2011年9月9日金曜日

28:北斎とセシウムと文殊菩薩(1)ベルリーナブラウ

  以前にも書きましたが、今年は日独(正しくは江戸幕府とプロイセン)国交締結150周年にあたり、3月11日の大震災大津波と大原発事故にもかかわらず、ベルリン多くの記念行事が行われています。そのひとつとして8月26日から大規模な「葛飾北斎回顧展」がマーティン・ゴロピウス館で開催されて人気を呼んでいます。25日の開会式にはヴルフ大統領も挨拶され、招待客が押し掛けて入場制限になったほどです。
 なぜ人気があるかといえば、日本の浮世絵は、特に北斎は19世紀から20世紀にかけてヨーロッパの印象派や表現主義、つまり近代絵画に非常に大きな影響を与えたというよく知られた事実があるからです。これには、北斎もまた進取の気性のあるひとで、オランダから長崎経由で入ってきた「眼鏡絵」の手法を取り入れており、それらの作品を、目利きのシーボルトが蒐集してヨーロッパに紹介したというグローバルな文化交流の背景があります。
挨拶するヴルフ大統領8月25日
しかもこの展覧会の出品作品は北斎の生まれた墨田区の協力も得て、ほとんどが日本からのもので、初めて海外で展示されるされる作品もあり、約450点と展示数も多く90歳の長寿であった北斎の長い生涯の全体が鳥瞰できるという、おそらくこれまで最大の回顧展ですから、興味ある人には見逃せない機会です。
ドイツ紙の中には、画例集『北斎漫画』を「マンガの歴史」だと書いたりもしましたので、日本の漫画ファンも押し寄せるという効果ももっているようです。開会式の挨拶でヴルフ大統領も「亀の親子の遊ぶ絵などは子供も喜ぶでしょう」と述べたものです。
ただ残念ながら期間は10月24日までで、しかもベルリンのみで終わりますので、ベルリンへいらっしゃる機会のある方は是非ご覧ください。もちろん専門家はアメリカからもやってきているとのことです。ドイツ語のカタログはドイツでのこのての絵画展にふさわしい内容の充実した立派なものです:

http://www.berlinerfestspiele.de/de/aktuell/festivals/11_gropiusbau/mgb_start.php

「神奈川沖波裏」中央ドイツ新聞8月26日、写真:DAPD
しかし、わたしはこの歴史的な日本文化の展覧会を以上のような一般の興味を外れた視点から視ていました。
この写真は、開会式当日世界的にも有名な「富岳三六景」のひとつを凝視している筆者をドイツの通信社のカメラマンが撮ったものです。それをある新聞が掲載したのです。ドイツ人の美人が見ている写真でも使えばよいのに、日本人の鼻眼鏡の爺さんの写真とは、いささか興ざめですが、実はわたしは撮られていることも気づかないほど熱心に見ていたのです。
何をそんなに注視しているかといえばこの版画にも北斎がたっぷり使った青の色彩のオリジナルをここぞとばかり観たのです。


北斎「富岳三六景・甲州かじか沢」写真提供:東京都墨田区
展覧会のポスターに使われているこの 一枚はこの写真ではかなり色調が変わって見えますが、実際は上の写真のように明るく落ち着いた青です。ゴロピウス館のシベルニッヒ館長はカタログに江戸の文化史を執筆されているほどの日本通ですが、おそらく彼の希望でこの絵がポスターに使われたのでしょう。彼は網を引いている漁師を指さして「これが展覧会を操るわたしだよ」と冗談を言って筆者を笑わせたものです。
実は、彼も記者会見で述べたことですが、たっぷり使われているこの作品の青の絵の具/染料は、生粋のベルリン生まれなのです。そのことを北斎が知っていたかどうかはわかりませんが、ドイツでは「ベルリンの青/Berliner Blau」と呼ばれている絵の具を江戸でつかった美術品が、いわば里帰りした展示会でもあるのです。しかもこのベルリーナブラウが、フクシマの汚染の防御と処理に直接大きな役割を果たすかも知れないのです。

(長くなるので「続きは次のお楽しみ」にしてください)


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