本日1月26日、国際原子力機関IAEAの調査団が関電の大飯原発を訪問し審査を行っています。これについては多くの報道がありますが、この訪問目的が最もはっきりしている記事として日経新聞を挙げておきます。
以下引用:
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IAEA、大飯原発を視察 「保安院はしっかり審査」
2012/1/26 17:28
関 西電力大飯原子力発電所3、4号機(福井県おおい町)を26日視察した国際原子力機関(IAEA)の調査団は同日夕、「経済産業省原子力安全・保安院がス トレステスト(耐性調査)の結果をしっかりと検証・審査していることを確認できた」と語った。視察後に記者団の取材に応じた団長のジェームズ・E・ライオ ンズIAEA原子力施設安全部長が述べた。
ただ、原発の再稼働については「日本政府にしっかりとした判断能力がある」と述べ、IAEAは審査と助言を与えるにとどめる方針であることを強調した。調査団は31日までに保安院に評価書を提出する見通し。
同発電所3、4号機については保安院が、ストレステストの1次評価結果を妥当としていた。
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以上引用。
訪問目的が保安院が先日「妥当」とした同原発2基のストレステストに、国連機関としてお墨付きを与え、これを免罪符として日本政府が再稼働を認める筋書きにあることは、フクシマを体験した日本では、いまや誰の目にも明らかです。
団長のライオンズ氏によれば「日本政府にしっかりとした判断能力がある」そうです。彼がここでも、繰り返し強調するこの言葉は、大事故を起こした日本政府への皮肉にも聴こえますし、また自からの責任逃れともとれます。 すなわち再稼働の責任は一切日本政府にあり、自らには無いと強調しているのです。
この国連機関が原発推進についてどのような役割を果たしているかについて、わたしがチェルノブイリ20周年の2006年4月に「週刊金曜日」にベルリンより寄稿したものがあります。読み返してみるとフクシマを体験した日本にとって、まさにアクチャルになった内容ですので、そのまま転載しておきます。(掲載分とは固有名詞の表記を一部訂正してあります)。
これには、いささか変わったタイトルがつけられています。
以下転載:
=============================================================「週刊金曜日」NO.603/2006年4月21日号掲載
真実を知らないのは、単なる馬鹿者だが、
知っておりながら、それを嘘だと言う者は罪人だ
梶村太一郎
これは、ドイツの劇作家ブレヒトの大作『ガリレイの生涯』にある言葉だ。四月五日、ノーベル賞受賞団体である核戦争防止国際医師会(IPPNW)のドイツ支部と、ドイツの市民団体である放射線防護協会が共同で公表した報告書の終わりに、この台詞が引用されている。「チェルノブイリの健康への影響」と題されたこのレポートは、大事故が二十年間に及ぼした人体への非常に広範囲で深刻な影響についての数多い研究を、専門家以外にも理解できるように紹介したものだ。「罪人」としてやり玉に挙げられているのは、国連の国際原子力機関(IAEA)などの原発推進ロビーである。
昨年九月にウイーンでIAEAが主催した「国連チェルノブイリフォーラム」は「事故による被曝での死者は、将来を含めて四〇〇〇人と推定される」との数字を発表。あまりの少なさに、疑問と怒りの声が大きい。この報告書は最も厳しい総括的批判のひとつだ。例えば「事故処理作業従事者だけでも、これまでに死者は五万から一〇万人、現在の障害者は九〇万と推定され、死者は将来も増加する」とある。両者の差はあまりにも極端だ。そこで、執筆者のひとりセバスチアン・プルーグバイル物理学博士(58)を訪ねて話しを聴いた。
この人物は、一九八九年にベルリンの壁を崩壊に導いた東ドイツの市民運動の中心組織「新フォーラム」を結成したひとりで、壁崩壊後に成立した東独最後のモドロウ政権では無任所大臣となった。彼が、プロテスタント教会と協力して、チェルノブイリの被害を受けた旧ソ連邦の子どもたちを保養のために招待する活動を始めたのもこのころである。日本や世界各地の市民団体の救援活動のモデルとなった。彼は今でも創始者として、この活動を地道に続けている。また専門家としては、一九九〇年にミュンヘン大学放射線生物学のレングフェルダー教授らが結成した放射線防護協会に参画、現在は同協会の代表である。この団体は四月初めに、ウクライナ、ベラルーシ、ロシアの被曝現場で活躍する医師や物理学者をドイツに招き、ベルリン大学医学部で「チェルノブイリ二〇年・未来への体験と教訓」と題する国際会議を主催し、プルーグバイル氏は議長を務めた。
彼を自宅に訪ねるのは、これが二度目だ。九〇年代の初めに、今は亡き高木仁三郎氏と共に、ブレヒト劇場にも遠くない住居を探しあてた記憶がよみがえる。(居間のドイツ教養主義のシンボルのような古いピアノと、壁にかけられた年代物のバイオリンもそのままだ。/掲載文では削除されていますが、復活しますー梶村)
「高木氏の喪失は日本の反核運動にとっては大きいのです」
「そうでしょう、でも彼の原子力情報資料室は良い活動を続けていますね」
これを挨拶代わりに話しが始まった。
「昨年のIAEA主催のウイーン会議に出席しましたが、初めからあのような結論ありきの、まともな議論もできない茶番でした。そこで、彼らが二年もかけてまとめあげた分厚い報告書を検討したところ、お粗末なものでした。事故の影響を汚染が最もひどいゾーンだけに限定し、被曝者の最大の問題を貧困やタバコ、アルコールの社会問題のせいにして、事故の影響を最大限隠そうとする意図が明白です。使われている研究データが一〇年か、それ以上に古いものばかりで、四〇〇〇というのも国連の世界保険機構(WHO)の一九九六年の報告データーの最小限の数字だけを恣意的に発表しただけです。だから私はIPPNWと一緒に書いた報告書に、この隠蔽の事実を学問的に詳しく指摘して、ブレヒトの言葉を引用したのです」
「あなたに『罪人』とされた、そのIAEAのエルバラダイ事務局長が、IPPNWと同じノーベル平和賞を昨年の秋に受賞しましたね」
「現在のイランの核問題でもわかるように、IAEAが核兵器不拡散に果たしている役割は確かに大切。だが、この組織はその規約の第一条に明記されているように『世界中で核エネルギーの平和利用を促進する』目的をもち、第三条では『得た情報に対する一定の制限も必用である』とあります」
「つまり、原発推進の目的のためなら情報を隠しても良いとの規定もあるのでこの報告書も規約違反ではないというわけですね」
「そうです。エルバラダイの前任者のハンス・ブリック事務局長は、チェルノブイリ事故のあと『核エネルギーの重要性からして、世界はチェルノブイリ級の事故が毎年起きても耐えられるであろう』と発言しています。この組織の変わらぬ本質を表現しています。まさに犯罪的な言葉です」
彼が共同執筆した報告書にも掲載があり、ベルリンの会議でも報告され、IAEAが隠すか無視するデータを二つだけ挙げておこう。
キエフのアンゲリナ・ニャグー教授によるとウクライナの北部の汚染地域では、癌以外の精神身体医学的病気が事故後に、突発的に増加した統計である。住人一〇万人当たりの八七年と九二年の病人の数と倍率である(表)。
九十三年から政府の予算が打ち切られ、この統計は取れなくなったが、教授は九六年までこの地域の住民の健康率を取り続けている。
これによれば、汚染地域の住民の内、八七年に健康な人の割合は五一・七%であったが、九六年には健康人はわずか二〇・五%になっており、健康な子どもは同期間に八〇・九%から二九・九%まで減少している。したがって、汚染地域の住民の大半が何らかの病気を複合してかかえ、平均寿命が極端に低下し続けていることは確実である。
もうひとつは、ベラルーシの高汚染地域ゴメルにボランティアで病院を建設し治療に当たっているミュンヘン大学のレングフェルダー教授による、最長で最新の甲状腺癌の年齢別発病数のグラフだ。プルーグバイル氏の解説では、被曝による癌の発病では、白血病は被曝後五年で最高率に達しその後低下するが、その他の癌は一〇年から二〇年後に増加を始め、はたしてピークが何年後になるかは、大半が解明されていない。このグラフから読み取れることは、子どもと青少年の甲状腺癌の発病はピークを越えたようである。しかし高年齢層ではまだ増加が続いており、ピークはまだ先のことだという。
「癌の転移がなくても、彼らには手術後、一生涯投薬が必要なのです。これに加え、今度の会議で問題になったのは、事故後に生まれた子どもたちの遺伝子の異変のことです。汚染地帯で生まれた約一〇%の子どもに遺伝子異変が見られます。糖尿病が異常に多いことも報告されました。この爆弾をかかえた子どもたちがどうなるか。さらに、その次の世代はどうなるか。チェルノブイリ事故には終わりはありません。まだ始まったばかりなのです。だから。せめて病気の子どもたちが安心して生活できる施設を建設中です。いまでも犠牲者たちを最も援助しているのはドイツと日本のNGOです」と博士は話しを終えた。会議の記者会見でニャグー教授も両国の市民による援助に感謝して、引き続いて子どもたちへの救助を訴えていた。
帰り道、ブレヒトが亡命先のアメリカで広島への原爆投下を聞き、『ガリレイの生涯』を書き直したことを想い出した。「科学の唯一の目的は人間の生存条件の辛さを軽くすることである」と、異端審問に屈したガリレイを厳しく断罪したのである。「権力のためではなく市民科学者として生きた」高木仁三郎氏が、今も一緒に歩いていることに気づいたのだった。(かじむら たいちろう・在ベルリンジャーナリスト)
(添付表)
ウクライナ汚染地域での癌以外の疾患(10万人あたり)
病名 87年/人 92年/人 5年間の増加率
内分泌系 631 → 16,304 25、8倍
慢性疲労/頭痛 249 → 13,145 53、6倍
神経系 2,641 → 15,103 5、7倍
循環器系 2、236 → 98,363 43、9倍
消化器系 1,041 → 62,920 60、4倍
皮膚組織 1,194 → 60,272 50、4倍
骨筋肉系 768 → 73,440 95、6倍
A.Nyaguによる1994年の報告書より作成
添付図の「ベラルーシの甲状腺癌の突発的増大1985−2004年」は下記写真(上)。
上図出典;E.Lengfelder,C.Frenzelp「20年後のチェルノブイリ」、ミュンヘン大学Otto Hug放射線研究所、2006年2月/週刊金曜日2006年4月21日号30頁より |
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以上転載。
この寄稿で述べられているチェルノブイリの被災者の事故20年後の状態は、これから日本が次第に直面する事態を、多かれ少なかれ予測させるものです。
またもうひとつ明らかにされていることは、IAEAという組織は、世界中に原子力発電を推進するために、チェルノブイリの事故の膨大な被害を、組織を挙げて矮小化し隠蔽し続けている「倫理的な犯罪組織」であることです。
この犯罪的役割に半ば成功しているこの組織にとっては、フクシマの事故の被害の矮小化と隠蔽は容易いことであるようです。日本には原子力村という彼らの 強力なロビーが、事故以降も健在で大活躍をしており、政府中枢に食い込んだままですからなおさらです。しかも現在の事務局長は日本人の天野氏ですから全くもって好都合なことです。
また日本のマスメディアには国際組織、しかも国連組織のIAEAの暗黒面を検証して告発するだけの能力は、残念なことにほとんどありません。このことをフクシマで苦しんで闘っている日本市民のみなさまはしっかり認識しておいてください。日本の原子力村は、いわばこの国際組織の本店の日本支社なのです。
さて、上記の記事にあるミュンヘン大学のレンクフェルダー教授のインタヴュー(2011年7月)をポツダムのEisbergさんが最近、丁寧に全文を翻訳されていますので、これもぜひ参考にしてください:
ドイツ、オットー•フーク放射線研究所所長、レンクフェルダー教授インタビュー 「フクシマはチェルノブイリよりも酷い」
ドイツ放射線防護協会を支えるプルーグバイル博士やレンクフェルダー教授らは、外国人研究者としては、チェルノブイリの被害者たちに最も長く接しながら、さまざまな救援活動を続けている研究者です。まさにブレヒトの言葉「科学の唯一の目的は人間の生存条件の辛さを軽くすることである」を実践している学者たちです。
ブレヒトはアメリカ亡命中にヒロシマ・ナガサキを知り、若い頃の戯曲『ガリレオの生涯』を三度目に書き直しています。科学者の責任を厳しく追及しているこの戯曲は、ドイツの高校の教材としてよく使われています。
おわりにもうひとつだけそこから、「原子力の平和利用神話」の終焉にふさわしい彼の言葉を引用しておきましょう;
「科学の目的とは無限の英知への扉を開くことではなく、無限の誤謬にひとつの終止符を打っていくことだ」
この書き込みにひとつだけ補足しておきます(1月28日)。
上記の寄稿にあるプルーグバイル博士の言葉;
「事故の影響を汚染が最もひどいゾーンだけに限定し、被曝者の最大の問題を貧困やタバコ、アルコールの社会問題のせいにして、事故の影響を最大限隠そうとする意図が明白です。」
これがそのまま当てはまるのが、昨年末12月22日に出された、内閣官房の
低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループによる報告書です; http://www.cas.go.jp/jp/genpatsujiko/info/news_111110.html これを読めばよくわかるのですが、出席していた細野大臣が「福島を日本で一番癌の少ない県にする」などと本気で言い出したのも、このグループに洗脳されたからであることは明白です。ここまでくれば、茶番を通り越し、日本の悲劇です。 このグループが作った次の表をご覧ください。
「懲りない」
返信削除これは人類の進化に好奇心とともに必要な要素らしい。
上手く使えば生き残り、下手をすると自滅する。
「神・自然界」が人間に与えた両刃の剣。
隕石でも氷河期でもポールシフトでも無く、
ましてや、宇宙人の襲撃でも無く、
人類が選んだ欲で自ら滅びることができる。
これはクライシス映画のエンターテイメントでは無い。
ENDマークの無人の惑星は美しいだろうか。
見る筈の子孫はいない、
そんなシナリオはいらない。