昨年末の政府事故調の報告書でも一切触れられいないのは、そのためでしょう。ということは、事故調は菅直人政府中枢とグルになって隠蔽したか、あるいは調査能力の欠如かのどちらかでしょう。この報道によると、毎日新聞の記事でようやく公文書にしたとのことです。
ドイツのベルリンに住んでいるものとしては、ぞっとする出来事です。
先の毎日新聞の報道に関して、ここでわたしも「公表せよ」書いたとおりです;
58:内閣府原子力委員長の「最悪のシナリオ」と最初の「警告メール」
http://tkajimura.blogspot.com/2011/12/blog-post_26.html本日の共同通信が挙げている文書のコピーの写真(下記)ですが、これはキャプションに「素描」とあり、おそらく近藤委員長のシナリオの要約でしょう。本文は毎日の報道によれば25ページあるとのことです。政府はここに至っても、しぶしぶ情報請求に応じるなどと姑息なことをせずに、潔く公表すべきです。
毎日新聞が報道した東京も含む250キロ圏では避難せざるをえないだけでなく、1年間に渡って放射性物質の大量放出が続くとのシナリオであるとのことです。すなわち、おそらくは福島の第一の6基が放棄されると、チェルノブイリ事故を遥かに上回る人類史上未曾有の大事故となることが予測されているものと推定できます。それは放射性物質の量からしても明らかなことです。
そうなっていたら、米軍が日本基地を守るために当然ながら直接介入したでしょうし、ソ連邦がチェルノブイリで行ったように兵士・自衛隊の決死隊を投入せざるをえない事態になったであろうことも明らかです。すなわち事実上の核戦争と同様の事態です。そしてその際、一般住民の大半は放置されます。
なぜわたしがこのように述べるかについては根拠があります。冷戦時代にNATOには、東西ドイツを中心とするヨーロッパを舞台にした核戦争勃発を予測した、コードネームが「フルダギャップ」というシナリオがありました。これによると米軍はまずは自国民、特に軍人軍属の家族を本国に空輸避難させ、同時にワルシャワ機構軍に対し、初戦では戦術核兵器を投入した作戦を展開することになっていました。その際、一般のドイツ市民・住民は避難できません。
当然ながら東西ヨーロッパに多くある各国の原発も標的になったでしょうし、避難できない住民は必然的に見殺しにされるシナリオでした。すなわち自滅のシナリオであり、いったん戦争となるとこのシナリオが現実となることが想定されていたのです。
戦後の西ドイツで反核平和運動が強力であった背景の一つがこれです。
もし近藤委員長の最悪のシナリオが現実になっておれば、日本もこのような核戦争と同様な事態となっていたでしょう。 フクシマがそこにまで至らなかったことは偶然の幸運としか言えません。しかし、危険はまだまだこれからも続くのです。
このような現実を日本人が認識するためだけでにでも、この「最悪のシナリオ」の政府による公表と、政府自身による評価は非常に重要です。これこそが責任ある政治家の義務です。
菅直人首相ら当時の政府中枢は、内容の凄まじさにふるえあがって、姑息にも隠蔽工作をしたのでしょうが、そんなことではこのような危機での政治責任は到底とれません。アドルフ・アイヒマンがまとめたヴァンゼー会議の議事録は、戦後になって発見されました。
このような日本の政治家の程度の劣化と同じく、もう一つ、近藤委員長をはじめとする内閣府原子力委員会の面々の冷酷さがこれで明らかになったとことです。同委員会は日本の原子力政策を立案し実施してきた参謀本部だけあって、過酷事故が起これば、どのような事態になるかを予測する能力があることがこれで証明されました。政治家の低質さとは逆に、彼らはその分優秀であり、そしてその分に応じて冷酷です。彼らの優秀さが人間性と見事に反比例している典型例です。テクノクラートの非人間性が見事に現れています。
自分たちが立案した国家の原発政策によって何十万、何百万の犠牲者がでることが、彼らにとっては自明であっても、何の痛みも感じないのです。
ちょうど70年前の今日、1942年1月20日に、ベルリンのヴァンセー湖畔の瀟洒なヴィラで、ナチ政権のテクノクラートが集まり、ヨーロッパのユダヤ人絶滅計画をどのように実施するかを協議しました。参加した政府各省の次官級の役人たちは、計画実施について「非常に冷静に、紳士的に意見を交換して、シャンペン付きの朝食をともにした」ことが、そこに参加した書記官役のアイヒマンが後に証言した通りです。
原子力政策を立案し、起こってしまった過酷事故の結果が、どのようなことになるのかを冷静に予測できる原子力テクノクラートの内閣府原子力委員会の紳士淑女諸君たちは、「現代日本のアイヒマンの後継者たち」であるともいえましょう。
フクシマ過酷事故の後に、彼らが居るべき場所は、内閣府ではなく、少なくとも公職を追放されてしかるべきであり、これからの成り行き次第では裁判所行きであってしかるべきなのです。
そのひとり わたしが直接話を聴いた原子力委員会委員長代理の鈴木達治郎氏については、以前ここに書いた通りです:
この人物も、原発政策遂行にとっては、いかなる犠牲も「聖なるものにする」というファナチックなファシストであることを示す尻尾を捕まえています。アイヒマンの日本の孫としてふさわしい精神の持ち主です。
彼にとってはフクシマの事故など、原子力政策推進のためには、活躍できる新たな挑戦の場面でしかないのです。恐ろしいことです。ベルリンでも彼は、このような最悪のシナリオについては、一言も漏らさず、あたかも事故は立派に克服できると宣伝を縷々述べたのです。
このような人物が内閣府中枢に居続ける限りは、間違いなく最悪のシナリオは現実のものとなるのは必然です。
以下は、今後のための資料の記録です。
毎日新聞による昨年末の第一報はこれです:
福島第1原発事故 最悪「170キロ圏強制移住」 原子力委員長、前首相に3月試算
いずれにせよ、非常に大切な報道ですので、本日の共同通信の二つの記事をそのまま保存しておきます。
以下引用:
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第一報;
原発事故、最悪シナリオを封印 菅政権「なかったことに」
東京電力福島第1原発事故で作業員全員が退避せざるを得なくなった場合、放射性物質の断続的な大量放出が約1年 続くとする「最悪シナリオ」を記した文書が昨年3月下旬、当時の菅直人首相ら一握りの政権幹部に首相執務室で示された後、「なかったこと」として封印さ れ、昨年末まで公文書として扱われていなかったことが21日分かった。複数の政府関係者が明らかにした。
民間の立場で事故を調べている福島原発事故独立検証委員会(委員長・北沢宏一前科学技術振興機構理事長)も、菅氏や当時の首相補佐官だった細野豪志原発事故担当相らの聞き取りを進め経緯を究明。
2012/01/21 20:01 【共同通信】
【写真】原子力委員会の近藤駿介委員長が作成した「福島第1原子力発電所の不測事態シナリオの素描」のコピー |
第二報:
【最悪シナリオを封印】 菅政権「なかったことに」 大量放出1年と想定 民間原発事故調が追及
公文書として扱われず
東京電力福島第1原発事故で作業員全員が退避せざるを得なくなった場合、放射性物質の断続的な大量放出が約1年続くとする「最悪シナリオ」を記し た文書が昨年3月下旬、当時の菅直人首相ら一握りの政権幹部に首相執務室で示された後、「なかったこと」として封印され、昨年末まで公文書として扱われて いなかったことが21日分かった。複数の政府関係者が明らかにした。
民間の立場で事故を調べている福島原発事故独立検証委員会(委員長・北沢宏一(きたざわ・こういち)前科学技術振興機構理事長)も、菅氏や当時の首相補 佐官だった細野豪志原発事故担当相らの聞き取りを進め経緯を究明。危機時の情報管理として問題があり、情報操作の事実がなかったか追及する方針だ。
文書は菅氏の要請で内閣府の原子力委員会の近藤駿介(こんどう・しゅんすけ)委員長が作成した昨年3月25日付の「福島第1原子力発電所の不測事態シナ リオの素描」。水素爆発で1号機の原子炉格納容器が壊れ、放射線量が上昇して作業員全員が撤退したと想定。注水による冷却ができなくなった2号機、3号機 の原子炉や1~4号機の使用済み燃料プールから放射性物質が放出され、強制移転区域は半径170キロ以上、希望者の移転を認める区域が東京都を含む半径 250キロに及ぶ可能性があるとしている。
政府高官の一人は「ものすごい内容だったので、文書はなかったことにした」と言明。別の政府関係者は「文書が示された際、文書の存在自体を秘匿する選択肢が論じられた」と語った。
最悪シナリオの存在は昨年9月に菅氏が認めたほか、12月に一部内容が報じられたのを受け、初めて内閣府の公文書として扱うことにした。情報公開請求にも応じることに決めたという。
細野氏は今月6日の会見で「(シナリオ通りになっても)十分に避難する時間があるということだったので、公表することで必要のない心配を及ぼす可能性があり、公表を控えた」と説明した。
政府の事故調査・検証委員会が昨年12月に公表した中間報告は、この文書に一切触れていない。
【解説】検証阻む行為許されず
東京電力福島第1原発事故の「最悪シナリオ」が政権中枢のみで閲覧され、最近まで公文書扱いされていなかった。危機の最中に公開できない最高機密でも、 公文書として記録しなければ、次代への教訓を残すことはできない。民主的な検証を阻む行為とも言え、許されるものではない。
民主党は2年半前、政策決定の透明性確保や情報公開の促進を訴えて、国民の信を得たはずだ。日米密約の解明も「開かれた政治」を求める国民の期待に応えるための作業だった。
しかし、今回明らかになった「最悪シナリオ」をめぐる一連の対応は、そうした国民の期待を裏切る行為だ。
シナリオ文書を「なかったこと」にしていた事実は、「情報操作」と非難されても仕方なく、虚偽の大量破壊兵器(WMD)情報をかざしながらイラク戦争に突き進んだブッシュ前米政権の大失態をも想起させる。
民間の立場で調査を進める福島原発事故独立検証委員会が文書の取り扱いをめぐる経緯を調べているのも、そうした民主的な視点に根差しているからだ。ある委員会関係者は「不都合な情報を握りつぶしていたのではないか」と指摘する。
昨年末に中間報告をまとめた政府の事故調査・検証委員会が「最悪シナリオ」に切り込めていないのも問題だ。政府は民間の事故調査を待つことなく、自らが経緯を明らかにすべきだ。
(共同通信)2012/01/21 22:00
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以上引用。
隠蔽された「最悪のシナリオ」のあってはならない決定は誰のリードで行われたのか。
返信削除小心者の関係者の尻込みばかりとは言えまい。
一つ嘘をつき、その嘘の保守のために虚偽を重ねるのは詐欺師の常道だ。
ほとんどの詐欺は後の悔やみとして「なんでそんなことに気が付かなかったのか」との被害者の言葉になる。
1933年にヒットラーが政権を握った時、忌まわしい歴史の「まさかそんなことはあるまい」が事実になった。
早急に情報を得て資産と家族を脱出させた富裕ユダヤ人、それ以下の人々の行く末は明暗の極地だった。
貴重な歴史の証言を鑑みれば日本の現状でも自明なことではないか。
嘘つきは泥棒を隠す。
未来という時間を盗む者。
生きとし生けるものの命を売り渡す者。
その代弁者が政府をなしている。
選んではならない歴史を変えるのは私たちだ。
言葉巧みに騙されないための、情報の語られ方を知る。
返信削除現在入手困難なのは残念。
岩波書店にネット購読を提案しましたが。
「科学」2012年1月号、品切れ中。
http://www.iwanami.co.jp/kagaku/
特集 リスクの語られ方
リスク・コミュニケーションのあり方……吉川肇子
「専門家」と「科学者」:科学的知見の限界を前に……影浦 峡
確率的リスク評価をどう考えるか……竹内 啓
いま,水俣学が示唆すること……原田正純
原発事故後の科学技術をめぐる「話法」について……石村源生
低線量被ばくとどう向き合うか……石田葉月
企業の失敗──企業制度とリスクの外部化……竹田茂夫
原子力をめぐるリスクと倫理──ドイツ倫理委員会報告におけるリスク認識……吉田文和・吉田晴代
岩波書店から「科学」2012年1月号(定価1400円)のバックナンバー在庫有りと連絡あり。
返信削除アマゾンとセブンイレブンでは在庫切れと表示、注意を。
coogleさま、
返信削除情報ありがとうございます。在庫ありとのことなのでさっそく岩波へ直接注文しました。
感謝です。
梶村