2011年8月3日水曜日

17:ドイツ脱原発法施行・国内放射線量測定値情報公開について/追伸あり

本日の朝刊の報道を読むまで、わたしも気づかずいささか驚いたのですが、ドイツの脱原発法が連邦大統領の決済を経て、昨日8月1日から施行されました。クリスチャン・ヴルフ大統領が7月31日に同法に署名したことを、昨日1日大統領府が発表しています。大統領はそれまでに再生可能エネルギー促進法等、その他の7つの関連法案に署名しているので、これによりドイツは「脱原子力発電・再生可能エネルギー社会建設」の法的基盤を完成したことになります。

ここまで来るのに2000年6月のシュレーダー政権による原発事業主との脱原発合意、2002年の同政権による脱原発法成立からようやく10年ほどを経て、ドイツ社会は自然エネルギー利用による21世紀の持続可能社会への不可逆な第一歩を踏み出しました。
ヴルフ大統領2011年1月19日在ベルリン日本大使館
これが、フクシマの事故の教訓によるものであることは、おそらく世界史に記憶されるのではないかと思います。 大きな節目です。

ヴルフ大統領は、脱原発法案など国家の戦略的重要法案があまりにも急速に、国会で十分でない日程で審議されることを懸念して、民主主義の原則にもとると、公然と厳しく批判し、連邦両議院で可決された後、大統領の権限として「憲法に準ずるか厳密に審査する」と述べていたことから、現時点での署名は意外に早かったとの印象をわたしは得ました。
日本の天皇と違い、ドイツでは大統領が違憲判断により議会決議を経た法案に署名を拒否して、施行を阻止することも実際にあります。国家元首とは飾り物ではありません。憲法を体現する義務を国民に対して負う孤独な重責にあります。
余談ですが、ヴルフ大統領は、戦後ドイツの大統領としてはめずらしく良く日本を知っている親日大統領であるため、神余(しんよ)在ドイツ日本大使の要請にも協力を惜しまない人物です。写真は今年の日独(江戸幕府とプロイセン)国交成立150周年での記念式典でのものです。

 さて、前回はドイツ気象局による、フクシマの放射線汚染予想について解説しましたが、今回はごく簡単ですが、ドイツ国内の放射線量測定値情報公開について紹介します。

ドイツ環境省の正式名称は「連邦環境保護および原子炉安全省」です。一九八六年のチェルノブイリの事故の直後に設けられた同省に、89年にそれまで分散していた放射線防御担当の政府機関を統合して設けられたのが「連邦放射線防護庁」(Bundesamt für Strahlenschuz)です。

ドイツはよく知られているようにチェルノブイリ事故で国土がかなり放射能汚染されましたし、現在でも森の土壌の半減期の長いセシウムなどの汚染値は高いものがあり、イノシシやシカなどの野生動物は食肉として規定を越えるものが多いのです。つまりフクシマ事故で今日本人が体験していることを25年前から体験しているわけです。

さて連邦放射線防護庁の仕事のひとつに国内放射線量測定値情報公開があります。
みなさんここを見て下さい:http://odlinfo.bfs.de/index.php

下のようにドイツ全国の地図に1800カ所 に丸印が見られます。ひとつづつが空気中のガンマー放射線量の測定機器が設置してある場所を示しています。

丸印の色の濃淡で線量を現しています。これは本日の図ですが全国的に多少の濃淡がありますが、いずれも正常値です。

次に自分の住んでいる近くの丸印にカーソルを当てると地名が表示されますが、それをクリックして下さい。例えばわたしの住居に近いベルリンのテーゲル(ここには飛行場があります)の放射線量のグラフが見られます。http://odlinfo.bfs.de/cvdata/110000007.php
上部に13405(これは郵便番号です)BerlinーTegelと地名表示があり、単位はマイクロシーベルト/時です。7月29日と30日に値がやや上昇していますが、これは降雨によるものです。この週は悪天候で雨が続きましたが、放射線量と降雨量はほぼ一致した変化を示します。日本でも最近定着したホットスポットの原因のひとつが降雨であることがよくわかります。

これは画面の上半分の写真ですが、2時間おきの1週間分の放射線量が自動的に記録された測定値がそのリアルタイムで見ることができます。下部にあるもうひとつのグラフは数ヶ月分の記録です。
大都会のベルリン市内で10ヶ所ありますので市民は近所の線量情報をいつでも恒常的に確認できます。

日本でも同じシステムを設置すれば、国土面積からすればドイツの150%にあたる、全国のおよそ2700カ所での測定値が得られることになります。

みなさん、今日本でこのシステムがあれば、フクシマからの汚染に戦々恐々としなければならない状態からどんなに多くの市民が救われ安心できるかを考えてみてください。これは予測値ではなく実際の測定値なのです。
 汚染度が高い地域は丸印が青から赤になりますので、農家や学校ではこれほど重要な判断情報はないはずです。 このような情報公開こそが日本の住民にとって緊急で最も必要なものであることは言を待たないでしょう。

世界でも最悪の原子力施設であるプルトニウムをナトリウムでくるんでいる高速増殖炉「もんじゅ」の維持費は1日で5500万円です。 六ヶ所の核燃料再処理施設の維持費はもっと高額でしょう。
世界でも最悪の核施設であるこれらの施設の経費の数ヶ月分もあれば、十分にこのような施設は実現できるはずです。
原子力国家として狂っている日本が正気にもどれば、まずなされることの最初のひとつがこれだと思います。

ドイツ人の大半は自らの歴史体験から、国家社会が狂えば取り返しのつかないことになることを忘れてはいません。脱原発への全社会的なコンセンサスがフクシマで一挙に成立したのも、このような歴史体験が大きな背景としてあるのです。
だからヒロシマ・ナガサキを体験した日本がフクシマの愚を重ねたことが、ドイツ人にはまるで理解できないのです。

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追伸です。
一夜明けてみると、以下のような報道がありました。NHKの報道を一部引用します:
 (以下引用)

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20110803/k10014661261000.html
政府 原子力安全庁設置へ試案 8月3日 12時19分
政府は、東京電力福島第一原子力発電所の事故を受けた原子力行政に関する組織の再編について、原子力安全・保安院を経済産業省から分離し、環境省の外局として「原子力安全庁」を設置するとした試案をまとめました。
試案によりますと、原子力の安全を広く確保するためには関連する業務を一体的に行う必要があるとして、現在の原子力安全・保安院の原子力安全規制部門を経済産業省から分離し、環境省の外局として「原子力安全庁」を設置するとしています。 
具体的な任務としては、▽原発事故発生時の初動対応、▽放射線量の調査「モニタリング」、▽放射性物質の規制、▽核テロ対策といった治安機関との連携などを実施するとしています。
(引用終わり) 


すなわちドイツ政府が上記のように1989年に放射線防護庁を設置したとほぼ同じことを、ようやくやろうとしているのです。任務に「放射線モニタリング」もあるので、ドイツの方法が大きな参考になるでしょう。ついでですから、この試案の責任者である細野豪志原発事故担当相への参考としてドイツ環境省の放射線防護庁の長官を紹介しておきます。

ケーニッヒ長官2011年6月ゴアレーベンで
ヴォルフラム・ケーニッヒ(Wolfram Köniig)長官は緑の党です。
同党のトリッティン氏が環境大臣であった際に右腕として長官に就任し、庁内の信頼が絶大であることもあり、保守政権になっても追い出されることはないのです。
6月にゴアレーベンのハイレベル放射性廃棄物処理施設予定地を視察し、長官に抗内まで案内してもらったのですが、この施設を囲むフェンスにかつてあったデモ隊対策の放水銃がないので、わたしが「どうしたのか」と出迎えてくれた彼に訪ねると、「あれは就任して直ぐ撤去させた。あんなものは民主主義に反するものだから。本当はフェンスの上の鉄条網も全部撤去したいのだが、警察が警備のために必要だと主張するので、しかたなくそのままにしてある」とのことでした。
彼が長官になってからの同庁のスローガンは「人間と環境への責任/Verantwortung für Menschen und Umwelt」です。ホームページでもロゴのように見られます。これを信条とする長官らしい言葉です。市民を放射線から守る直接の最高責任者がこのような人物であることを以上簡単ですが紹介しておきます。

ひるがえって、日本の保安院のありさまはどうでしょうか。
もうひとつ本日以下の時事通信の報道があります:

(以下引用)
 http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2011080300227
保安院の解体要求=社民党首
社民党の福島瑞穂党首は3日の党常任幹事会で、経済産業省原子力安全・保安院の「やらせ質問」問題に触れた上で、「(経産省から)単に保安院を形式的に分離するだけでは駄目だ。規制官庁であるにもかかわらず、(原発を)推進してきた保安院は解体しなくてはいけない」と述べた。(2011/08/03- 10:41) 

(引用終わり)

わたしからみれば、「やらせ」を確信犯として行った保安院などは解体は当たり前であるだけでなく、「やらせ」は立派な刑法の背任罪に相当するのではないかと思います。福島みずほさんは、弁護士なのでその点も検討してほしいものです。日本ではドイツと違い背任罪は未遂でも成立するので、彼らを告発することはできるのではないでしょうか。 国民の膨大な生命と財産に損害を与えた保安院を罰することのできない社会は、到底法治国家とはいえません。どうでしょう?
その上ではじめて、国民を守るべき官庁が人を得て充実し機能するのです。

1 件のコメント:

  1. 初めて投稿いたします。私はドイツの環境教育を研究している者です。ドイツの環境政策に対する市民運動の位置づけに興味を持っています。1970年代の新しい社会運動の展開を経て、日本と決定的に歩む道を分かち始めたのが、チェルノブイリ前後と認識しています。今後の日本はドイツの1970年代から歴史を丁寧にひもといてトレースして行かなくてはならないと思っています。
    しかし、現在の汚染の拡大はそのような悠長なことを言ってられないスピードで、自分の作業の遅さにジレンマを感じております。市民の成熟を待つ間に、健康被害で未来の民主主義を担う若者たちが危険にさらされているのが現状です。日本の気象庁ではなくDWDの再開を懇願することは筋違いというご趣旨賛同いたしますが、東京の汚染が福島市並になるという予測について、もう少しお聞かせ願えませんでしょうか。
    来週よりベルリン入りする予定です。もしお時間がございましたら、お目にかかかれましたらと思います。ご検討どうぞよろしくお願い申し上げます。

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