2015年3月22日日曜日

298:ドイツは日食「ゾフィー」の太陽光発電への影響をいかにしてのりこえたか

昨日、3月20日にヨーロッパと北極にかけて皆既日食がありました。天文学に興味があるわけでもないのですが、いかなることか明日うらしまは日食に出くわすのです。
2012年5月の日本の太平洋岸で観察された皆既日食の際、たまたま東京におり、かなりの曇り空でしたが、雲がちょうど良いフィルターとなり小さなカメラの露出を最大に絞るとこの写真が撮れました。 このとき東京に多いカラスが騒いだことを覚えています。

2012年5月20日の皆既日食。午前7時35分。東京大田区で撮影
  昨日のベルリンで観測できた日食は皆既日食ではなく、最大で約75%の日食でした。
皆既日食はノルエーの北極圏まで行かないと観察できませんでした。
天気は快晴のため、朝からラジオのトップニュースで大騒ぎです。子どもたちの間では日食/Sonnenfinsternis/ゾンネンフィンスターニスという長ったらしい言葉もSofi/ゾフィーという愛称でよばれているとニュースが伝えています。ベルリンッ子はあだ名をつけることが得意なのです。好天のため学校は授業ができなく、国会議員も議会をさぼって観察している云々・・・
しかも大陸性の気候のベルリンはこの日、気温は早朝は零下で最高気温も11度ほどで、湿度が15%しかないほど乾き切っています(そのため上空の飛行機雲も数秒で消えてしまうほどです)。湿度の高い東京とは条件がまったく異なります。
フィルターなしには撮影は無理です。そこで一計を案じて近所の川辺に出かけて撮影したところ、素人写真としては上出来の写真が撮れましたのでお目にかけます。
 まずは日食が始まって約30分後の写真です。
Berlin.20.3.2015.um10:30 Foto:T.Kajimura

 このとき「あそこに大きな鳥がいる」との声にさそわれて振り返ってみると、川辺のようやく芽を吹き出した柳の大木の枝に大きな鳥がとまって(太陽に向かって)日向ぼっこをしています。一瞬、近くの公園にいるオオタカではないかと思ったのですが、何のことはない何時も我が家の中庭にやってきて、ネコのアズキとにらみ合っている山鳩でした。急に気温が下がりだしたので、羽をふくらませて大きく見えただけです。
 
Berlin.20.3.2015.um10:49 Foto:T.Kajimura
これが、この日食でベルリンでの最大に缺けた太陽です。月と見違えますね。
さて以上がわたしの写真ですが、以下は配信された写真をお借りします。
DPA
これが、ベルリン近くのポッツダムのかつてアインシュタインがいた天文台によるこの日の日食の時系列です。

DPA
犬好きのドイツ人には欠かせない報道写真。ワン公の観察メガネの真ん中に太陽が写っているのを撮るのは難しかったでしょうね。
DPA

ワン公だけではなく、最近→このブログにも登場していたがいただいたオランダのアレクサンダー国王が王女と一緒にたまたまこの日、ハンブルク港の魚市場を訪問しており、日食を観察したと報道されました。

 さて、長くなりましたが、以上はすべて余談です。実はこの日食は再生可能エネルギーによる発電量、特に太陽光発電のそれが急速に増えているドイツの電力業界では長い間の頭痛の種でした。特に昨日のように良く晴れた日の、しかも正午前後の日食が最悪の条件 として危惧されたのでした。
これについては昨日、朝日新聞がベルリンから → 欧州日食で発電危機? 「太陽光導入進み懸と伝えています。この玉川支局長の報告にもあるように、太陽光発電の多いスペインをはじめ、ドイツでは数年前からこの問題の対策が議論されていました。
日食で太陽光発電の電力供給が一度に失われたらブラックアウトが起こるのではないかと心配されたわけです。
 特にドイツの太陽光発電は最大総量で現在約38000メガワットの発電容量があり、これは欧州全体の太陽光発電の約半分に当たります。これは大型の原発の30基分にも当たる膨大な量です。好天の昼間に日食の始まりとともに、この電力供給が突然低下し、日食の後半にまた急速に電力が供給されたら、はたして何が起こるかわかりません。経験のない事態が予測されたのです。
さてどうするか?

 そこでいささか専門的になりますが、ベルリンの技術経済大学が、この日食で起こりうる→電力供給の振幅のシュミレーションを天候状態よる最大値と最低値について行って昨年の秋に発表しています。
 このペーパーにある予測の最大振幅(全国が快晴である場合)を世界中の誰にでも理解できるように映像化したものがこれです。
この日、ドイツが快晴である場合、日食によってどれだけ太陽エネルギーが谷間のように失われるかが画面右側の映像でよくわかります。日の出から日没までの太陽光電力の供給量の変化が現され、日食でそれに極端な谷間ができることが示されています。左の映像は太陽のエネルギー量を色分けで示しています。実際にもこれに近い状態が起こりました。
You Tubeでは→こちらです

さて、これへの対策として、欧州全体の送配電企業のネットワークで対策が多くとられましたが、ドイツでの主なものはふたつでした。

 ひとつは(ドイツでは日本でもフクシマ事故の後でやっと議論が出てきた発電と送電が分離されています。また電力は国内だけでなく欧州全体で自由化され取引されています)、ドイツの各社の送配電企業は、あらかじめこの日の午前中のため電力取引市場で普段の倍に当たる予備電力供給を、少し高めの価格で主に揚水発電所と火力発電所に注文して確保しました。

 ふたつ目には、大量電力消費産業である電気炉を使用するアルミニューム精錬企業4社との連携です。日食が始まり太陽電力が急速に減少する日食の前半の45分間は、予備電力を急速に供給しつつ、同時に電気炉の稼働を生産に支障の起きない数分ずつのタイミングで減少させ、供給量を安定させ、後半の45分間には急速に増大する太陽電力を消費するようフル稼働にさせ、また融通が利く火力発電の送電を減少させたのです。このようにして急速な電力供給の振幅を安定させ、のりこえることに成功しています。
Tenett 20.3.2015 DPA
この写真は昨日、ニーダーザクセン州のテネットというひとつの送配電企業のオペレーションルームで太陽光電力の供給振幅をモニターしている様子です。

 全国の火力発電所も送配電企業も通常の倍に当たる職員を動員して対策に当たったと報道されています。実際に行われた対策は上記なような単純なものではなく、かなり複雑なオペテーションが短時間のうちに細かく実施されたようですが、それらはまだ報告されていません。

 ただ昨日は西ドイツの工業地帯の一部が曇っており、最大の振幅は免れたとのことです。それでも、正午前の日食であったために、太陽光発電量は最初の45分間に13000メガワットから約6000メガワットまで減少し、後半の正午までにそこから一挙に21000メガワットまで急増したとされたと本日報道がありました。
ということは、大型原発の発電容量に置き換えると45分で5基分の電力が減り、そこから45分の間に11基分の電力が急増したことになります。
なを、ロイターの報道では原発ロビーの影響かどうか判りませんが「原発があるから大丈夫」と書かれたものもありますが、短時間で発電量を調整できない原発はこの対策には最も不向きのため、何の対策にもかかわらず通常運転をしていました。誤解を生む報道です。

 さて関連ですが、二ヶ月前にドイツの大手原発事業主→エーオン社の戦略転換に関した記事の紹介をしておきましたが、この記事にはドイツの再生エネルギーと特に太陽光発電に関して以下の記述がありますので、その部分だけを以下引用しておきます。
 興味ある方は『世界』2月号をご覧ください。この記事は昨年12月に執筆したものです。
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・・・さてドイツの四大電力会社が、直面している最大の問題は原発廃止ではない。もっと大きな問題は、前述の原発稼働延長策の失敗で金の卵を取り損なっているうちに、「完全に変化した情勢」すなわち二〇〇〇年の再生エネルギー促進法以来、特にその固定価格買取り制度によって急速に成長する再生エネルギー発電市場にすっかり乗り遅れてしまったのが、彼らの最大問題である。二〇一四年の上半期の電力供給統計で、エコロジー電力は二八・五%の記録を達して、褐炭(二五・一%)、原子力(一五・四%)を尻目に、ついに最大の電力供給源となっており、今年はさらに記録を伸ばすことは間違いない。そしてこのトップ産業の事業主とはだれか。全国に分散する地域の環境保護運動が促進してきたエネルギー協同組合などに投資する無数の市民、または地方自治体のエネルギー供給事業体などである。この分野の四大電力会社の設備容量といえばわずかに五%にすぎないのである。
 この情勢下で何が起こっているのか。長い間ドイツの電力会社の経営者と株主は日ごと昼食時にはご機嫌が良かった。この国では家庭の主婦たちが伝統的に昼食の準備に最も多くの電力を消費するからだ。ところが近年は昼食時が悪夢となった。自由化されている電力取引市場で、風力に加えてこの時間帯には太陽光電力が需要を上回って供給され取引市場での卸値が暴落し、大手電力会社の石炭やガスの火力電力が赤字となるのが常態となっている。喜ぶのは、オーストリア、ポーランドなどの近隣諸国だ。オランダなどは安い電力の輸入のため、自国の発電を停止して買い付けることもある。・・・
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  昨日の日食は、いわば太陽光発電の弱点を集中的にあぶりだすことになりましたが、それも見事にクリアーしたドイツの再生エネルギー業界は、また貴重な経験を得たことになり安堵とともに自信をつけたとも報道されています。おそらく、送配電で多くの最新のハイテク技術が駆使されたことでしょう。このようにして、ドイツは現在の約30%の再生エネルギー発電をこつこつと拡大するでしょう。それだけの技術とビジョンをしっかりと持っており、かつ政府が先頭に立っているからです。
日本も原発にしがみつくことを止めてエネルギー転換をできるだけ早期に実現すべきです。そうでないと、高齢化し資源のない日本はまもなく飯が食えなくなります。ギリシアとは構造が違うとはいえ、間もなく借金漬けの破産国家とならざるを得ないことは目に見えています。
  
 前回報告しましたように、→メルケル首相の訪日での丁寧な警告が理解できなく、原発再稼働にこだわるだけの政権は、どなたかが上手く言ったように「不安倍増政府」そのものなのです。一日でも早く退場すれば世界中がやれやれとホッとすることは間違いありません。
22日の東京の反安倍大デモのツイッターより

24日追加です:
本日付けで毎日新聞の論説委員の方が、先月ドイツの再生エネルギーの状況をを視察した記事を電子版に掲載されています。上記わたしの『世界』への寄稿が参考になっているようです。現場に来てようやくドイツの実情が理解できたようです。
こちらです :→<論説委員が行く>ドイツエネルギー大転換 国民意思政策に反映=青野由利
 
青野さんが参考にしているアゴラというシンクタンクは、記事に出てくる経済エネルギー省の現次官のバーケさんが立ち上げたものです。彼はドイツの再生エネルギーの父と言われる人物で緑の党です。この人物の意見はわたしもしばしばこれまでの『世界』への寄稿で取り上げています。ご参考まで。



 

2015年3月16日月曜日

297:メルケル訪日のドイツでの報道/メディアから匙を投げられた安倍政権とNHK/言論の自由の深化はどうすべきか

 少し遅くなりましたが、今月の9日、10日のメルケル首相の訪日に関する、ドイツの報道について以下簡単にお報せします。
 まずは、以下に観られるようにドイツの主要プリントメディアでは、なんと安倍首相との首脳会談後の記者会見の写真が、まったく使われませんでした。代わりに天皇を訪問した時と、朝日新聞社と日独センター共催の基調講演で中学生に歓迎されるメルケル首相の写真だけです。
 このこと自体が、いかにドイツメディアが安倍政権に失望して、匙を投げてしまっていることの現れであるといえます。すなわち首脳会談としての報道価値がないとの判断の現れです。

 日本へ出発前に彼女が脱原発について率直なメッセージを出したことは→前回ここでベルリンでの脱原発デモと同時に速報でお報せしたとおりです。
  以下、主要紙の見出しとリードのみ翻訳し、論調の共通している南ドイツ新聞の論説はネットでは読めませんので、翻訳を終わりに付けておきます。いずれも3月10日付けのものです。これに加えて秘密保護法などで、言論の自由が危機にある日本で、それを深化するについての、コメントも付け加えておきます。

また電子版とは記事本体は同内容でも編集者が違うので見出しや、リードが異なることがあります。

Frankufurter Allgemeine 10.3.2015
→フランクフルター・アルゲマイネ紙
 日本の平常への困難な道(電子版では:安倍晋三への「ドイツ語授業」)
メルケル首相は日本で、ドイツの過去とのかかわりを学生たちに報告した。安倍首相とは軍隊の将来について会談した。 

24日追加です:この記事の主要な部分の翻訳を解説付きでベルリンのまるさんが緑の1Kwに掲載されています。 こちらです: →メルケル首相ドイツ語授業

Die Welt 10.3.2015
→ディ・ヴェルト紙:
妊娠したら謝らなければならない
日本は老齢化しており中期的に労働力が不足する。 にもかかわらず仕事を持っている五分の一の母親はいじめられている。アンゲラ・メルッケル首相は女性の雇用促進ではまだ初期段階の国を訪問した。
Süddeutsche Zeitung 10.3.2015
→ 南ドイツ新聞:
選び抜かれた礼儀(電子版見出し:メルケル慇懃に批判を試みる)
アンゲラ・メルケルは日本訪問で、脱原発の長所と第二次世界大戦での自ら犯罪の承認について、ただ非常に慎重に説得しようと望んだ。

(追加です)この記事をスイスにお住まいの長坂道子さんという方がブログで丁寧に全文を翻訳されていますので紹介させていただきます。これを読まれれば筆者は別ですが同紙の以下の論評の背景がよく理解できるでしょう。
     →メルケル首相、「丁寧な批判とい形で日本訪問

Süddeutsche Zeitung 10,März 2015
 南ドイツ新聞論説の全文翻訳:
日本:和解の教訓
クリストフ・ナイトハルト
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 日本は批判に慣れていない。政府は、その第二次世界大戦での歴史観に疑問が呈されると、歴史観で孤立してしまっていることがすっかり国際的コンセンサスとなっているにもかかわらず、拒否反応を示すのである。批判が善意でありえても東京には伝わらない。歴史を歪めることは長期的には無理である。
 アンゲラ・メルケル首相は東京への旅の前に、領土と歴史問題での対処に関して、東京を批判したり教訓を与えることなく、どのように表現すべきかを自問しなければならなかった。彼女はこの微妙な課題を巧みに解決した。彼女は忠告を与えず、ただドイツの和解の経験を指摘しただけであった。彼女は、例えば東アジア諸国のかたくなな姿勢への選択肢として、「1500年、1600年、1700年当時の国境がどこであったか」などは、問題とすべきではないと述べた。メルケルの含意ある示唆は、すでに政府が非難攻撃しているリベラルな朝日新聞社で基調講演を行う決断にみられた。その場の聴衆の質問に答えて、彼女は言論の自由について何の問題もないと述べた。
 民主的な政府には異なる意見が必要であるといった。 日本の公共テレビのNHKはこのことからまったく学ぼうとはしない。そのニュースでは首相がどこに登場したかを、ある新聞社でとしか伝えなかった。日本の学習能力はこの程度である。

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 (以上論説翻訳)

 この短い論説に良く示されているように、メルケル首相は、非常に慎重に、脱原発の選択肢や、特に歴史認識に関して、その意義を伝えたいとしたのに、アレルギー的に拒否反応するだけで、聞く耳を持たない出来の悪い反抗期の子供のような安倍政権と、「朝日新聞社で」と具体的に伝えないNHK(*注釈)は、ドイツメディアから落第点を付けられ、ついに匙を投げられてしまいました。これが7年ぶりのドイツ首相の日本訪問の結果の現実でした。日本の報道だけではこのような国際世論は伝わらないでしょう。

 ただひとつ、メルケル首相は天皇だけとは、予定時間を越えて20分も大変気持ちの良い対話ができて非常に喜んでいるとの、政府報道官からの情報がありました。上記の記事の写真も、その天皇に対する表敬の意であると解釈することもできます。

またこの論説の筆者が指摘している「第二次世界大戦での歴史観」、「国際的コンセンサス」のひとつは、このブログの→ここでも確認できるとおりです。 安倍政権の歴史認識は日本の極右とメディアでしか通用しない代物なのです。

(*注釈 )NHKはここで、『日本のメディアでは、他社の報道を引用しないという慣習があることを知らないところからくる誤解だ」と言い逃れをするかもしれません。
しかしこの慣習は非常に日本的なおかしげなものです。おそらくは記者クラブ制度からくるなれ合いの悪習であるのではないかと思われます。

 ドイツでもそうですが、少なくとも欧米のメディアでは、日常的に「〇〇新聞はXXと報道した」と引用するのは当たり前のことです。その上で、自らのコメントを付けます。このようにして、報道媒体間での議論が切磋琢磨され、しのぎを削ることができ、豊かな議論と報道ができるのです。
 たとえば、「慰安婦問題」に関する朝日新聞叩きの根拠になっている「吉田清次偽証言」にしても、当時、この偽証言を報道したのは朝日新聞だけではありません。読売新聞も、NHKも、彼の証言を同じように報道しています。あたかもそれが無かったごとく、自己検証抜きで、平気で朝日を新聞を批判する厚顔無恥で二枚舌のインチキがまかり通るようなことは、欧米のメディアではあり得ないことです。

 このようなおかしな引きこもりってもたれあう悪習から抜け出し、日本の大手新聞もどんどん他社の報道を引用して、論議を深めることが望まれます。

 ドイツのシュピーゲル誌は、世界中の報道を引用して、それに辛口のコメントを付けます。だから面白く、また人気があるのです。言論の自由とはこのことでもあるのです。

 また、国際的な大きな問題では、プリントと電波メディアが縦横無尽に協力体制を採ることもままあります。最近では言論の自由の危機に面して、スノーデンの暴露に関して大手メディアが国際的に協力しました。
言論の自由の文化は、四方八方からの良質の批判を呼び起こすことにより深化し定着するのです。日本のメディアのひ弱さの原因のひとつがここにあります。

 今回のメルケル首相の訪日報道にしても、基調講演をした朝日新聞の嬉しくて舞い上がったような報道ぶり、それに対し憮然としてできるだけ無視する他社の沈黙ぶりは、まるで小学生のケンカのようなものです。

(3月17日追加)
ドイツの公共第2テレビZDFのメルケル主張訪日のレポートが日本語音声付きで視られます。これはドイツ時間の9日の夜、日本の10日未明の放送です。→こちらです。
ドイツ世論が安倍政権を非常に批判的に観ていることがここでも判ります。

2015年3月8日日曜日

296;ベルリンで元気なフクシマ事故4周年の脱原発デモ;メルケル首相も訪日を前に「日本も脱原発と再生エネルギーの道を歩むべき。安全が最高の戒律」とメッセージ

 先日→予告しましたように本日3月7日、ベルリンでは多くの市民団体が連帯してフクシマ事故4周年の脱原発デモが行われました。
 
 また、このデモにまるで併せたかのようなタイミングで本日、メルケル首相は9日からの7年ぶりの日本への公式訪問を前に、ビデオと政府のプレスリリースを発表し、日本政府との会談では「恐ろしいフクシマ事故で、ドイツは脱原発と再生可能エネルギー政策を大幅に進める決断をし促進している。安全こそが最高の戒律であるからだ。日本もそうすべきであり、また出来る。」との主旨の明確なメッセージを公表しました。

 というわけで、 今回はデモの写真報告とメルケル首相のメッセージをまとめてお伝えします。そこでは、一番肝心な翻訳と通訳のキーワードを指摘しておきます。

 まずは、脱原発デモの写真報告です。
今年の参加人数は昨年より減って約700人ほどとなりましたが、相変わらず元気でバラエティーに富んだ、若者たちの多い元気なデモでした。日独のメディアも多く取材していましたので、報道も多くなると思います。とりあえず写真だけを掲載し、解説は後ほど付けます。

取り急ぎ、末尾にメルケル首相のメッセージを原文から翻訳しておきます。この解説も後ほど付けます。
(写真はクリックしてパノラマで拡大してご覧ください)

さて一夜明けて、写真に簡単な説明をつけます。
 またデモは共同通信とNHKが相次いで丁寧に報道しました。こちらをご覧ください。→共同通信。→NHK。
また、カザグルマデモの→Facebookではドイツ人の参加者の写真がたくさん投稿されています。素晴らしい写真も多く見られます。

この日は、少し風は強くカザグルマデモにはもってこいの好天。気温は14度ほどで春の兆しが。

定刻前にブランデンブルク門のパリ広場に行ってみると、もうカザグルマや脱原発グッツの出店が出ています。
和服を羽織る準備ですね。
この横断幕「フクシマを忘れるな」は、日本からのプレゼントだそうです。東京の経産省前のテント村にも同じものがあり、今日はデモの先頭に立ちます。
風があり、少女のシャボン玉にも絶好です。

この旗は、ベルリンのシェーネベルク区の市民団体のものですが、歴戦を物語ってボロボロになっています。

反核医師の会の旗もあります。
ベルリンの公共第一テレビのカメラ。さっそく夕方のニュースで伝えています。
何やら、今年はお祭り気分が出そうです。

中心を担うのは、このような日本人の若者たち。コスチュームの準備だけでも大変でしょうね。
ドイツ人若者も創意工夫。
他方ではちゃんとした和服姿も。
ありゃ、日本からの 辛淑玉 (シン・スゴ)さんも参加して、ベルリンの韓国人たちと話しています。

そろそろ、デモ出発前の挨拶とパーホーマンスが始まります。
この緑のクマさんは、アベノミクスをもじったゼロノミクマさんといい、わざわざ日本から出張して、これから各地のデモに参加するようです。ベルリンのクマの親戚ですね。

街宣車もカラフル。
ここから、会津磐梯山の踊りが始まりました。






共催のドイツ「自然友の会」の代表の挨拶と司会で始まります。

まずは、日本人グループ団体の挨拶と、全ての核被害者への黙祷ふが行われました。



この日、わたしのブログの予告を読み、会津出身のご夫婦がわざわざフランクフルトから、参加されていました。ところが「会津から参加者がいないのでがっかりした」と、きつくお叱りを受けました。筆足らずで申し訳ありませんでした。

          パリ広場を埋める集会となっています。



クマさんによる踊りのステップの指導がありました。

警備のお巡りさん。右のお巡りさんはなんとちょんまげ姿です。おしゃれですね。

さて、恒例のパーホーマンス。






いよいよ出発です。

おなじみ、ドラム隊も参加。


なにやら、脱原発カーニバルの行列のようです。ひょっとしたらベルリンの新名物になるかもしれません。
幼い子供たちもそれぞれ参加。ドイツの反原発運動はすでに三世代目がこのように育っています。


ウンターデンリンデンを行進。


「フクシマは警告する。世界中で脱原発を!」一旦事故が起これば国境を越え地球規模で放射能汚染となります。この日の挨拶でも「世界から原発が消えるまで闘おう」との挨拶がありました。
核技術とは:「同じコインの裏表。原発と核兵器」






ここで右折してフリードリッヒ通へ



ここは東京の銀座の4丁目交差点にあたり、ちょうど地下鉄の駅の工事が終わりつつある場所です。駅への仮説の入り口がちょうど良い舞台になっているので、

ここでもひと踊り。

昔、天皇皇后も泊まったホテルの前で、一休み。




再稼働反対!などのシュプレヒコールが繰り返されます。



さて行進を再開。
「脱原発をもっと早くやれ!」







ここから右折してラオプチガー通りへ


北朝鮮大使館の元本館が右側に見えます。
このあたりから道路は広くなります。



ポツダム広場が視野に入ってきました。
連邦参議院の建物前を通過。

今回参加したワンちゃんはこの子だけであったようです。

運悪くデモの出会った200番のバスは、デモ隊が通過するまで停車して待ちます。おなじみの風景。

ようやく、終結点のポツダム広場に到着。

会津磐梯山の曲につられて、思わぬ飛び入りが現れました。
たちまち、ポロネーゼのような行進が始まりました。会津磐梯山の新バージョンですね。


ライプチッヒ大学の日本学科学生たちのようです。教授たちも参加していました。

ここで最後の集会。
シン・スゴさんも飛び入りであいさつ。話しは一流です。テーマは別ですが、→彼女との日本語でのトークが10日にありますので、ご参加下さい。



子供たちも3時間のデモを良く頑張りました。ご苦労様でした。
さてデモの写真報告は以上ですが、
続いて、本日訪日を前にしたメルケル首相のメッセージの首相府のビデオは→こちらから見ることができます。
その内容をまとめた→プレスリリースはこちらが原文の全文です。
そこから、脱原発と再生エネルギー促進に関する部分のみを取り急ぎ翻訳しておきます。
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Mit Blick auf den Reaktorunfall in Fukushima vor vier Jahren sagt Merkel, Deutschland habe damals sehr mitgefühlt und "weitreichende Entscheidungen getroffen, nämlich schneller aus der Kernenergie auszusteigen". Deutschland setze jetzt sehr auf erneuerbare Energien, und sie glaube, "Japan sollte auch diesen Weg gehen – und geht ihn ja auch". Deutschland und Japan, so die Bundeskanzlerin, sollten diesen Weg auch ein Stück zusammen gehen. Sie werde deshalb bei ihrem Japan-Besuch auch über den Ausbau erneuerbarer Energien sprechen. Vielleicht seien die Wege etwas unterschiedlich, was die Kernenergie anbelange. "Aber ich", sagt Merkel, "kann nur aus der Erfahrung von Fukushima sagen: Sicherheit ist das oberste Gebot."

4年前のフクシマ原発事故に関してメルケルは、ドイツは当時大変に震撼した、そして「大きな決断をしました。すなわちより早急に原子力エネルギーから撤退するということです」と述べた。現在ドイツは非常に再生可能エネルギーを促進している。そして彼女は「日本もまたこの道を歩むべきだし、それは可能だ」と信じている。だから連邦首相として、ドイツと日本は、この道の一部を共に歩むべきであると考える。したがって彼女の日本訪問でも、再生可能エネルギーの促進について話すことになる。核エネルギーに関しては、道程があるいは少し異なるかもしれない。「しかし私は」とメルケルは続けて「フクシマの経験から言えることはただひとつ:安全が最高の戒律であるということです」と述べた。
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なお、 ここには触れられていませんが、メルケル首相は、ビデオでは、上記の前に、「日独の長い自然科学の交流と協力に関しては、これからも老化する両国の生活水準を維持するためにも必要である」と強調したうえで、「自然科学だけでなく、これからは少し哲学も加えるべきだ」と、意味深長なことを付言していることを指摘しておきます。

なお、NHKは、これについて本日→夜のニュースで以下のように伝えていますので、全文を引用させていただきます。 

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独首相 日本にエネルギー政策転換促す考


ドイツメルケル首相は日本を訪問するを前にドイツが進めている脱原発政策について、「日本も同じ道を進むべきだと述べエネルギー政策転換を呼びかける考えを示しました
メルケル首相が9日から7年ぶりに日本を訪問するを前にドイツ政府は7日メルケル首相と福島出身でベルリンで化学研究をしている日本人研究者と対話映像をインターネット上で公開しました
中でメルケル首相は4年前東京電力福島第一原子力発電所事故について、「ドイツはぞっとするよな原発事故を連帯感を持って受け止めより早く原子力から撤退する道を選んだと述べました
えで、「ドイツは今再生可能エネルギーへ転換を進めている日本もドイツと協力して同じ道を進むべきだと述べ今回日本訪問中エネルギー政策転換を呼びかけていく考えを示しました
メ ルケル首相は日本は島国で資源にも乏しいとしてドイツと完全に同じよな政策を進めるは難しいとい認識も示しましたが、「福島事故経験から言え ることは安全性が最も重要だといことだと述べドイツとしては今後も脱原発政策を着実に進める姿勢を強調しました 

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 ひとつだけ解説しておきます。ここででは首相の言葉が「安全性が最も重要だといことだ」と紹介されてており、報道としては間違いではないのですが、厳密には「安全が最高の戒律であるということです」と翻訳すべきです。

 というのも、das Gebotという言葉は、宗教的倫理的な戒律のことです。これはユダヤ・キリスト教ではモーゼの十戒のはじめの「汝殺すなかれ」、仏教では五戒のはじめの不殺生戒にと意味を同じくする言葉です。
「哲学も」と述べるメルケル首相の思考を理解する上で、極めて重要な点ですのでこれも付言しておきます。
 NHKも含め、安倍政権との危機認識の差を示唆する言葉ではないでしょうか?
悲しいことに、この点を理解したうえでの報道が日本からあることを、わたしは期待していません。

これを認識しなければ、メルケル首相の訪日では、日本政府はもちろん、9日の→朝日新聞主催の講演でも、理解の本質的なすれ違いが起きます。これをわたしは危惧するものです。
 すなわちキーワードであるこの言葉ひとつを、どのように理解し、また翻訳、通訳するかが、メルケル首相の訪日の意義を大きく左右することになることは間違いないのです。

「安全が最高の戒律」というのは、「殺すな」ということなのです。 

首相府のビデオがYou Tubeに投稿されていますので追加します。