これについて朝日新聞の本田雅和記者は30日の電子版で→以下のように伝えています。
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反核の医師ら「勧告」
2012年08月30日
東京電力・福島第一原発事故の被災地を視察した核戦争防止国際医師会議(IPPNW)のティルマン・ラフ共同代表(オーストラリア)らは 29日、衆院第1議員会館で記者会見し、年間被曝(ひばく)線量1ミリシーベルトを超えるとみられる子どもや妊産婦の移住の保障や被曝者登録制度の早期確 立をめざす「福島の人々の健康を守るための勧告」を発表した。
欧米やアジアの医師や医学者ら30人からなる同会議調査団は27日、東京でのシンポジウムで国内の専門家と討論。28日には川内村などを視察し、県立医大の教授らと意見交換した。
「年間100ミリシーベルト以下は安全だとの主張に科学的根拠はない」とするティルマン代表らは、「日本国内で権威ある専門家や学校教材 が低線量被曝の危険性を軽視する誤った情報を流している」と指摘して「遺憾」を表明。「放射線の健康影響に関する正確で独立した情報を迅速に公開していく こと」を提言した。シンポジウムでは県内で自主的に放射線量を計測している市民団体の代表が「放射能に対する市民の不安を口にすることさえ抑え込まれる構 造になっている」と訴えた。
同会議米国支部のJ・パターソン次期代表らは「原子力は商用も軍用も密接不可分につながっており、放射線障害に根本的治療はなく、予防しかない」などと話した。
(本田雅和)
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なお、この記者会見の全部は→IWJのここの中継で見られます(追時通訳付き)。
またそれに先立って東京で行われた8月27日の国際シンポジウム「福島の原発事故と人々の健康 ~教訓と課題」の→IWJの記録はこちらです。
以下、29日の勧告に関するプレスリリース全文です。
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国際医師団の勧告
福島の原発事故後の人々の健康を守るために
2012年8月29日
福島/東京
「福島の惨事で被害をうけた人々に対して私たちが負っているもっとも重要 な義務は、核兵器を廃絶し原子力から脱却することである」と、核戦争防止国際医師会議 (IPPNW)共同代表のティルマン・ラフ准教授は福島県内の視察後に述べた。米国、 カナダ、英国、ドイツ、フィンランド、イスラエル、インド、ニュージーランド、オース トラリアからの計30名の医師、医学生、学者らは8月28日に福島県内を視察した。
これらの専門家団は、福島の原発事故により現在進行している惨事の中で、人々の健康と 安全を第一優先とする行動をとるために、以下の主要な勧告を行った。
2012年8月29日
福島/東京
「福島の惨事で被害をうけた人々に対して私たちが負っているもっとも重要 な義務は、核兵器を廃絶し原子力から脱却することである」と、核戦争防止国際医師会議 (IPPNW)共同代表のティルマン・ラフ准教授は福島県内の視察後に述べた。米国、 カナダ、英国、ドイツ、フィンランド、イスラエル、インド、ニュージーランド、オース トラリアからの計30名の医師、医学生、学者らは8月28日に福島県内を視察した。
この視察は日本の「核戦争に反対する医師の会」が受け入れたものである。
諸外国からの専門家たちは、福島の原発事故の状況を深い憂慮をもってフォロー
してきた。この数日間、これらの専門家らは、広島における第20回IPPNW世界
大会および8月27日に東京で開催された国際シンポジウムにおいて、日本の放射線、
医学、原子力工学の専門家らから話を聞いてきた。
原子炉と核兵器の根本的な過程は同じである。1998年、IPPNWは、医学上の
根拠により、原子力からの脱却が必要であるという最初の明確な立場をとった。
原子力は、そのすべての段階において健康に対して許容しがたい害をもたらし、
破滅的な放射線の放出の危険性をもち、核兵器に利用可能な濃縮ウランやプルト
ニウムの生産と密接不可分につながっており、世界の人々の健康に対する最も
深刻な脅威である。
これらの専門家団は、福島の原発事故により現在進行している惨事の中で、人々の健康と 安全を第一優先とする行動をとるために、以下の主要な勧告を行った。
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汚染された地域に住んでいる人々は、彼らがどのくらいの放射線被ばくを受けるで
あろうかということに関する完全な情報にアクセスできる必要があり、放射線被ば
くをあらゆる可能な形で最小化するための支援を受けるべきである。年間被ばく線
量が5ミリシーベルトを超えることが予想される人々については、とくに子どもや
子どもを出産できる年齢の女性の場合には1ミリシーベルトを超えることが予想さ
れるときには、彼らが移住を選択する場合に健康ケア、住居、雇用、教育支援およ
び補償が公正かつ一貫した形で受けられるようにしなければならない。最近成立し
た「原発事故子ども・被災者支援法」は、正しい方向に向けた重要な一歩であり、
実現可能な早期に効果的に実施されなければならない。これらのすべての措置は、
原発からの距離ではなく、実際の放射線被ばくレベルに応じてとられなければなら
ない。被ばくを年間1ミリシーベルト以下に減らすためのあらゆる努力を可能な限
り早く行わなければならない。
-
福島の原発事故によりあらゆる形で1ミリシーベルトを超える被ばくをしたであろ
う人々全員の包括的な登録制度を早期に確立することが必要である。その中には、
福島県に隣接する県の人々も含まれるべきある。この登録には、事故後の放射線被
ばくに関する最善の評価が組み合わさるべきであり、死亡率、ガン、先天性形成異
常、妊娠・出産状況との関係に関する全国的なデータとの関係に関するベースとし
て活用されるべきである。
-
専門家らは、地震発生以後福島第一原発で働いている2万人を超える労働者たちの、
また、破損した原子炉ならびに使用済み燃料プールを廃棄していくために今後何十
年にもわたってそこで働かなければならないであろうさらに多くの労働者たちの健
康状況に対して憂慮している。労働者を保護する措置が不十分であったり、被ばく
線量計が偽装され低線量を示したりといった報道があることを、専門家らは問題視
している。原子力産業に従事するすべての労働者のための生涯にわたる放射線被ば
く登録管理制度が早期に確立されなければならない。
-
権威ある専門家や学校教材を通じて、放射線の危険性を軽視するような誤った情報
が流布されてきたことは遺憾である。「原子力ムラ」の腐敗した影響力が広がって
いる。放射線の健康影響に関する正確で独立した情報をタイムリーに公開していく
ことがきわめて重要である。
核爆発や原子炉事故による破滅的な影響に対して、効果的な処置法は存在しない。
制御不能な状態は防がなければならないのであるから、安全で持続可能な世界の
ためには、核兵器も原子力もなくさなければならないことは明白である。
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以上ですが、この勧告が誤解され解釈される恐れがありかもしれませんので
少しコメントしておきます。
ここに1ミリシーベルトとの基準がでてきていますが、京大の小出裕章助教授が
「成人が年間1ミリシーベルト被曝すると2500人に1人が癌になります」と
述べているように、大人の5倍の放射線感度のある子どもだと、500人に1人、
もっと感度の強い乳児や胎児などではさらに癌発生の確率は高くなります。
既に昨年の→ドイツ放射線防護協会の日本政府への勧告の翻訳を報告しました時に、
その原註の解説で紹介しましたように、ドイツでは原発立地の周辺では、
全国で例外なく5歳以下の幼児の白血病が有意/顕著に高いことが 疫学的に
完全に立証されています(これはいわゆる「Kikk Study」と通称されており、
腐敗した原発ロビーの学者が反論できないので、無視しています)。
すなわち、安全な被曝閾値はないということが前提にしなければなりません。
原発周辺の非常に低い放射線被曝でも安全ではないのです。
フクシマ事故により日本の非常に広い範囲がすでに危険地帯となっている現実を
前提とすべきなのです。
ここまで、書いたところ実にタイミングよく市民と科学者の内部被曝研究会のHPに
先の6月に訪日されたドイツの専門家の資料集の翻訳が公開されました。
→ここでPDFで全文が読めます。
この中の7・プフルーグバイル博士「ドイツの原子力発電所周辺の癌と白血病・
Kikk調査」をお読み下さい。博士はドイツの連邦放射線防護庁によるこの疫学調査
の専門家委員の1人でしたので 、当事者としての解説となっています。
また、インゲ・シュミッツ-フォイエルハーケ教授の歴史的功績である「広島の
被爆者の被曝線量の再評価」に関する資料と解説も是非お読み下さい。
いづれも、放射線被曝に関する長い研究と裏付けのある、現在では誇張ではなく
世界で最先端の論文とその解説です。この二人のドイツの専門家の業績こそ、
世界の原子力産業と核マフィアが最も恐れているものに属します。
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目下日本滞在中のプフルーグバイル博士の大阪での講演での質疑応答を守田さんが
ブログ「明日のために」に掲載されていますのでご覧ください。生の声の記録です。
→「関西を命のセイフティゾーンにするために」
(9月2日追加)