2012年5月の日本の太平洋岸で観察された皆既日食の際、たまたま東京におり、かなりの曇り空でしたが、雲がちょうど良いフィルターとなり小さなカメラの露出を最大に絞るとこの写真が撮れました。 このとき東京に多いカラスが騒いだことを覚えています。
2012年5月20日の皆既日食。午前7時35分。東京大田区で撮影 |
皆既日食はノルエーの北極圏まで行かないと観察できませんでした。
天気は快晴のため、朝からラジオのトップニュースで大騒ぎです。子どもたちの間では日食/Sonnenfinsternis/ゾンネンフィンスターニスという長ったらしい言葉もSofi/ゾフィーという愛称でよばれているとニュースが伝えています。ベルリンッ子はあだ名をつけることが得意なのです。好天のため学校は授業ができなく、国会議員も議会をさぼって観察している云々・・・
しかも大陸性の気候のベルリンはこの日、気温は早朝は零下で最高気温も11度ほどで、湿度が15%しかないほど乾き切っています(そのため上空の飛行機雲も数秒で消えてしまうほどです)。湿度の高い東京とは条件がまったく異なります。
フィルターなしには撮影は無理です。そこで一計を案じて近所の川辺に出かけて撮影したところ、素人写真としては上出来の写真が撮れましたのでお目にかけます。
まずは日食が始まって約30分後の写真です。
Berlin.20.3.2015.um10:30 Foto:T.Kajimura |
このとき「あそこに大きな鳥がいる」との声にさそわれて振り返ってみると、川辺のようやく芽を吹き出した柳の大木の枝に大きな鳥がとまって(太陽に向かって)日向ぼっこをしています。一瞬、近くの公園にいるオオタカではないかと思ったのですが、何のことはない何時も我が家の中庭にやってきて、ネコのアズキとにらみ合っている山鳩でした。急に気温が下がりだしたので、羽をふくらませて大きく見えただけです。
Berlin.20.3.2015.um10:49 Foto:T.Kajimura |
さて以上がわたしの写真ですが、以下は配信された写真をお借りします。
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さて、長くなりましたが、以上はすべて余談です。実はこの日食は再生可能エネルギーによる発電量、特に太陽光発電のそれが急速に増えているドイツの電力業界では長い間の頭痛の種でした。特に昨日のように良く晴れた日の、しかも正午前後の日食が最悪の条件 として危惧されたのでした。
これについては昨日、朝日新聞がベルリンから → 欧州、日食で発電危機? 「太陽光」導入進み懸念と伝えています。この玉川支局長の報告にもあるように、太陽光発電の多いスペインをはじめ、ドイツでは数年前からこの問題の対策が議論されていました。
日食で太陽光発電の電力供給が一度に失われたらブラックアウトが起こるのではないかと心配されたわけです。
特にドイツの太陽光発電は最大総量で現在約38000メガワットの発電容量があり、これは欧州全体の太陽光発電の約半分に当たります。これは大型の原発の30基分にも当たる膨大な量です。好天の昼間に日食の始まりとともに、この電力供給が突然低下し、日食の後半にまた急速に電力が供給されたら、はたして何が起こるかわかりません。経験のない事態が予測されたのです。
さてどうするか?
そこでいささか専門的になりますが、ベルリンの技術経済大学が、この日食で起こりうる→電力供給の振幅のシュミレーションを天候状態よる最大値と最低値について行って昨年の秋に発表しています。
このペーパーにある予測の最大振幅(全国が快晴である場合)を世界中の誰にでも理解できるように映像化したものがこれです。
この日、ドイツが快晴である場合、日食によってどれだけ太陽エネルギーが谷間のように失われるかが画面右側の映像でよくわかります。日の出から日没までの太陽光電力の供給量の変化が現され、日食でそれに極端な谷間ができることが示されています。左の映像は太陽のエネルギー量を色分けで示しています。実際にもこれに近い状態が起こりました。
You Tubeでは→こちらです。
さて、これへの対策として、欧州全体の送配電企業のネットワークで対策が多くとられましたが、ドイツでの主なものはふたつでした。
ひとつは(ドイツでは日本でもフクシマ事故の後でやっと議論が出てきた発電と送電が分離されています。また電力は国内だけでなく欧州全体で自由化され取引されています)、ドイツの各社の送配電企業は、あらかじめこの日の午前中のため電力取引市場で普段の倍に当たる予備電力供給を、少し高めの価格で主に揚水発電所と火力発電所に注文して確保しました。
ふたつ目には、大量電力消費産業である電気炉を使用するアルミニューム精錬企業4社との連携です。日食が始まり太陽電力が急速に減少する日食の前半の45分間は、予備電力を急速に供給しつつ、同時に電気炉の稼働を生産に支障の起きない数分ずつのタイミングで減少させ、供給量を安定させ、後半の45分間には急速に増大する太陽電力を消費するようフル稼働にさせ、また融通が利く火力発電の送電を減少させたのです。このようにして急速な電力供給の振幅を安定させ、のりこえることに成功しています。
Tenett 20.3.2015 DPA |
全国の火力発電所も送配電企業も通常の倍に当たる職員を動員して対策に当たったと報道されています。実際に行われた対策は上記なような単純なものではなく、かなり複雑なオペテーションが短時間のうちに細かく実施されたようですが、それらはまだ報告されていません。
ただ昨日は西ドイツの工業地帯の一部が曇っており、最大の振幅は免れたとのことです。それでも、正午前の日食であったために、太陽光発電量は最初の45分間に13000メガワットから約6000メガワットまで減少し、後半の正午までにそこから一挙に21000メガワットまで急増したとされたと本日報道がありました。
ということは、大型原発の発電容量に置き換えると45分で5基分の電力が減り、そこから45分の間に11基分の電力が急増したことになります。
なを、ロイターの報道では原発ロビーの影響かどうか判りませんが「原発があるから大丈夫」と書かれたものもありますが、短時間で発電量を調整できない原発はこの対策には最も不向きのため、何の対策にもかかわらず通常運転をしていました。誤解を生む報道です。
さて関連ですが、二ヶ月前にドイツの大手原発事業主→エーオン社の戦略転換に関した記事の紹介をしておきましたが、この記事にはドイツの再生エネルギーと特に太陽光発電に関して以下の記述がありますので、その部分だけを以下引用しておきます。
興味ある方は『世界』2月号をご覧ください。この記事は昨年12月に執筆したものです。
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・・・さてドイツの四大電力会社が、直面している最大の問題は原発廃止ではない。もっと大きな問題は、前述の原発稼働延長策の失敗で金の卵を取り損なっているうちに、「完全に変化した情勢」すなわち二〇〇〇年の再生エネルギー促進法以来、特にその固定価格買取り制度によって急速に成長する再生エネルギー発電市場にすっかり乗り遅れてしまったのが、彼らの最大問題である。二〇一四年の上半期の電力供給統計で、エコロジー電力は二八・五%の記録を達して、褐炭(二五・一%)、原子力(一五・四%)を尻目に、ついに最大の電力供給源となっており、今年はさらに記録を伸ばすことは間違いない。そしてこのトップ産業の事業主とはだれか。全国に分散する地域の環境保護運動が促進してきたエネルギー協同組合などに投資する無数の市民、または地方自治体のエネルギー供給事業体などである。この分野の四大電力会社の設備容量といえばわずかに五%にすぎないのである。
この情勢下で何が起こっているのか。長い間ドイツの電力会社の経営者と株主は日ごと昼食時にはご機嫌が良かった。この国では家庭の主婦たちが伝統的に昼食の準備に最も多くの電力を消費するからだ。ところが近年は昼食時が悪夢となった。自由化されている電力取引市場で、風力に加えてこの時間帯には太陽光電力が需要を上回って供給され取引市場での卸値が暴落し、大手電力会社の石炭やガスの火力電力が赤字となるのが常態となっている。喜ぶのは、オーストリア、ポーランドなどの近隣諸国だ。オランダなどは安い電力の輸入のため、自国の発電を停止して買い付けることもある。・・・
-----------------------------------------昨日の日食は、いわば太陽光発電の弱点を集中的にあぶりだすことになりましたが、それも見事にクリアーしたドイツの再生エネルギー業界は、また貴重な経験を得たことになり安堵とともに自信をつけたとも報道されています。おそらく、送配電で多くの最新のハイテク技術が駆使されたことでしょう。このようにして、ドイツは現在の約30%の再生エネルギー発電をこつこつと拡大するでしょう。それだけの技術とビジョンをしっかりと持っており、かつ政府が先頭に立っているからです。
日本も原発にしがみつくことを止めてエネルギー転換をできるだけ早期に実現すべきです。そうでないと、高齢化し資源のない日本はまもなく飯が食えなくなります。ギリシアとは構造が違うとはいえ、間もなく借金漬けの破産国家とならざるを得ないことは目に見えています。
前回報告しましたように、→メルケル首相の訪日での丁寧な警告が理解できなく、原発再稼働にこだわるだけの政権は、どなたかが上手く言ったように「不安倍増政府」そのものなのです。一日でも早く退場すれば世界中がやれやれとホッとすることは間違いありません。
22日の東京の反安倍大デモのツイッターより |
24日追加です:
本日付けで毎日新聞の論説委員の方が、先月ドイツの再生エネルギーの状況をを視察した記事を電子版に掲載されています。上記わたしの『世界』への寄稿が参考になっているようです。現場に来てようやくドイツの実情が理解できたようです。
こちらです :→<論説委員が行く>ドイツのエネルギー大転換 国民の意思、政策に反映=青野由利
青野さんが参考にしているアゴラというシンクタンクは、記事に出てくる経済エネルギー省の現次官のバーケさんが立ち上げたものです。彼はドイツの再生エネルギーの父と言われる人物で緑の党です。この人物の意見はわたしもしばしばこれまでの『世界』への寄稿で取り上げています。ご参考まで。