2011年7月17日日曜日

13:日本で脱原発を実現する人々:日本弁護士連合会と意見書

日本の永田町が「観客を失いつつあるノミのサーカスである」とドイツ紙に批判されたことの反応はどうでしょうか。誤解を避けるためにわたしの解説を少しつけ加えますと、この表現は決して永田町界隈の日本の政府とメディアに対する単なる揶揄ではないということです。特派員は本気でこのように感じて、強烈な皮肉としてこのような例えをしているのです。そしてこのことは、決して例外ではないとわたしは考えています。

そもそも、大震災と大津波、そして原発の苛酷事故に対してドイツはもちろん、世界中の人々の日本への同情は非常に大きなものがありました。それは今でも続いています。しかし事故直後から日本政府、東電などからの情報があまりにも貧弱でデタラメであったため、諸外国の政府機関やメディアで次第に不信感と怒りがつのってきました。3基の原発のメルトダウンをようやく2ヶ月も経てようやく認めたころには、すでに不信感はつのりきっており、すっかりあきれかえっていました。

現在では、海外から日本を観る目が「同情→不信→怒り→落胆」となってきていることは、日本から理解することはとても難しいことです。 日本人特派員の多くはこれを認識しています。しかし、これまで以上に視点が内向きになっているため(続く事態の深刻さからしてやむを得ないのですが)このことを東京のデスクや論説に伝えることは非常に難しいのです。
事故から4ヶ月経た現在、まだまだ永田町のノミのサーカスが続くようであれば、落胆がついに軽蔑にまで達するのではないかと危惧しているのはわたしだけではありません。現在の菅直人総理の「脱原発依存」発言を巡る永田町界隈の反応は、まさに目を覆うようなお粗末さです。内外の人心が離れても当然でしょう。
 救いは唯一、福島県を始め原発立地周辺の市民と、心ある自治体の政治家、職員のみなさんの 懸命な努力だけです。

しかし、ここにきて信用を決定的に回復する動きがようやく登場してきました。昨日7月15日、日本弁護士連合会が「原子力発電と核燃料サイクルからの撤退を求める意見書」を公表し、政府と原発事業主らに提示しました。

その冒頭の「意見の趣旨」は以下の通りです:
当連合会は、2011年7月15日付けで「原子力発電と核燃料サイクルからの撤退を求める意見書」をとりまとめ、内閣総理大臣、経済産業大臣、環境大臣、内閣府原子力安全委員会委員長、経済産業省原子力安全・保安院長、原子力発電所等原子力関連施設を有する電力会社宛てに提出いたしました。
意見書の趣旨

当連合会は、国及び原子力発電所等原子力関連施設を有する電力会社等に対し、以下のとおり提言する。

1 我が国の原子力政策を抜本的に見直し、原子力発電と核燃料サイクル政策から撤退すること。その具体的な廃止にむけての道筋は以下のとおりである。

(1) 原子力発電所の新増設(計画中・建設中のものを全て含む。)を止め、再処理工場、高速増殖炉などの核燃料サイクル施設は直ちに廃止する。

(2) 既設の原子力発電所のうち、㈰福島第一及び第二原子力発電所、㈪敷地付近で大地震が発生することが予見されるもの、㈫運転開始後30年を経過したものは、直ちに廃止する。

(3) 上記以外の原子力発電所は、10年以内のできるだけ早い時期に全て廃止する。廃止するまでの間は、安全基準について国民的議論を尽くし、その安全基準に適合しない限り運転(停止中の原子力発電所の再起動を含む。)は認められない。

2 今後のエネルギー政策は、再生可能エネルギーの推進、省エネルギー及びエネルギー利用の効率化を政策の中核とすること。

 さっそく日弁連のホームページからファイルの全文(27頁)を読んでみました:
http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/report/110715.html



つづく「意見の理由」の冒頭には「原発震災による被害は極めて重大な人権侵害であり、絶対に容認できない。」とあり、長年にわたり原発差し止め訴訟にたずさわった法律家による専門的な、福島原発事故の分析は、客観的で理性的であり、読むうちにおもわず、安堵感に満たされました。これでやっと包括的な事態の把握と、それに対する明確な対策の道筋が提示されたからです。

たとえば「運転開始後30年を経過したものは、直ちに廃止する。以外の原子力発電所は、10年以内のできるだけ早い時期に全て廃止する」との意見は全うなものです。
ドイツの原発は32年で廃棄と決定されましたが、これは2000年6月の当時のシュレーダー首相が、事業主と交渉の際に提案した年限30年と同じです。事業主側は35年を主張し、32年で妥協したのです。原発は30年稼働すれば減価償却を終えて、たっぷり利益をあげています。後は大飯の原発のようにポンコツで事故におびえる前にできるだけ早く廃炉にするのが当然です。また残りの原発も10年内に廃止することは意見書にあるように日本でも十分に可能です。

 朝日新聞の論説委員諸氏にも「原発の寿命は40年がひとつの目安とされている」(7月13日論説)などと耳学問で書く前に、この意見書を十分に勉強していただきたいものです。

ともかく、この意見書でわたしも「やっと日本からしかるべきところからしかるべき提案がなされた」とホッとしました。ようやくまっとうな指針がでたからです。日弁連に感謝いたします。

さて、この意見書を勘案されたであろう日弁連の弁護士で、長年原発訴訟にたずさわってきたひとびとの幾人かを写真で紹介しましょう。このひとたちが日本の全国の地元の市民たちと脱原発にひたすら根気づよく連帯している「日本で脱原発を実現する人々」です。



2009年12月10日ベルリンの連邦議員会館 小谷守彦毎日新聞前ベルリン支局長撮影
 日弁連の環境部会の弁護士たちはドイツの原発事情を知るために、長年の間に何度も訪独しています。この写真は、ドイツの中道保守政権が脱原発を放棄して稼働延長に踏み込みそうだとの情報を危惧して、実情の視察に来たときのものです。関連官庁の担当官、学者、与野党の政治家などと会ってわたしの通訳で話を聴きました。日本の各地の反原発運動のみなさまには、おなじみの顔ですね。また浜岡で始まって、これから全国で新たに起こされる原発と原子力施設撲滅最終訴訟で先頭に立つ闘志の幾人かのみなさんです。

中央の女性は 緑の党の連邦議会院内副総務のバーべェル・ホェーン議員です。彼女の脱原発と環境保護の知識と経験はずば抜けており、党派を超えて畏怖されています。議会演説の迫力はすごいものです。
このときの面談でも「メルケル首相が稼働延長を強行しても市民運動と連帯して絶対にひっくり返します」と論理明快、意気軒昂でした。そして実際にその通りになりました。
日弁連の意見書の土台にはこのような付け焼き刃ではない長年の実践と知識があります。表現も法律家とは思えないほど分かり易いので、みなさんも是非お読み下さい。今の日本にもっとも必要な意見であることは間違いありません。ノミのサーカスのなどは時間の無駄です。

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