先日→152回で報告しました、1985年のノーベル平和賞授賞団体、核戦争を防止する国際医師の会(IPPNW通称:反核医師の会)ドイツ支部がフクシマ惨事2周年に向けて、3月9日の「南ドイツ新聞」に出した全面意見広告→オリジナルPDFの翻訳は以下の通りです。
訳注も付けましたが、特に日本の乳児死亡率増加と出生率減少に関する研究に関しては、最新の研究も加えてそれらの要旨をわたしなりに付けておきました。ただしわたしは専門家ではありませんが、これが長い実績のある学者によるフクシマ事故の被曝を原因とする乳児と流産の隠れた多くの犠牲者に関する大変重要な研究であることから、専門家のみなさまのために原文も示しておきます。間違いがあればご是非とも指摘を請います。
以下翻訳と訳注
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「再生可能エネルギーへの加速的転換は、平和政策的次元でのエコロジカルな、経済的な、そして社会的な死活問題である。一刻の時も失われてはならない。」(ヘルマン・シェーア、1944−2010:訳注1)
チェルノブイリから27年:
カタストロフの4年後以来、子供と成人の甲状腺癌と白血病は常在している。綿密な計算によれば、チェルブイリの放射線の影響の結果、ヨーロッパ全体で160万人の死者がでている(原註1)。80万人のリクイダートールのうち12万5000人がもう生存していない(原註2)。数十万人が重病である。乳児死亡率は向上している。先天的奇形は世代を経るごとに増加している。
フクシマから2年:
福島県の子供の35%以上に甲状腺に嚢胞と結節が診断されているが(原註4)、平常ではこの年齢では非常に稀である(原註5)。 甲状腺癌は2014/15年から懸念され、白血病はわずかに遅れてからだ。日本では、カタストロフから9ヶ月後の2011年12月には乳児死亡率が増加し、出生率がはっきりと減少した(原註6。訳注2)。
フクシマ後には世界中でまだ約430基の原子力発電が稼働している。これらは核兵器への門を開くものだ。次の超最悪事故(訳注3)発生は時間の問題である。住民を保護することはできない。どの非常事態計画も中途半端なものである。被曝に対しては医師の援助も医薬品も存在しない。予防だけが可能である。
フクシマはドイツにおいては根本的な考えの革新へと導いた:原子炉8基は即座に停止された。残りの9基も続いて早期に廃炉にされるべきである!
エネルギー転換
グローバルに考え、ローカルに行動しよう
ひとびとは再生可能エネルギーの供給を自らの手中にしている。
男女市民、都市発電公社、エネルギー共同組合、手工業や中小企業は、数年のうちに再生可能エネルギー源からの分散型発電を実現できる。100%までできる。彼らは巨大エネルギーコンツェルンと政党内のそのロビーから阻止されたりしない。この「地域のエネルギー自治」の実現への鍵は、風力と太陽光電力を天候に依存させないための、分散型蓄電設備のネットワークである。諸政党もこのことをもはや認識し、そのためにいくらかはすべきである:
今や 、巨大コンツェルンのための過剰な「送電アウトバーン」(訳注4)に膨大な経費をつぎ込む浪費に代えて、再生エネルギー法を通して、地方と地域のエネルギー貯蔵を促進する時である。
地域的エネルギー自治は、高価なエネルギー輸入を回避し、あらゆる地域の繁栄を促進し、資源と交易路を巡っての戦争の防止することの助けとなる。=これこそがエネルギー転換の「平和政策的次元」である。
以上は2328名の男女医師とIPPNWの支援者によって署名された。
原註
1.
Yablokow AV: Tschernobyl: Wie viele sind ums Leben gekommen? Vortrag
IPPNW-Kongress „25 Jahre Tschernobyl“, Berlin, April 2011
2.
Yablokow AV: Mortality after the Chernobyl Accident. Ann N Y Acad Sci 1181,
192-216, 2009
3.
Shevchenko VA: Assessment of Genetic Risk from Exposure of Human Populations to
Radiation. In Burlakova EB: Consequences of the Chernobyl Catastrophe.
Human
Health, Moskau, 46–61, 1996
4.
Resident Health Management Survey of Fukushima Prefecture, 26.4.2012
www.pref.fukushima.jp/imu/kenkoukanri/240125shiryou.pdf
5.
Krude H, Reiners C: Schilddrüsenknoten bei Kindern und Jugendlichen. Monatsschr
Kinderheilk 156 (10), 972-980, 2008
6.
Körblein A: Säuglingssterblichkeit in Japan nach Fukushima. Strahlentelex
622-623, 26, Dez. 2012
訳注
1。→Hermann Scheerは、ドイツ社会民主党の連邦議員で、太陽光発電と再生可能エネルギーの世界的促進者であったが2010年秋に急死し、その構想力が惜しまれている人物。著書に日本語訳された→『ソーラー地球経済』がある。
2。原註6にあるこの論文は、放射線被曝の専門紙Strahlentelexに昨年末に掲載された「日本におけるフクシマ後の乳児死亡率」Alfred Körbleinである。こちらに→原文のPDF。
この論文に関しては在ベルリンの翻訳家の梶川ゆうさんが発表後にブログですでに→図表もつけて丁寧に紹介されていますので是非参考にして下さい。
わたしなりの要旨は:日本の厚生労働省が公表している統計を分析すると、非常に高い確率(P-Wert)で(1)生後一年間の乳児の死亡率が、フクシマ事故後の2011年5月と12月にふたつのピークを示しており、これはチェルノブイリ事故後の1986年6月と1987年2月に当時の西ドイツでの統計とその率からも相似している。原因については、筆者はこの時期の日本での放射線被曝値が未見であるが、ドイツでの場合は、この時期の妊婦と胎児へのセシウム負荷によるものとできるので、日本でも同じことが推測できる。
さらに、(2)日本ではフクシマ事故から9ヶ月後の 2011年の12月には出生率がこの1ヶ月だけ非常に高い確率で顕著に減少している。これはチェルノブイリのフォールアウトでドイツでは最も汚染されたドイツのバイエルン州南部も事故9ヶ月後の87年2月の1ヶ月間だけ著しい出世率低下があったのと相似している。
筆者は、以上をデーター分析した日独の統計図表を示して述べています。
さらに、(3)この意見広告には間に合わず引用されていませんが、同誌の最新号(3月7日号)で、筆者はあらためて(2)に関して「日本のフクシマ事故9ヶ月後の出生率の減少」とのタイトルで詳しい論文を公開しています(PDFはまだ未公開,→サマリーはこちらです。ここからメールで試読誌として注文することもできます)
要旨は:2006年から2011年の出生率平均と比較して2011年12月の出生率低下は、日本全体で4.7%(4362人)、その内福島県15.1%(209人)の減少となっていることを示しています。
論文では、これについてドイツ各地だけでなくヨーロッパ諸国のチェルノブイリ事故後の同様の統計分析もP-Wert付きの表で示されています。
筆者は この顕著な事故後9ヶ月目の出生率減少の大きな原因としては、各国とも放射線被曝負荷による流産にある可能性が最も高いとしています。
[12日追加です。上記に示しました梶川さんの(1)の論文紹介に対して、原発ロビー側からとおもわれる投稿があり、「出生率低下は事故による生殖の減少によるものだ」との批判があります。筆者はこれに対し(3)で、「事故後の生殖減少が原因であれば、出生率低下は、10ヶ月後から始まりある程度続くはずであるが、統計はそうなっていない。汚染が高かったバイエルン州南部とクロアチアでは8ヶ月後と10ヶ月後の死亡率は正常値となっており、同じく日本の場合も減少は9ヶ月後の2011年12月のひと月だけに限られ、前後の月は正常である。このことから、原発事故後の数週間の放射線負荷による流産が最も大きな原因であると筆者は考えている」と述べています。筆者の→アルフレッド・ケルプライン博士は、チェルノブイリ事故以来、この分野に関する研究では世界的なエキスパートであることも付加しておきます]
わたしの考えでは、このひと月の統計に顕われた4300人を越える人命が日本では失われたことになります。無名のままで生まれて来ることができなかった、最も弱い彼ら彼女たちがこれから半永久的に不可避的に出現せざるを得ないフクシマの低線量内部被曝の最初の犠牲者たちといえましょう。
3。Super-Gau 。ドイツ語。GAU は原子炉事故予測の最悪事態に関する用語から派生した、größter anzunehmender Unfall/「予測される最悪の事故」の省略形。チェルノブイリとフクシマは、それをも越える最悪事態であるため「超最悪事故」と呼ばれる。
4。Stromautobahn.再生エネルギーへの転換政策によって北ドイツの豊富な風力電力をドイツ南部への送るために計画されている高圧送電線のこと。経費が高く大きな問題となっている。
以上訳責と解説は梶村太一郎
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3月11日追加です。
9日のベルリンのデモの写真にもあるように、この日、論文掲載誌の編集長トーマス・デルゼー氏が昨秋訪日したさいの報告をし、それを梶川ゆうさんが優れた通訳をされています。専門家のドイツ人がフクシマの現場を訪ねて何を考えたかが判りやすく述べられています。この報告の日独の全文が梶川さんのブログで読めますのでご覧ください。→日本語。→ドイツ語はこちら。
9日のベルリンのデモの写真にもあるように、この日、論文掲載誌の編集長トーマス・デルゼー氏が昨秋訪日したさいの報告をし、それを梶川ゆうさんが優れた通訳をされています。専門家のドイツ人がフクシマの現場を訪ねて何を考えたかが判りやすく述べられています。この報告の日独の全文が梶川さんのブログで読めますのでご覧ください。→日本語。→ドイツ語はこちら。
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