以下は、このブログでも何度も紹介しました松井英介医師から送られて来た提言です。フクシマ事故による放射能汚染は収束はおろか、我々生物である人間にとっては半永久的に深刻化はしても納まることなどはありません。
今の日本で緊急になされるべきことは、一日でも早く汚染地帯から子どもたちと人々が移住でき、あたらしいふるさとで人間らしい生活を再建できる法律を実現することです。それへ向けたひとつの提言として紹介致します。読者のみなさまにより、より広く紹介していただければ幸いです。この移住法は脱原発法の関連法案として日本の死活にかかわる、絶対に実現しなければならない法律です。多くの市民運動の参画をわたしからも訴えます。
なお、この提案の元稿がすでに他のサイトでも紹介されていますが、こちらの方が訂正された4月17日付けの定稿ですのでご注意下さい。(筆者の要請により4月19日1部追加しました)
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「脱ひばくを実現する移住法」制定への提言
―「低線量」内部被曝から子どもたちのいのちと人権をまもるために―
岐阜環境医学研究所 松井英介
●はじめに
「福島には火がついています!」。京都に避難している若いお母さんの言葉です。福島県が2013年2月13に発表した18歳以下の子ども対象の甲状腺超音波検査の結果、甲状腺がんが3人、穿刺細胞診でがん疑い7人でした。ところが鈴木眞一福島県立医科大学教授は東電事故との関係はないとのコメントを発表しました。福島県内では、後述するように、心臓病などさまざまな病気の発症が明らかになってきています。
脱原発が全国各地で叫ばれていますが、脱被曝こそ最重要緊急課題です。今なお放射性物質によって汚染された福島県をはじめとした地域に住み続けざるをえない状況に置かれている人びと就中子どもたちが、一刻も速く汚染の少ない地域に、家族や地域の人間関係を保ちながら移り住み、働き、子どもはのびのびと成長する条件を整えなければなりません。
荒木田岳福島大学准教授つぎのように述べています。
「現状を打開するには、『脱原発』とは区別して、『脱被曝』それ自体を自覚的に追求する必要があると思います」。「福島で被曝を受忍しながら、あるいは福島に被曝を受忍させながら主張される『脱原発』とは何なのだろうかと思います」(「週刊金曜日」2013.3.1(933号),P.24~5)。
「除染すれば福島県内に住み続けられる!」。この宣伝は、今回の核大惨事の原因を作った東電と日本政府から発せられています。人心を惑わす彼らのプロパガンダに、はっきりNo!を突きつけましょう。
●内部被曝とはどのようなものか
○放射線とは
放射線は、正確には、電離(イオン化)放射線といいます。私たちの身体は分子でできています。分子は複数の原子が各二個の電子(ペア電子)で結合されたものです。これら分子を切断する(ペア電子の一つを外す)エネルギーをもった放射線を電離(イオン化)放射線といいます。放射線は、可視光線、紫外線、赤外線と同じ波の性質をもっていて、直進、反射、散乱、干渉など物理的な性質は共通しています。大事なのは、「距離の二乗に反比例して減弱」することです。距離が近いほど、エネルギーは大きいのです。
私たちの身体の70%以上は水です。水の分子(H2O)が切断されると毒性の強いイオン(ラジカル)や分子が、細胞内に生成されます。
○内部被曝
外部被曝がおもにガンマ(γ)線が外から身体を貫いたときの、多くの場合短時間の影響であるのに対して、内部被曝は、身体の中に沈着したさまざまな放射性物質(核種)からくり返し長期間にわたって照射される、おもにアルファ(α)線とベータ(β)線による影響が問題になります。
α線やβ線を出す核種の小さな粒が沈着した部位のまわりの細胞にとって、それらの線量は決して低レベルではありません。内部被曝を外部被曝から明確に区別しなければならない理由です。しかも、α線による生体影響はγ線に比べると、桁外れに大きいのです。β線もγ線にくらべ非常に大きな影響を与えることがわかっています。
ICRP(国際放射線防護委員会)は人間の身体が均一だとして、外から照射されたγ線の影響を平均化するやり方で、内部被曝を推定していますが、私たちの身体を構成する臓器、組織、細胞は決して均一ではありません。免疫の担い手・リンパ球が放射線に弱いのに対して赤血球は強いなど、放射線に対する感受性も違うのです。
さらに、核種ごとに、結びつきやすい臓器、組織、細胞が違います。例えばヨウ素131は甲状腺に、セシウム137は筋肉や心臓に、ストロンチウム90は骨や歯の組織・細胞と結びつきやすいのです。しかも、セシウム137とストロンチウム90の物理的半減期はどちらも約30年ですが、セシウム137が平均3ヶ月ほどと比較的短い期間に排出されるのに対して、ストロンチウム90は一旦骨や歯に入り込むと何十年も出て行きません。骨の中には血球を作る骨髄がありますから、白血球やリンパ球のもとになる幹細胞が放射線(β線)によって、繰りかえし傷つけられることになるのです。白血病などの原因です。
ICRPは、γ線1に対して、α線に20という荷重係数を与えていますが、β線は同じ1としています。その結果、体内に入り込んだ放射線微粒子から照射されるα線やβ線による生体影響を著しく過小評価しています。
○内部被曝のメカニズム
内部被曝のメカニズムを整理すると、次のようになります。
①私たちの身体の内部環境は、免疫系・内分泌系・自律神経系によって保たれている。②これらの系をうまく機能させるために、酵素を含むタンパク質分子はきわめて重要な役割を担っている。②α線やβ線は、γ線より高密度にタンパク質分子、とくにDNAを切断する。③電離〈イオン化〉のもう一つの問題点は、分子を切断して毒性の強いイオンやイオンが再結合したときに毒性の強い分子を生成する。こうして細胞質や隣の細胞に生成された毒性物質もDNAを切断する。これを「バイスタンダー効果」という。④DNA二重らせんの両方が切断されると修復は困難。⑤放射線と細胞内に生成された化学物質は細胞のすぐそばから、細胞核内にあるDNAに繰り返し傷をつける。⑥DNAの異常再結合がおこり、これらが次つぎに受け継がれ、がん、先天障害、免疫異常など様々な病気の原因となる(遺伝子不安定性の誘導)。
●「低線量」放射線内部被曝によるさまざまな晩発障害発症の推定
東電福島第一原発事故によって自然生活労働環境中に放出された各種放射性物質によって汚染された福島県各地をはじめとする地域において予想される、主に「低線量」放射線内部被曝によるさまざまな晩発障害の発症を、チェルノブイリ事故25周年記念国際会議で示された研究結果をもとに推定します。<1Ci/km2などの単位は、表1をご参照ください。
この国際会議は、2011年4月6日から8日までドイツのベルリンで開かれました。その会議のプログラムとレジュメなどは、次のwebsiteで読むことができます。
http://www.strahlentelex.de/Yablokov%20Chernobyl%20book.pdf
上記国際会議で紹介された、Annals
of the New York Academy of Sciences Volume
1181 (Dirctor and Executive Editor Douglas
Braaten ) の論文集には、この間にウクライナやベラルーシで確認された先天障害やがんのみならず、さまざまな良性疾患のデータが紹介されています。
●先天障害の増加
ベラルーシの高度汚染地域[>5Ci/km2]で生きて産まれた新生児1000人の中に、事故の前には4.08だった先天障害が事故後の1987年から88年には7.82と倍近くに増えています。また、低濃度汚染地域[<1Ci/km2] においても、少し遅れて、事故の前には4.36だったものが1990年から2004年には8.00に増加しています。ともに統計学的に有意です。ベラルーシで公式に登録された出生1,000人当たりの先天障害児数を、汚染のレベル別年代別に比較した調査結果では、クリーンとされている1Ci/km2未満の汚染レベルにおいても、チェルノブイリ原発事故前1982-1985年の4.72に比し、事故後1987-1992年では5.85人と先天障害児数の増加が見られました。
●悪性腫瘍の増加
チェルノブイリ事故以前と以後の人口10万人対がん発症数の推移を、ベラルーシのゴメル州とモギレフ州の、それぞれセシウム137による汚染度合いの異なる3地域別に比較したデータでは、それぞれの地域の15 Ci/km2以上ならびに5~15 Ci/km2の汚染地域において、1986年以降がんの発症が有意に増加していることが、示されています。さらにモギレフ州においては、5 Ci/km2以下の地域においても、原発事故後がんの発症数が事故前の248.8から306.2へと有意に高くなっていることが示されています。
●1型糖尿病の増加
チェルノブイリ原発事故以降高頻度に認められるようになったのは、先天障害や白血
病・がんなど悪性疾患だけではありませんでした。ベラルーシの高濃度(ゴメル州)ならびに低濃度(ミンスク州)汚染地域における小児とティーンエイジャー10万人対における1型糖尿病の発症を見たデータでは高濃度汚染地域(15-40Ci/km2)では事故以前に比し、優位に増加しています。低濃度汚染地域(1-15Ci/km2)でも、統計学的に有意ではありませんが、上昇傾向がうかがえます。
●水晶体混濁、白内障
1991年ウクライナ・キエフ州イヴァンキフ地域の四つの村で、7歳から16歳までの子ども512人について、眼球水晶体の病的変化を調べた研究データがあります。これら四つの村は、土壌中のセシウム137汚染の度合いが異なるだけです。
(ⅰ)第1村:平均12.4Ci/km2(最高8.0 Ci/km2;
村の90%は5.4Ci/km2)。
(ⅱ)第2村:平均3.11Ci/km2(最高13.8Ci/km2;
村の90%は4.62Ci/km2)。
(ⅲ)第3村:平均1.26Ci/km2(最高4.7Ci/km2;
村の90%は2.1Ci/km2)。
(ⅳ)第4村:平均0.89Ci/km2(最高2.7Ci/km2;
村の90%は1.87Ci/km2)。
検査を受けた子どもたちの51%に、典型的な水晶体の病状(混濁)がみられました。また土壌汚染レベルの高い村で、水晶体混濁は高率でした。非典型的な病状(水晶体後部皮膜下層の混濁、後部皮膜と核部の間の班状・点状構造の不明瞭化および小水泡)は、土壌汚染の平均値ならびに最高値と相関しており、高率(r=0.992)に認められました。1995年には、第1村と第2村(土壌汚染の平均値2Ci/km2)において、34.9%にまで、著明な増加がみられた。1991年に皮質層混濁の早期変化を示した二人の少女は、退縮型白内障の進行と思われる目のかすみと診断されました(Fedirko and Kadoshnykova,2007)。
●種々の疾患罹患率(10万人対)を包括的データ
ベラルーシの汚染されたゴメル州全体の18歳未満の子どもたちにみられた種々の疾患罹患率(10万人対)を包括的データを紹介します。
チェルノブイリ原発事故以前に比べ、1997年には、循環器(心臓)疾患13.3倍、呼吸器疾患108.8倍、泌尿器系疾患48.0倍、消化器疾患213.4倍、先天障害6.7倍、腫瘍性病変95.7倍に、それぞれ増えています。
北ウクライナの成人と10代の若者について、人口10万人対の疾患罹患率をみたデータでは、事故直後の1987年に比べ1992には、内分泌系疾患25.8倍、精神障害52.8倍、神経系疾患5.7倍、循環器(心臓)疾患44.0倍、消化器疾患60.4倍、皮膚および皮下組織疾患50.5倍、筋肉骨疾患96.9倍に、それぞれ増えています。
●チェルノブイリ事故に関する基本法
基本概念 チェルノブイリ原発事故がもたらした問題に関するウクライナの法制度の記述は,まず基本概念文書「チェルノブイリ原発事故によって放射能に汚染されたウクライナSSR(ソビエト社会主義共和国)の領域での人々の生活に関する概念」の引用から始めるのが適切でしょう。この短い文書は,チェルノブイリ事故が人びとの健康にもたらす影響を軽減するための基本概念として,1991年2月27日,ウクライナSSR最高会議によって採択されました。この基本法の実現には、子どもたちのいのち守るために移住の権利を掲げて闘った旧ソビエト市民や科学者の大運動がありました。
この概念の基本目標はつぎのようなものです.すなわち,最も影響をうけやすい人びと,つまり1986年に生まれた子どもたちに対するチェルノブイリ事故による被曝量を,どのような環境のもとでも年間1ミリシーベルト以下に,言い換えれば一生の被曝量を70ミリシーベルト以下に抑える,というものです.基本概念文書によると,「放射能汚染地域の現状は,人々への健康影響を軽減するためにとられている対策の有効性が小さいことを示している.」それゆえ,「これらの汚染地域から人びとを移住させることが最も重要である.」基本概念では,(個々人の被曝量が決定されるまでは)土壌の汚染レベルが移住を決定するための暫定指標として採用されています。一度に大量の住民を移住させることは不可能なので,基本概念では,つぎのような“順次移住の原則”が採用されています。
表1 法に基づく放射能汚染ゾーンの定義
No
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ゾーン名
|
土壌汚染密度, kBq/m2 (Ci/km2)
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年間被曝量
ミリシーベルト/年
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||
セシウム137
|
ストロンチウム90
|
プルトニウム239
|
|||
1
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避難(特別規制)ゾーン
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n.d.
|
n.d.
|
n.d.
|
n.d.
|
2
|
移住義務ゾーン
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555 以上
(15 以上)
|
111 以上
(3 以上)
|
3.7 以上
(0.1 以上)
|
5 以上
|
3
|
移住権利ゾーン
|
185~555
(5~15)
|
5.55~111
(0.15~3)
|
0.37~3.7
(0.01~0.1)
|
1 以上
|
4
|
放射能管理強化ゾーン
|
37~185
(1~5)
|
0.74~5.55
(0.02~0.15)
|
0.185~0.37
(0.005~0.01)
|
0.5 以上
|
(注)避難ゾーン:1986年に住民が避難した地域.n.d.:定義なし.太字は筆者.
ウクライナの放射能汚染定義および年間被ばく線量と1時間当たりの線量率は、オレグ・ナスビット、今中哲二:「ウクライナでの事故への法的取り組み」今中哲二編「チェルノブイリ事故による放射能災害―国際共同研究報告書」【技術と人間 1998年出版】P.48より引用
第1ステージ(強制・義務的移住の実施):セシウム137の土壌汚染レベルが555kBq/m2以上,ストロンチウム90が111kBq/m2以上,またはプルトニウムが3.7kBq/m2以上の地域.住民の被曝量は年間5ミリシーベルトを越えると想定され,健康にとって危険。
第2ステージ(希望移住の実施):セシウム137の汚染レベルが185~555kBq/m2,ストロンチウム90が5.55~111kBq/m2,またはプルトニウムが0.37~3.7kBq/m2の地域.年間被曝量は1ミリシーベルトを越えると想定され,健康にとって危険。
さらに,汚染地域で“クリーン”な作物の栽培が可能かどうかに関連して,移住に関する他の指標もいくつか定められています。
基本概念の重要な記述の1つは、「チェルノブイリ事故後,放射線被曝と同時に,放射線以外の要因も加わった複合的な影響が生じている.この複合効果は,低レベル被曝にともなう人々の健康悪化を,とくに子どもたちに対し,増幅させる.こうした条件下では,放射能汚染対策を決定するにあたって複合効果がその重要な指標となる.」ことです。
セシウム137汚染レベルが185kBq/m2以下,ストロンチウム90が5.55kBq/m2以下,プルトニウムが0.37kBq/m2以下の地域では,厳重な放射能汚染対策が実施され,事故にともなう被曝量が年間1ミリシーベルト以下という条件で居住が認められる.この条件が充たされない地域の住民には,“クリーン”地域への移住の権利が認められます.
こうした基本概念の実施のため,つぎの2つのウクライナの法律,「チェルノブイリ事故による放射能汚染地域の法的扱いについて」および「チェルノブイリ原発事故被災者の定義と社会的保護について」が制定されました。[オレグ・ナスビット、今中哲二:「ウクライナでの事故への法的取り組み」今中哲二編「チェルノブイリ事故による放射能災害―国際共同研究報告書」【技術と人間 1998年出版】P.47-8から引用]
●福島県内をはじめとする放射線汚染地域の実態
前述のように、ウクライナやベラルーシなどチェルノブイリ原発事故による放射線汚染地域ででは、土壌と食物に含まれる各種放射線物質の検査がきめ細かく行われてきました。それらのデータをもとに、移住の権利を保障するための被曝線量限度値が定められました。
移住の権利があるとされた地域の年間被曝限度値は、年間1mSv/yrです。
福島県内には、年間被曝線量が1mSv/yr を超えるところが多いのはご存知だと思います。
とりわけ線量の高い東電第一原発事故現場に近い双葉町などの方々が避難されている福島県内の仮設住宅などでも、線量は高いのです。
2013年1月から2月にかけて私は双葉町の避難所六ヶ所を訪問しました。福島市仮設住宅内では、1.75mSv/yr (0.19 μSv/hr)を計測。白河市では、1.66mSv/yr (0.2μSv/hr)。いわき市三崎公園では、1.47mSv/yr (0.168μSv/hr)でした。前述のように、1991年制定の「チェルノブイリ法」は、年間1ミリ・シーベルト(mSv/yr)以上の地域からは避難する権利を定めました。1977年に発表された「マンクーゾ報告書」は、原子炉運転作業に携わる労働者を年間1ミリ・シーベルト(mSv/yr)以上の現場で働かせてはならないとしました。
仮設住宅の放射線量は高すぎるのです。子どもと一緒に暮らしている家族はありませんでした。また仮設住宅があまりにも狭い(3畳二間に台所と風呂)のも、家族が分断される原因だと考えさせられました。このような環境でふた冬を過ごし、もう2年です。
「町には古くから先人が築いてきた歴史や資産があります。歴史を理解していない人に中間貯蔵施設を造れとは言われたくありません。町民の皆さんが十分議論した後に方向を決めていただきたい。若い人に決めてもらうようにしてほしい」。これは、核大惨事の被害住民を守るため、原因者・東電と日本政府の責任を追及して闘い続けてきた井戸川克隆双葉町前町長の言葉です。
中間貯蔵施設とは、福島県全域で行なわれる除染の結果出てきた汚染土など放射性ゴミの置き場です。この施設を国と福島県は、双葉町など高度に汚染された自治体に押しつけようとしています。しかも、一方で双葉町などの東電事故原発に近い町や村を放射線汚染の程度によって三つに分け、汚染の比較的低いところには、近い将来戻れるかもしれないという幻想を与えているのです。しかも、一方で双葉町など東電事故原発に近い町や村を、放射線汚染の程度によって二つないしは三っに分け、補償額や補償期間に差をつけることによって住民を分断しつつ、汚染の比較的低いところには、近い将来戻れるかもしれないという幻想を与えているのです。
井戸川前町長は、私につぎのように話しました。「福島県全域の土を仮に10cm剥いだとしたとき、どれだけの容積になるのか。その試算すら国はやっていないのです!」。
一昨年6月土の表面数cmに留まっていた汚染は、昨年3月には30cmの深さにまで入り込んでいました。中間貯蔵とは名ばかり、放射性物質の処理方法は全く決まっていません。
一方で環境省は、原発事故で生じた高濃度放射性廃棄物を焼却する実験的施設の建設を福島県鮫川村で始めました。各地で処分が滞っている汚染稲わらや牧草の処理モデルを目指すのだとしています。しかしここで使われる焼却炉は、処理能力が199kg/hrと小さく、廃棄物処理法対象外=環境影響評価不要の曲者なのです
これに対して周辺住民は猛反発。2月14日いわき市で開かれた住民説明会の様子は、福島テレビの下記サイトで見ることができます。
http://www.fnn-news.com/speak/ss/video/ss_wmv_300.html?file=ss2013021528_hd_300
また2月24日、鮫川村青生野地区で開かれた住民説明会は、夜6時から10時までつづき、住民の焼却炉建設反対の声に、村長・村議会議員・環境省の役人はたじたじだったそうです。放射性物資の処理は、核大惨事の原因を作った東電と国が責任をもって行うべきで、最も深刻な被害を受けた自治体住民に押しつけてはいけません。
●福島県の子どもたちの健康障害と生態系異常
移住する権利を主張し運動を展開してきた中手聖一氏(子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク)は、「福島県の子ども」の病死者数について―政府・人口動態統計からわかった事故後の変化―として、次のようなデータを示し警鐘を鳴らしています。
それによれば1~19歳の子どもの病死者総数が、事故後の2011年3月から11月では、前年の同時期に比べ1.5倍に増加。死因別では心疾患が2倍、がん・白血病、感染症、肺炎で増加がみられるのです。
私が個人的に相談された子どもには、心臓中隔欠損と心房中隔欠損が認められました。この子は妊娠6週のときに郡山市で被曝したのです。ちょうど臓器形成の重要な時期でした。それ以外にも、子どもたちの不具合や胎児の異常に地元の方々は気づいています。このような子どもの健康障害を記録し、被曝線量との関係について調査研究することが大切です。そのためには、土壌や食物に含まれる各種放射性物質と放射線量をきめ細かく調査記録することが重要です。この調査については、国と地方自治体が行うよう求めなくてはなりません。
昆虫の異常も報告されています。琉球大学海洋自然科学科のAtsushi Hiyamaらは、事故直後の2011年5月福島県などでヤマトシジミの成虫144匹を採取、調べたところ、12%に異常。同年9月の採取では、23%に異常。それらのチョウ同士を交配した子世代では、それぞれ18%、52%に異常が認められました(Scientific
Reports, 2012/8/15)。
この研究は、東電福島原発事故の生態系への影響として、海外でも注目されています。
牛の体内の人口放射性物質を調べた研究があります。東北大学大学院農学研究科・農学部の福田智一准教授らは、事故原発から20km圏内の放れ牛79頭について、各臓器内のセシウム137など各種核種の分布と濃度を調べました。放射性セシウムのレベルが、胎児と幼児では、それぞれ成牛の1.19倍、1.51倍と高かったと報告しています(Public
Library of Science, PLoS One 2013/01/24)。
●「脱ひばくを実現する移住法」の提言
内部被曝による健康障害の深刻化を食い止めるために、今最も求められているのは、「家族や地域の人間関係を保って放射線汚染の少ない地域に移住し、働き子育てする権利を保障する法」(略称)の制定です。今だからこそ水俣病など公害闘争の歴史に学び、国際的には「チェルノブイリ法」を実現した市民運動に学び、その教訓を生かすべきです。
「脱ひばくを実現する移住法」の制定実現のために必要な行動計画を、以下に列挙します。
○「原発事故子ども・被災者支援法」が2012年6月21日に成立。この法律は、東電原発事故による被害を受けている子どもや住民の「避難の権利」を認め健康や生活を支えるために作られましたが、具体策については、政府の計画や政省令で決められる予定。同年7月10日「原発事故子ども・被災者支援法市民会議」が発足し、弁護士会、国会議員連盟、関係省庁などと連携して運動を展開していますが、今のところ政府は具体策を提示していません。
○除染して年間空間線量20ミリシーベルト以下に下げられれば放射線汚染地域に住んでも良いとの日本政府の基本政策にはっきりNo!を表明し、集団移住の権利を認めさせること。
○除染して年間空間線量20ミリシーベルト以下に下げられれば放射線汚染地域に住んでも良いとの日本政府の基本政策にはっきりNo!を表明し、集団移住の権利を認めさせること。
○移住が先で、除染は後!「脱ひばくを実現する移住法」制定のために全国的な市民運動を展開しなければなりません。
○政府が既に現れている健康障害の実態を詳細に調査するよう求め、その結果を可及的速やかに公表させる必要があります。
○子どもたちのいのちを重視し、健康相談会を開き、健康手帳への記録を支援し、甲状腺検査、乳歯の検査、尿検査、諸疾患の実態をきめ細かく把握なければなりません。
○ホールボディーカウンター(WBC)は、セシウム137などが壊変する際のガンマ線を検出できるが、壊変の過程でβ線しか出さないストロンチウム90は体内にあっても(その飛程がたかだか10mmと短いので)検出できない。プルトニウム239は、α線(飛程約40μm)しか出さないのでWBCではわからない。この事実をよく知った上で議論する必要があります。
○「低線量」放射線内部被曝に起因する健康障害を過小評価する国際原子力軍産共同体(アメリカ合衆国、フランス、日本などの原子力産業)、国連科学委員会(UNSCEAR)、国際原子力機関(IAEA)、国際放射線防護委員会(ICRP)、世界保健機関(WHO)、欧州原子核研究機構(CERN)などが、福島県各地の草の根で展開している、「食べ物に気をつければ大丈夫論」の本質を見抜く目を養う必要があります。
○WHO は、1959年原発推進国連機関であるIAEAとの協定で、「平和利用のための原子力エネルギーの研究および開発と実用とを、全世界で鼓舞」することを決定。以来、放射線による健康障害の調査や対策をほとんど行わないまま、現在に至っています。この憂慮すべき現状に注目し、WHOがいのちと健康を守る本来の役割を果たすよう働きかけなければなりません。
1959年に締結されたWHO とIAEAとの協定に関しては、ベルリン在住のジャーナリスト・梶村太一郎氏のブログ「明日うらしま」http://tkajimura.blogspot.de/2012/04/iaeawho_18.html
に詳細な記述があるので、ご参照ください。
○ヒッグス粒子でにわかに脚光を浴びたCERN(欧州原子核研究機構)とフランスに本社を置く世界最大の原子力産業複合企業アレヴァ(AREVA)との深い関係に注目。CERNは、AREVAなど原子力産業から、年間数百万ユーロの運営資金を得ている。AREVAは、ラ・アーグ再処理工場を有し、原発に燃料を供給するほか、ニジェール、カナダ、オーストラリア、カザフスタンに核燃料調達の権益をもっている事実を重視する必要があります。
○原子力分野防護研究センター(CEPN)の所長であり、ICRP第4委員会委員長Jacques Lochard (ジャック・ロシャール)氏らが福島県各地で展開しているエートス・プロジェクト(ETHOS
Project)が、ベラルーシで放射線から子どもを守る運動に打撃を与え市民を惑わすにために使った"Radiophobia”=「放射線恐怖症」という言葉を巧みに操っている事実にも注目しましょう。
○CERN研究員の肩書きをつけた早野龍五東京大学理学部物理学教授や同大学医科研血液内科坪倉正治医師らの「権威」を掲げた現地活動を適正かつ科学的に評価しなければなりません。
○2011年9月福島県立医科大学で日本財団(笹川財団)が主催して開いた国際専門家会議(UNSCEAR、IAEA、ICRP、WHO、CERNなどが参加、100ミリシーベルト論にお墨付きを与えた)の軸になった医師・山下俊一氏の背景に注目することはとりわけ重要です。ABCC〈原爆傷害調査委員会〉の後を襲った・重松逸造放射線影響研究所三代目理事長は、IAEA事故調査委員長としてチェルノブイリ事故の安全宣言を行いました。長瀧重信同四代目理事長は福島原発事故の安全宣言を行いました。これら二人の医学者の愛弟子的存在である山下俊一氏は、長崎大学から福島県立医科大学に副学長として赴任しました。彼が福島県各地で展開している「年間100ミリシーベルト大丈夫」論を科学的に批判しなければなりません。
○一方で、WHOの第4代事務局長を1988年から1998年まで務めた中嶋宏医師が、前述したWHOの憂慮すべき現状について、重要な証言をしている注目する必要があります。また同じくWHOに感染症の専門内科医として15年間務めたMichel Fernex(ミシェル・フェルネ)氏を軸に、スイスやフランスで展開されている“Independent WHO”、すなわちWHOはIAEAから独立して本来のいのちと健康を守る活動に戻れ運動にも注目しましょう。彼らと協力・協働することは、とても大切です。また、ドイツ、スウェーデン、ウクライナ、ベラルーシなどチェルノブイリ原発事故被害地で闘ってきた、市民・医師・科学者など先人の運動の経験から学び、協働する必要があります。
○上記“Independent WHO”を求め、ウクライナの首都キエフで2001年に開かれた国際会議の模様は、「真実はどこに? ―放射能汚染を巡って―」と題されたドキュメンタリー映画Wladimir Tchertkoff(ウラディミール・チェルトコフ)監督が今大きな衝撃をもって迎えられています。この作品は、コリン・小林氏たちエコー・エシャンジュと<りんご野>が日本語版を制作、ユーチューブにアップしました。http://www.youtube.com/watch?v=oryOrsOy6LI。
また下記email addressに連絡いただければ、DVDを郵送することもできます。一部1200円。純益を内部被曝問題研究会医療部会の子ども救援基金に寄付します。
●おわりに
今こそ私たちは脱被曝の一点で手をつなぎ、日本と世界の子どものいのちを守るために立ち上がりましょう。
脱被曝移住を実現するには、法制化と財政的裏付けが必須です。
財源は、原因者=東電など電力会社・東芝・日立、三菱重工、鹿島などゼネコン、大手金融機関などが準備し基金を作るべきです。同時に、国策として原発を推進してきた、もうひとつの原因者=日本政府が準備すべきものです。
その前に、日本政府は東電などとともに、自らの加害の責任をはっきり認め、被害者に謝罪しなければならないことは、言うまでもありません。
ここに、「脱ひばく移住法」制定のために、さまざまな分野の人びとの知恵を総結集して、全国的な大市民運動を起こすことを呼びかけます。
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