2013年2月17日日曜日

148:ベルリン映画祭で池谷薫監督「先祖になる」が全キリスト教会賞受賞。その背景の一場面の報告。追加:バチカン放送なども報道

2月21日にさらに追加します。
池谷監督から先ほどメールがあり、転送歓迎とのことですので、以下引用します。ガンコ親父の佐藤直志さんの受賞へのコメントがあります。

【転送大歓迎】
BCCでメールを差し上げる失礼をお許しください。
まだまだ寒い日が続きますが、皆さんいかがお過ごしでしょうか?

今日はうれしいご報告をさせていただきます。
『先祖になる』が第63回ベルリン国際映画祭フォーラム部門で、キリスト教団体が選出するエキュメニカル賞の特別表彰を受けました。
1992年に創設されたベルリン映画祭のエキュメニカル賞は、独立した部門賞の一つで、プロテスタントとカトリック教会の国際映画組織
「INTERFILM and SIGNIS」によって選出された6人の審査員で構成されています。
公式サイトに掲載された審査員のコメントをベルリン在住のフリー・ジャーナリスト・梶村太一郎さんの翻訳により紹介します。

「2011年の津波大災害後の印象深い新たな始まりの一例に対して。この映画の中心にはひとりの年老いた米生産者が立っており、
彼は家の再建への力を、彼のふるさとの豊かな霊的伝統(精神的な文化遺産)から汲み取っている」

梶村さんの解説によれば、ガンコ親父の力の源泉が日本の宗教的な伝統にあるとキリスト教徒審査員が評価したことになります。
ワールドプレミア上映の際の観客の反応は、とても温かなもので、ベルリン市民の心に『先祖になる』がしっかりと届いたことを実感していましたが、
まさかこのような栄誉ある賞をいただけるとは思いもよりませんでした。スタッフ一同、喜びと感謝の気持ちでいっぱいです。
なお、ベルリン映画祭での日本映画のエキュメニカル賞受賞は初めてのことだそうです。
受賞の知らせを早速、主人公の佐藤直志さんに伝えたところ、「当たり前のことを当たり前にしているだけなのだがにゃあ」というコメントが返ってきました。

2/16から渋谷シアター・イメージフォーラムで上映がスタートしました。
来月には岩手での公開(3/9から宮古・みやこシネマリーン)も控えています。
ひとりでも多くの人にご覧いただくため、これからもスタッフ一同気を引き締めてまいります。
引き続き応援よろしくお願いいたします。

感謝を込めて

池谷 薫


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 2月17日の追加です:本日この授賞について、→バチカン放送も報道。またスイスのカトリック教会もポータルで→授賞理由まで詳しく報道しました。バチカン放送は日本ではなじみは薄いですが、実は「ローマ法皇と世界教会の声」ですから、世界で最も権威のある放送で、バチカン公国にはキリスト教徒の多い諸国からの専門特派員がいます。

 また、このベルリン映画祭でのエキュメルカル賞の授賞の記録を調べたところ、これまでアジアの映画は、中国、香港、台湾、韓国の作品は受賞していますが、日本の映画としては史上初めてであることを確認しました。以上追加します。
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  2月16日、終了日を前にした第63回ベルリン国際映画祭で、池谷薫監督「先祖になる」が、独立賞部門のひとつ→エキュメニカル賞(新旧キリスト教会合同賞/全キリスト教会賞)フォーラム部門の副賞を受賞しました。日本映画がこの賞を得るのは極めて稀なことではないかと嬉しく思います。

 巨大な映画祭であるベルリナーレでは、主催者の公式部門の賞だけではなく、多くの独立系の審査賞があり、これもそのひとつで1992年度から設けられています。
受賞の理由は以下の通りですので、上記映画祭公式サイトから翻訳しておきましょう。
  

Lobende Erwähnung:
Senzo ni naru (Roots)
by Kaoru Ikeya


Jurybegründung:
Für dieses beeindruckende Beispiel eines Neubeginns nach der Tsunami-Katastrophe im März 2011. Im Zentrum des Films steht ein alter Reisbauer, der die Kraft für den Wiederaufbau seines Hauses aus der reichen spirituellen Tradition seiner Heimat schöpft.



賞賛の辞:
先祖になる
池谷薫作
授賞の理由:
この2011年3月11日の津波大災害の後の、印象深い新たな始まりの一例に対して(授賞する)。この映画の中心にはひとりの年老いた米生産者が立っており、彼は家の再建への力を、彼のふるさとの豊かな霊的伝統から汲み取っている。

すなわち、主人公の77歳の自他ともに認める「ガンコ親父」の力の源泉が日本の宗教的な伝統にあると、キリスト教徒審査員が評価したのです。真言宗の門徒でもあり、地元の伝統の祭りである
けんか七夕の世話役でもあり、また古い歓喜仏の継承者でもあり、自ら伐採した建材を山岳信仰の山伏たちのお祓いを受ける佐藤直志老人の霊力をキリスト教徒も高く評価したものです。
わたしも、2度鑑賞 しましたが、それだけの表現力のある作品であると思います。
繰り返しますが、日本の映画がこの賞を得るのは稀だと思われます。映画祭前から→推薦したわたしも大変嬉しく思います。

16日から日本でも公開されていますので、特に東北の被災地の皆さんに見ていただきたいと思います。
被災地では、大津波で一切を失った多くの人々が、いまだに大変に生き辛い立場に追い込まれたままの状態のようです。そのような被災者の多くには、映画の中の言葉を借りれば「当たり前のことをやっている人」である佐藤老の生き様が、大きな励ましになると思われるからです。

さて、この作品は2月13日の映画祭で世界初公開されました。そのときのエピソードを紹介しておきましょう。
西ベルリンの伝統的映画館での上映が終わるとほぼ満席の観客からの長く温かい拍手が続きました。ベルリンの映画祭でもいつもこのようにはなりません。

拍手がおさまると、恒例のフォーラム部門の司会者と観客との質疑応答が行われました。
 そこで、池谷監督は「まずはベルリンの皆さんへお知らせしたいことがあります」と、主人公の佐藤直志さんのメッセージを紹介しました。





上の写真がその場面ですが、池谷監督とは25年の相棒である、福居正治カメラマンも壇上で、ここでもカメラを回しています。

映画の中でも佐藤老の毛筆の達筆ぶりがでてきますが、このペン字の「ガンコ親父」ですから始まる文章も書体ものびのびとしていいですね。

左の写真は「先祖になる」のFacebookからお借りしました。
これが英語で通訳されました






さて、質疑応答が続けられるなかで、思わぬ場面の展開がありました。

 ある質問に答える中で、池谷監督がカメラを回している福居さんに「剛君のこと話していいかな?」と尋ねたのです。
カメラを回しながら軽くうなずいた福居さん見て、監督は「実は福居さんはこの映画のロケが始まる時には、30歳の息子さん剛君を病氣で失ってから間もない時だったのです。だからお願いするのを躊躇したのですが、引き受けてくれました」と語りはじめ監督の声はふるえだし、「その福居さんが、同じ津波で息子さんを失った直志さんを、カメラを通して見つめたのです」と続け、すっかり滂沱となったのです。
これはベルリンの観客に心が通じたことを彼が確認したからでこそできたことでしょう。
 その証言が通訳されている場面がこれです。司会のドイツ人女性も涙を懸命にこらえています。幸い通訳がとても気丈夫なので何とかなりました。
 そして促されて、福居カメラマンも、この運命的な撮影の体験とお礼を述べたのです。陰の功労者です。

したがって、この映画は若い息子を失ったばかりの主人公を、同じ体験をしている父親のカメラを通して出来たものなのです。
客席を見れば、この優れた作品の出来る背景を知った観客の多勢が涙を誘われていました。これはこの映画祭でも滅多にない感動的な光景でした。

 そしてこれを書きながら思うのですが、ひょっとしたら、いやおそらくは、エキュメニカル賞の審査員もこの日の観客の中に居たのではないかということです。メッセージにも、授賞の理由にも「霊/スピリチュアル」という言葉が出ています。(これを日本の報道は「精神的伝統」と翻訳しているようですが、これを授賞する宗教界では「霊的伝統」と翻訳するのが適当です。
  
 人の心は国境や文化や宗教を越えて伝わるものです。それを可能するのが芸術です。
日本映画は、本年この世界の舞台で、そのひとつの芸術作品を得ました。日本の作品が少なかった今回、小さな賞ですがとても貴重な受賞でした。

 以上、ベルリンからの「先祖になる」受賞のひとつの背景の報告とします。

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