人口 一億二千五百万人に対し、国会議員が衆参合わせて七七二人もいる。これに対して、総人 口三億七百万人の米国の連邦議会の議員総数は五三五人に過ぎない)についても言えるこ とである。二〇一一年の震災は、政府支出による復興策の拡大と雇用人員増を正当化する、 新たな口実として使われて来た。

6.日本政府の、機能障害を起こしたような、腐敗した行動は、ついにマスメディアの 調査報道によって、いくつか暴露されるに至っている。

・ 福島第一原発を建設した東芝が、事故の一ヵ月後に、当時の菅直人首相に対して、 最悪シナリオを提出していたありさまが、リーク記事で明るみに出た。これを菅は「最 極秘」にとどめ置くことを決定し、最側近の四人にのみ閲覧させた。これをもし、ふ つうの人が知ったなら、東京はすぐにカラになる、と恐れたのだ。政府と東電が人び とにパニックを起こすなと説教を垂れて来たのは、このためか? 

・ マスコミはまた、「水」の行方を追いかけても来た。勇敢な消防士たちや自衛隊員 らが燃える原子炉に注水した、あの膨大な量の「海水」の行方を。プルトニウムに汚 染されたあの水は、すっかりどこへ消えてしまったのか? それはもちろん、太平洋 か地中か、のどちらかである。しかし、それによる汚染が実際のところ、どれほどの ものに達するか、実態を把握するのは難しい。その一方で、損壊したフクシマ原発内 での、放射能汚染水の漏洩が、二〇一二年二月までに報じられている。

・ 日本の有力紙である朝日新聞はことし一月、東電から「献金」を受けた著名な政 治家の名前を公表した。リストには、麻生太郎元首相や野田内閣の閣僚数人の名前が 載っている。政府と原子力業界の密接な関係がまたも暴き出された。

7. 3・11の大地震と大津波は、小さな町や漁村を次々に破壊し去った。生きのびた 老人たちに、行き場はなかった。政府はすべてを失った人たちのために「被災者仮設住宅」 を建てた。そこなら津波が来ないから安全というわけか、仮設住宅が建てられたのは、遠 く離れた山間部だった。そこに行くしかない被災者の多くが、絶望の中で死んで行った。 自殺した人たちもいた。世界中のどこよりも長生きできるはずの、この緑豊かな列島の片 隅に、棄民された人たちだった。

  偽りの確約 

 さて、それでは、日本の政府は、私たち国民に嘘をついているのでしょうか? 答えは 「イエス」です。そう断言することは、礼儀に反することかも知れません。しかし、そう した礼儀正しさを最早、ふつうに日本人に期待すべきではありません。なにしろ、二〇一 一年三月十一日以降、高レベルの放射性ダストと蒸気を呼吸で吸い込み続けて来たわけで すから。しかし、それでも私たちは、礼儀正しく振る舞い続けています。危機の最中にあ って、私たちの誰もが利己的であることを拒否しているのは、私たちの誇りの問題である からだと、私には思われます。

 「セシウム」は今や日常会話の中にも入り込み、私たち日本人の飲み物であるお茶の中 にも出現し始めています。日本最大のお茶の産地は、フクシマの南、二〇〇マイル(三六 〇キロ)離れた静岡です。お茶から高レベルの放射能が発見されて間もなく、放射性物質 の侵攻が始まりました。乳製品、家禽、豚、牛、野菜、果物、そして母乳にも。世界で最 も豊穣な海のひとつに数えられる福島沖で捕れた水産物にも、放射能雲の影が射し込んで います。終わりなき脅威である放射能汚染の、早くも表面化し、なおも隠れ続けている、 この巨大な規模の真実を、いったい誰が掴み切ることができるか? 

 専門家による安全保証の確約だけは、あふれ返りました。フクシマの惨事が起きるや否 や、そしてそれから数ヵ月にもわたって、有名大学や政府機関の科学者が夜のニュース番 組に次から次へと現れ、空気や魚や米の放射性ダストや蒸気は「ただちに健康に対するリ スク」にはならないと、偉そうな知的雰囲気を撒き散らしながら、唱え続けました。放射 能や医学の分野で教育を受けたことのない私たちでも、首をかしげざるを得ませんでした。 「いまただちには、ない」? では、いつから? いつかは必ず癌になる? 

 専門家たちは私たちに、放射性物質すべてに対する私たちの強い不安や嫌悪は根拠のな いものだと吹き込みました。それどころか抜け抜けと、私たちが募らせていた恐怖を群集 心理だとか、パニック衝動に似ているとさえ、ほのめかしていたのです。世界最大の放射 性物質の重大な放出を、実はたいしたことのないものだと言いくるめるよう、金で買われ、 言わせられていたのでしょうか? それとも、フクシマ原発が瓦礫の中に横たわり、そこ から出る致死的な放射能汚染水や水蒸気の行方を誰もつかめないこの時にあって、手持ち の安全対策でフクシマ原発事故を抑え込めるとでも思っているのでしょうか?

 当時、さんざん吹きまくった学者連中も、いつしか全国放送のテレビに出なくなりまし た。何故なのか、問う人もいません。

 しかし、そうした専門家が姿を消した後に「東電」が現れました。テレビで突如、認め たのです。地震・津波に襲われた数時間後に、炉心溶融はすでに起きていたことを。三つ の号機が溶融したトリプル・メルトダウンを突然、認めたのは、事故後、二ヵ月経ってか らのこと。その間、東電は、そんなことはないと頑強に否定し続けていたのです。東電の 自白は遅きに失しました。人びとはそれまで原発から少ししか離れていないところに留ま り、知らぬ間に毎日毎日、放射性ダストと蒸気を浴び続けていたのです。原発周辺には数 万人の子どもたちがいました。



 首相の首席補佐官の一人はテレビに出て来て言いました。東電は事故から二ヵ月の間、内閣に対して情報を伝えずにいた、それを知ってショックだった、とてもショックだった、 と。それを聞いて、私たちもまたショックを受けました。その無能と傲慢さに。

  眩惑神話の終焉 

 私たちは今や、日本政府や東電の経営陣が、私たち国民には原子力の専門用語を理解す るだけの頭脳がないと思い込んでいることを知っています。もちろん、原発事故に襲われ た時、私たちは難解な用語に慣れてはいなかった。しかし今や私たちは、ハッキリと理解 しています。「火の環」と呼ばれる環太平洋の地震帯の最中にあって、この美しい日本列島 に生きる私たちは今、「核の冬」に直面している。そしてそうした「核の冬」の本格的な訪 れを目の当たりにできるほど、もしかしたら私たちは生きのびることはできないかも知れ ない......。

 私たち日本人は、歴史的に、今日に至るまで、権威(政府)を敬い、法律や規制を、や り過ぎるほど忠実に守り続けて来ました。暴動を起こさないし、略奪もしないし、殺しも しない。私たちは学校と家庭で、選び抜かれたベスト・アンド・ブライテストからなる中 央政府は、私たち国民を安全・繁栄・達成へ向けて導くべく、日々懸命に励んでいる、と 教えられて来たのです。

 そのベスト・アンド・ブライテストたちは、いま私たちを裏切っているのでしょうか? 日本の戦後デモクラシーは、集団的な叡智を最も必要とする今この時にあって、私たちの 役に立たないものになっているのでしょうか? 私たちの政府は、私たち国民の忠誠に応 えようとしているふうにも、災害復興に必要な勇気や柔軟さを育てようとしているふうに も見えません。もっと恐ろしいことに、私たちの政府は、盲信による行動と、目のくらむ ような政府の無能さに目を閉じるよう求めているのです。

 政党は権力を求めていがみ合い、戦後最大のこの災害を自分たちの利益にしようとして います。最早、誰にも止められないところまで、堕落し続けています。原子力産業の規制 にあたる政府官僚は退職すると、かつて自分が監視していた原子力産業の高給ポストに、 さっさと天下っている。
そんな中、被曝地では、ほとんど放射能まみれの数十万トンのガレキの山が、処理し切 れないほど巨大な重荷となって、処理法を探しあぐねる事態が続いているのです。

 日本はこれまで、瓦礫の底に埋もれず、波にさらわれずにも済んだ二万人の死者を葬る ことはできたかも知れません。しかし、数千もの被災者は今なお、災害の破壊と核の悪夢 の中で失われた自分たちの暮らしが戻る日を求めて、待ち続けているのです。我が家に帰れる日が来ることを、暮らしを再建するために働ける日が来ることを、待ち望んでいるの です。しかし、多くの人が知らないままでいます。政府や東電に知らされずにいます。致 命的な放射能汚染が、避難者たちの寿命を超えて消えない場所には、もう決して戻ること ができないことを。

 東電と政府はぴったり体を合わせ、日本人になおも言い聞かせています。私たちは原子 力発電の恩恵をこうむって来た、原子力のおかげで戦後の繁栄を謳歌することができた、 だから不平を言ってはならない、と。しかし、私たち一般の国民に、日本が原子力を開発 すべきかどうか選択する余地がひとつでもあったでしょうか? ありませんでした。選択 が与えられたように見えたのは、巨大な税収や地元での雇用、橋や道路、プールにホール、 体育館などインフラ整備の約束でもって言い寄られた、遠隔地の海岸にある小さなコミュ ニティーの人びとでした。住民には実は選択の余地はなく、同意するしかなかったのです。

 政府と東電は一体化して、原子力は安全で安く、しかもクリーンであるという、この上 なく眩惑的な神話を捏ね上げました。その体裁を維持するため、夥しい数の原発事故を隠 し、健康への害を矮小化して来たのです。

 ヒロシマとナガサキに原爆が投下されて以来、日本は核兵器を非難する信仰を培って来 ました。そんな道程の中で日本は、核に関することなら何にでも免疫力があると信じた奇 妙な生きものに変身を遂げたのです。フクシマでのメルトダウンに続く最初の数週間に、 この国を離れた日本人はほとんどいませんでした。

 しかし、私たち日本人は、この恐ろしい現実の最中にあっても、なおも冷静さを保つこ とができています。
 そんな私たちの前から、安全で安い、永遠にクリーンなエネルギーのゴマカシだけは、 押し流され、消えてしまいました。
 津波が押し寄せたあと、沖に向かって引いて行った、あの日の海のように。

2012年6月20日水曜日

95:重要情報:日本での「放射線に立ち向かうドイツ専門家の講演・懇談会 -フクシマ、ヒロシマ、ドイツを考える」に参加を呼びかけます


 以下、日本のみなさまへの「世界を支配する内部被曝の虚構の知見」を暴露し、批判する日本での国際交流の重要なお知らせです。
特にフクシマ問題を担当するジャーナリストの皆さんには千載一遇の機会の情報であり、しかも今週末から始まるので、各地で脱原発運動で闘っているみなさまには、この情報を知り合いの良心的ジャーナリストのみなさんにツイートなどで知らせて下さり、またふるって参加されるようお願いいたします。

 日本では フクシマの原発過酷事故が起こって以来、市民はあらためてヒロシマ・ナガサキ以降の低線量内部被曝という「見えない恐怖」とともに生活せざるを得なくなり、この恐怖とこれから数世代にわたり直面し、気が遠くなるような長期の真摯な対策と闘いから逃れることができなくなりました。
にもかかわらず、日本ではほぼすべてのマスメディアが「低線量被爆の健康への影響は学会でも意見がわかれている」との立場にとどまり、真実を追究をしようとはしていません。これはジャーナリズムの怠慢です。このような認識は世界の先進国、特にドイツでは、実に20年から30年遅れた一世代前の知見なのです。

 にもかかわらず、多くの市民は、そもそも日本においていわゆる「原子力の平和利用という神話」がまかり通り、原発をはじめとする大規模な核施設が日本中に建設することができた背景には、米軍占領中の言論統制下で、特にトルーマンの指令による原爆障害調査委員会(ABCC、のちの放射線影響研究所) によるヒロシマ・ナガサキの膨大な遠距離被爆者や入市被爆者たちの低線量被曝の組織的な隠蔽と故意の無視、すなわち虚構の知見があったし、今もあるという史実と現状をようやく知るようになりました。
そして、日本だけでなく「核の平和利用」を推進する第二次世界大戦後の世界は、IAEAなどの国連組織も含めてこのヒロシマ・ナガサキの虚構の知見の上に築かれていることも次第に認識されるようになっています。その実態の一例として、わたしもここの→第88回で「IAEAとWHOのさるぐつわ協定」として詳しく報告しました。これだけでも日本のメディアがいかに遅れているかが理解できるとおもいます。

このことを科学者として報告されたものでは最近では4月の、 市民と科学者内部被曝研究会第1回総会記念シンポジにおける同研究会の沢田昭二理事長による報告→「放射線被曝に脅かされない世界をめざして」(資料1)があります。ここで沢田教授はこの構造を判りやすく下記の図で説明しています。(ただし一般にしばしば誤解されますが、この図にある組織は国連組織ではありません。特にICRPは単なる民間団体です=梶村注)


つづけて教授は報告で ドイツ放射線防護協会副会長でヨーロッパ放射線リスク委員会(ECRR)の現会長のインゲ・シュミッツ=フォイエルヘーケさんは、放影研が、原爆放射線に被曝していないとして比較対照群に選んだ遠距離被爆者と入市被爆者の死亡率やがんの発症率を日本人の死亡率や発症率で割った相対リスクを1983年に求めて論文にしましたが、専門雑誌に論文としての掲載を拒否されLetterとして掲載されました。」と述べた上で、この論文を詳しく説明し、この知見が図にある原爆症認定集団訴訟でついに裁判所が内部被曝を認定し勝訴に大きな貢献をしたことをを説明しています。 
すなわちインゲ・シュミッツ=フォイエルヘーケ教授は内部被曝を否定する虚構を暴いた最初の重大な知見をもたらした科学者なのです。わたしも誇張ではなく人類史的な意義のある仕事であると思っています。
彼女が、このブログにも何度も登場したドイツ放射線防護協会会長のセバスチャンプフルークバイル博士とともに、日本の諸団体の招待で今週末から訪日し、福島、広島、大阪、京都、東京(二カ所)を訪ねて、今週金曜日23日から7月1日まで市民と科学者とのシンポジウムや懇談に臨みます。

この写真は2009年5月にギリシャのレスボス島で行われたヨーロッパ放射線リスク委員会国際会議に参加された沢田昭二教授が撮影されたお二人の写真です。 
Prof.Inge Schmitz- Feuerhake (l.),Dr.Sebastian Pflugbeil (r.) May 2009 on Lesvos.Photo:Prof.Shoji Sawada

 具体的な日程などは、 市民と科学者内部被曝問題研究会 の→ホームページにあります。現時点のものを以下に引用しておきますが、予定変更や追加もありえますので、参加、取材の場合はその都度確認をお願いいたします。各地の詳しい情報はそれぞれの詳細をクリックして確認して下さい。諸団体の共催ですので、担当も別ですのでご注意お願いします。
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放射線に立ち向かドイツ専門家講演懇談会 フクシマヒロシマドイツを考える

 内部被曝問題を世界で初めて指摘したドイツ研究者インゲシュミッツーフォイヤハーケさんヨーロッパ放射線リスク委員会ECRR委員長)、ドイツ放射線防護協会会長セバスチャンプルークバイルさん来日

福島6月2324日市民科学者国際会議主催)  詳細はこちら
広島26日市民と科学者内部被曝問題研究会主催) 詳細はこちら
京都28日内部被曝問題研究会核戦争防止国際医師会議京都府支部共催) 詳細はこちら
東京29日内部被曝問題研究会主催)  詳細はこちら
東京6月30日7月1日日本キリスト教協議会平和核問題委員会主催) 詳細はこちら

講師紹介
[インゲシュミッツ-フォイエルハーケ女史]
 欧州放射線リスク委員会委員長医学研究者で物理学者。「非核未来賞を受賞30年前1983広島原爆被害データを基にしていま大きな問題になっている内部被曝真実を明らかにした喜寿年をおして初来日

[セバスチャンプフルークバイル博士]
 ドイツ放射線防護協会会長で医療分野物理学者チェルノブイリ事故による欧州数多く被曝データと福島原発事故を低線量被曝として論証を 進めているたびたび訪日して日本へメッセ-ジを精力的に届けてきている1946年生まれ同じ敗戦国ながら東電原発事故を契機に脱原発に踏み切ったドイツから学ぶもは多い

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なを、今回の訪日に関する特に重要な日本語資料で最近発売中のものやネットで手に入るものとしては、

*上記の→沢田昭二教授の報告(資料1)のほかに、沢田昭二教授は現在発売中の「世界」7月号に→「放射線影響研究と科学者/3・11後、社会的役割をどう果たすか」(資料2)を寄稿されています。13歳で広島で被爆された教授の生き様もうかがえます。
*上記写真のヨーロッパ放射線リスク委員会の会議で採択された→2009年「レスボス宣言」の翻訳(資料3)、
*これに参加され宣言に署名された沢田昭二教授ご自身による同じ宣言の翻訳と解説(資料4)、(同宣言の英語→原文はこちら)、
* インゲシュミッツ-フォイエルハーケ教授の最近の論文 「『無害な放射線閾値から時間かかる決別 翻訳と解説(資料5)、
*お二人が共著者でもある 核戦争防止国際医師会議(IPPNW)ドイツ支部刊の→『チェルノブイリ原発事故がもたらしたこれだけの人体被害』(松崎道幸監訳、矢ケ崎克馬解題、合同出版、2012年)(資料6)
などをとりあえず挙げることができます。参加できない方も直面する内部被曝を克服するための知識として是非参考にして下さい。
 特に資料6の翻訳書(左写真)は、今、日本で起こりつつあることを予見し理解する上で大変に良い参考になるでしょう。
 チェルノブイリの過酷事故がもたらした広範で深刻な、特に事故当時生まれていなかった次世代の子どもたちにまで及ぼしている遺伝障害の事実の恐ろしさが専門家の知見から判りやすく記述されています。
これを知れば「直ちに健康に害はない」などとの言動が、いかに人道に反する犯罪そのものであることがよくわかります。

世界中の放射能被曝の被害者の市民の健康のために尽力をつづけているドイツからの訪問者のお二人、インゲさんとセバスチャンさんが、日本の市民のみなさまと知り合うことは素晴らしいことです。特に、喜寿の高齢にもかかわらず、ドイツ人には慣れない梅雨時の日本を、厳しい日程で訪問されるインゲシュミッツ=フォイエルハーケ教授に心から感謝いたします。

日本のみなさま、よろしくお願いいたします。

(ひとことだけご参考。日本と違ってドイツでは国家試験が授与した博士と教授資格は終身称号です。したがって博士・教授の肩書きは墓石までそのまま残ります。)






 


2012年6月17日日曜日

94:ドイツでも大飯再稼働反対の抗議を大きく報道/日本は地震と津波を法律で禁止したようだ

6月15日の首相官邸前での→1万人抗議行動は、市民運動の中継や動画投稿などで明らかなのですが、日本の主要メディアでは相も変わらず、無視かほんの小さな扱いのようです。  しかし、それは日本だけであり、ドイツでも昨日の野田政権の大飯原発再稼働決定に反対する抗議運動をもれなく電子版で大きく報道しています。

→シュピーゲル誌は16日、多くの写真を掲載して、首相官邸前での抗議が10000人であると東京の外国通信社報道を引用しつつ多くの写真を掲載しています。
 その内の二つを借ります。日本では決して見られないでしょう。メディアの視線の差です。(「どうしてだ?」との問い合わせがあります。簡単に言えば、カメラマンが市民の表情に自己確認を行っており、送られてくる写真を編集のデスクも同じことを感じて扱うからです。その差が現れているのです。=18日追加)
首相官邸前での抗議行動 写真はロイター
タイでは日本大使館の前で日本人の赤ん坊も抗議 ロイター

同誌は「ここで二基の原発を再稼働させることは、日本の強力な原子力ロビーの勝利であり、(野田政権の)電気料金高騰を懸念する産業界への屈服である」と論評のうえ、東京のアメリカ系の大学の学長の「来年までにかなりの数の原発が再稼働するだろう。野田政権は驚くべきほどこれに熱心ですから」との見方を伝えています。

また、保守派の→フランクフルター・アルゲマイネ紙は「抗議にもかかわらず日本は原発を再稼働」との見出しで報道。「最近の世論調査でも日本人の過半数が反原発であり、脱原発の意見は急速に増加している」と伝えています。

野田首相の記者会見での「国民の生活を守るために再稼働を決断する」との発言を伝える先日の→シュピーゲル誌電子版(6月8日)の報道に寄せられた読者のコメントのひとつに「察するに日本では地震と津波をこの間、法律で禁止したのかもしれない・・・? ." Vermutlich wurden Tsunamis und Erdbeben in Japan inzwischen gesetzlich verboten・・・?」 とありました。

「それでないと、フクシマの後に原発の再稼働を容認できるわけがないではないか」との健全な認識がある発言です。野田首相の判断がいかに非常識で支離滅裂であるかを、このドイツ市民はちゃんと見抜いて皮肉っています。このようなユーモアのセンスのある批判力が日本の社会に根付くことが非常に大切です。

(追加17日)17日付の全国各紙の社説と論説を読みましたが、これほど世論と政権の乖離が見られるのはわたしの記憶でもあまりないことです。日本国民は政治家の無能力と堕落ぶりをようやく認識しつつあり、自らの手に政治を取り戻そうとしつつあるようです。これ以上政治の無責任を許せば、明日にでも突然、命と財産が失われることを知ったからです。

(追加18日)琉球新報は本日の社説で →「原発再稼働 政府による恐怖の強制だ」と怒りを込め、かつ日本の新聞の中では最も突き放した客観的な批判をしています。同紙はすでに16日の社説で→「政府説明は矛盾だらけだ」と切り捨てています。実に全うで日本の市民の圧倒的多数の意見を表明しているものです。

この社説を読んで「熊さんと八っさんのなぞなぞ」を思いつきました。
熊さん
「大飯原発再稼働とかけて何と解く」
八っさん
「節電の妙案と解く」
熊さん
「こころは」
八っさん
「背筋がゾーと寒くなり、クラーもいらねえ」

冗談はさておき、次回の報告として、次回には重要な日本での講演会の予定をお知らせします。ドイツから重要な人物が訪日し、内部被曝について→世界最高の知見をお知らせします。特にこの問題を理解しようとする各社のジャーナリストの皆さんにとっては千載一遇の機会であることは間違いありません。

2012年6月4日月曜日

93シュピーゲル誌「ドイツはイスラエル核武装を初期から援助し、供与の潜水艦が核装備」と報道


読者のみなさま、予期せぬ訪日のためちょうどひと月も投稿が出来ませんでしたことをお詫びします。3週間ほどしてベルリンに帰ってきましたが、残務整理などで書き込む余裕がありませんでしたが、そろそろブログにも復帰します。日本で体験したことの感想を徐々にお知らせしなければ・・・
と考えていたところ、シュピーゲル誌電子版が今朝(3日)、明日発売の同誌が「秘密作戦『サムソン』/いかにしてドイツが核大国イスラエルの軍備を拡張させているか」というタイトル(写真)で報道するとの→予告がありましたので、さっそくオリジナルを読んでみました。
シュピーゲル2012年6月4日号表紙

この、ドイツがイスラエルに供与している潜水艦が中距離格核ミサイルを装備しているのではないのかという疑惑は、4月の復活祭にギュンター・グラス氏が散文詩で指摘したため大変な物議をかもしたことは →83回でお伝えしたとおりです(この詩と経過については『世界』6月号で三島憲一氏も報告されています)。

どうやら、これをきっかけにシュピーゲル誌は取材を始めたらしく、この号でおよそ12ページに渡る報告をしています。わたしの知る限り大メディアが報道したものとしては最も詳しく、これまでは知られていないドイツ側機密文書も手に入れて公表しています。



また、驚くべきことに、イスラエル政府は同誌の二人の記者に、ドイツが供与し、核装備が疑われているドルフィン級潜水艦の一隻である「テクマ」号の取材を世界で初めて許可しています。
Made in Germanyのイスラエルの「核装備?」潜水艦の司令室の写真。同誌より
ハイファの軍港に帰還したばかりの潜水艦での取材は、もちろんイスラエルの検閲下で許可されシーメンス社などドイツの軍需産業の機器が並ぶ司令室まででした。上の司令室の写真はそれでも世界で初めてのセンセーショナルなもので、アラブ世界に与える影響は、おそらく小さくないと思われます。

右の写真の図にある先頭の魚雷と中距離ミサイル発射装置と、それらの武器庫(赤)のある二つのデッキには記者は入れませんでしたので、記者のひとりが対応した海軍士官に同艦内の核兵器の存在を質問したところ、「それに答えたら、私はグーラーグ(旧ソ連の労働収容所)行きですよ」とだけの返事があったとのことです。

わたしの推測では、イスラエルがこの機に、ドイツ誌にこのような取材を許可したのは、同国の安全保障にとって戦略中枢の要である潜水艦の存在の報道が、供与国のドイツでは半ばタブーであったところ、頑固爺さんの一遍の詩で世界中に知れ渡ってしまったことへの反応であるというこです。
依然としてイスラエルは核武装そのものは公式に認めていませんが、「ドイツから核装備が可能な潜水艦をこれまで3隻供与され、さらに技術革新された新型3隻が建設中で2017年までに手に入る」ことを公然と認める政治判断があると思われます。
バラック国防省はこの供与に関して「ドイツはイスラエルの安全を長期に保障することを誇りにするべきだ」と同誌に述べています。「良いことだ、何が悪い」との開き直りです。

この報道によれば、メルケル首相が今年の3月末に供与を許可した最新型は、最新の燃料電池のエネルギーで、これまでは3日であった潜水継続時間が、最低18日間は可能で、しかも動力音が押さえられ、仮想敵のイランに対してはペルシャ湾で長期に静かに作戦行動が可能になるとのことです。つまり、イランにとっては喉元に匕首を突きつけられるようなものです。
このような情勢について、ドイツ国防省の元政務次官で現在政府系シンクタンクにいるワルター・シュッツレ氏はメルケル首相に対して「もしイスラエルが先制攻撃をすれば、イランは加害者から被害者の役割へと入れ替わる。本当の友好関係とはドイツのイスラエルへの義務として、イスラエルに自滅的冒険をさせないことだ」と警告しています。

さて、同報告の核心は、上記の潜水艦問題よりも、これまで未公開であったドイツ政府のイスラエルへの軍備援助に関する極秘文書を請求して公開し、1950年代以来の両国関係の陰の歴史である核武装援助を叙述していることです。
ドイツの核の男爵シュトラウスとベンーグリオン(上)、「会談でベン-グリオンは核兵器製造に言及し、アデナウアー首相がイスラエルのネゲフ砂漠の開発に五億マルクの借款を約束した」との極秘文書の部分(下)同誌より。

たとえば、極秘の印のある文書によればイスラエルが核兵器製造の話が最初に出たのは1961年に当時の イスラエルのベン-グリオン首相と、わたしが中曽根康弘氏と同じドイツの核の男爵としてこのブログを始めたばかりの→第5回で紹介したシュトラウス国防相のパリでの会見のときであるとのことです。 
極秘文書には「会談でベン-グリオンは核兵器製造に言及し、またアデナウアー首相がイスラエルのネゲフ砂漠の開発に五億マルクの借款を約束した」とあります。
公式には、「このイスラエル南部の砂漠の緑化のために海水の淡水化装置が必要である、そのためには安価な電力を大量に供給する原子力発電所建設の経費である」とされていました。ところが借款が履行されたにもかかわらず、原発と淡水化装置は建設されず、今砂漠の真ん中にあるのが、核兵器製造施設であるのは周知の事実です。
このときに同席したのが、当時の国防副大臣であったシモン・ペレス現大統領だけであったことも記されています。そして、ベン-グリオンはペレスに旧約聖書から採った「サムソン作戦」とのコードネームのこの極秘プロジェクトをまかしたとのことです。

すなわち、ドイツはイスラエルの核軍備に計画段階から同意し、極秘に援助していたことになります。どうやらドイツの核の男爵は日本のそれよりも悪党であったようです。

シュピーゲル誌の今回の報告は、そこまで踏み込んではいませんが、当時の政治情勢からすれば、ドイツが単に経済援助だけではなく核兵器製造に欠かせないウラン濃縮の技術援助も行ったのではないかとの疑いも出てくるのではないかと思われます。

いずれにせよ、ドイツのイスラエルへの膨大な「戦後補償」には、このような決定的な軍事援助がその裏側にあり、それが現在も続けられていることが、この報道で白日の下に晒されたのです。反響は情報ガラパゴス島の日本メディアの報道ではほとんどなくとも、世界ではかなりあるでしょう。

また、グラス氏が何を述べるかが楽しみです。

これに関する日本語の最初の報道は→ロシアの声です。イスラエルでは→ハーレッツ紙の英文電子版が早々に要旨を報道。

また日曜日でもあるにもかかわらず、メルケル首相のスポークスマンは「ドイツ政府は前任政権同様に潜水艦を核兵器なしに引き渡した。核兵器を装備するか否かの議論にはかかわらない」との、無責任な言い逃れのコメントを先ほどシュピーゲルに対し述べています。

この写真は、キールで建造中のイスラエル向けドルフィン級潜水艦です。


Haaretz紙より。写真AP。2012年3月27日