2016年6月1日水曜日

324:三菱マテリアル中国人元強制労働者と遺族への謝罪文原文:安倍晋三内閣の歴史認識に痛打

 本日、北京で長期に渡って交渉が行われていた、第二次世界大戦中の日本国内に強制連行され過酷な労働を強いられ、甚大な被害を受けた事件の日本側事業主である三菱マテリアル社と中国人元強制労働者とその遺族との間で和解が成立し、両者の間で調印が行われました。三菱が歴史事実を明瞭に承認して謝罪し、謝罪金を被害者と遺族に支払い、かつ戒めのため謝罪碑を建設して後の世代に伝える努力をするとするとしたほぼ完璧なものです。

 これについては中国でも→人民日報以下が大きく報道を始めていますが、現時点での最新の写真を中国網から拝借します。
 また時差の関係もあり少し遅れてニューヨークタイムスがかなり詳しく、記者会見を動画を付け、被害者らの生の声を伝えています。
この記事では、下記のわたしのコメントにある昨年の安倍総理の談話の引用まであります。ここにも安倍総理の歴史認識が世界でどう見られているかがよくわかります。

→Mitsubishi Materials Apologizes toChinese World War II Laborers

和解後の記者会見での元中国人労工代表中国網


以下が本日、北京からベルリンのわたしの元へ送られてきた本日署名された和解文書の一部にある三菱側の謝罪条項の原文です。甲とあるのはは中国側、乙は中国側当事者です。
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第1条(謝罪)

  乙は,本件事案につき,以下のとおり謝罪し,甲らは,乙の謝罪を誠意あるものとして受け入れる。



第二次世界大戦中,日本国政府の閣議決定「華人労務者内地移入に関する件」に基づき,約39000人の中国人労働者が日本に強制連行された。弊社の前身である三菱鉱業株式会社及びその下請け会社(三菱鉱業株式会社子会社の下請け会社を含む)は,その一部である3765名の中国人労働者をその事業所に受け入れ,劣悪な条件下で労働を強いた。また,この間,722人という多くの中国人労働者が亡くなられた。本件については,今日に至るまで終局的な解決がなされていない。



『過ちて改めざる,是を過ちという。』 弊社は,このように中国人労働者の皆様の人権が侵害された歴史的事実を率直かつ誠実に認め,痛切なる反省の意を表する。また,中国人労働者の皆様が祖国や家族と遠く離れた異国の地において重大なる苦痛及び損害を被ったことにつき,弊社は当時の使用者としての歴史的責任を認め,中国人労働者及びその遺族の皆様に対し深甚なる謝罪の意を表する。併せて,お亡くなりになった中国人労働者の皆様に対し,深甚なる哀悼の意を表する。



『過去のことを忘れずに,将来の戒めとする。』 弊社は,上記の歴史的事実及び歴史的責任を認め,且つ今後の日中両国の友好的発展への貢献の観点から,本件の終局的・包括的解決のため設立される中国人労働者及びその遺族のための基金に金員を拠出する。また,二度と過去の過ちを繰り返さないために,記念碑の建立に協力し,この事実を次の世代に伝えていくことを約束する。



第2条(生存する元労働者に対する謝罪及び金員の支払い)

  乙は甲らに対して,前条の誠意ある謝罪の証として,本和解合意書の調印後直ちに1人当り10万人民元を乙から甲らの各名義の銀行預金口座に各々振込送金する方法で支払う(支払手続にかかる費用は乙の負担とする。)



(以下略)

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 その他の和解文書の概要は毎日新聞が先ほど現場から報道していますのでご覧ください。
→被害者代表、三菱側の内容評価

日本でも大きく夕刊で報道されていますが、共同通信の夕刊用の配信記事のひとつがこれです。
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2016年6月1日 

 三菱マテリアル、強制連行で和解 中国人3700人以上対象
 【北京=共同】第二次世界大戦中、日本国内の鉱山などで強制連行した労働者を働かせた問題を巡り、中国の被害者団体と三菱マテリアル(東京)は一 日午前、日本企業の戦後補償として過去最多の三千人以上を対象とした和解に合意し、北京で関連文書に署名した。三菱側が「謝罪」の表明と被害者一人当たり 十万元(約百七十万円)を基金方式で支払うのが柱。被害者団体は一日午後、北京で正式発表する。関係者が明らかにした。

 日本の最高裁が賠償請求を認めなかった中国人被害者に対し、民間企業が自主的に謝罪し金銭補償に応じた歴史的合意で、日本企業が絡む他の戦後補償問題の行方にも影響を与えそうだ。

 被害者団体は昨年八月に和解受け入れを表明したが、その後、一部被害者団体が中国で提訴し交渉から離脱したことへの調整や基金の中国側受け皿の選定が難航し、和解案の受諾表明から約十カ月後の署名となった。

 日本政府は一九七二年の日中共同声明で、中国は国家間と同様に個人の賠償請求権も放棄したとの立場。日本の最高裁が二〇〇七年、賠償請求を認めない判断を示した後、中国の被害者団体と三菱側が個別に交渉を進めていた。

 和解合意によると、被害者側の対象者は三千七百六十五人。三菱側は「中国人労働者の人権が侵害された歴史的事実を誠実に認める」とした上で、被害 者と遺族に「痛切な反省」と「深甚なる謝罪」を表明。三菱側は補償金以外に記念碑建立費一億円、行方不明の被害者らの調査費二億円を支払う。

 被害者側の全員を把握できた場合、支払総額は最大七十億円規模となる。

 三菱側と合意した被害者側は「中国人強制連行者聯誼(れんぎ)会」や「中国労工被害者聯席会」など五団体。一四年二月に北京の裁判所に提訴した被害者や遺族計三十七人でつくる別の一団体は昨年二月に和解交渉から離脱した。
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 安倍晋三内閣には痛打である。

わたしのコメントですが、これまで中国人日本国内での強制労働での和解成立は、花岡事件での鹿島建設、広島県安野発電所建設での西松建設との和解と和解事業の実行があり、先鞭をつけてきましたが、今回の三菱の和解対象は、日本国内へ強制連行された中国人犠牲者の約10%にあたる最大のものです。したがって、困難な日中間の歴史認識での和解に大きな影響を与えることは間違いありません。
 
 ところで、中国人の強制連行は、1942年11月の東条内閣により→「華人労務者内地移入ニ関スル件」として閣議決定され実施されたものです。その際、大きな役割を果たしたのが、同内閣で商工大臣であった安倍晋三内閣総理大臣の祖父岸信介あったことは良く知られた史実です。彼は中国人強制労働者らの現場を責任者として何度も視察した事実があります。
 したがって、この和解は祖父の念願を引き継ぎ、平和憲法を改悪することをその最大の政治目的とする安倍晋三内閣にとってはその歴史認識にとって痛打となります。いわば、歴史修正主義の中枢を射た一本の矢といえます。

安倍首相は昨年の敗戦70周年の→内閣総理大臣談話で次のように述べました:


日本では戦後生まれ世代が今や人口八割を超えています戦争には何ら関わりない私たち子や孫そしてそ世代子どもたちに謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません

 安倍氏は「だから謝罪はする必要ないとするのですが、歴史はそんなことは許しません。一例として、上記で紹介したニューヨークタイムス記事が結論で:
Some critics noted Mr. Abe also said that future generations, who had nothing to do with the war, should not “be predestined to apologize.”
 と指摘したとおりです。

 このような謝罪を続ける宿命を今の世代にもたらしたのは他でもない首相の祖父の遺産であるのです。まことに上記謝罪文にあるように「過ちてこれを改めざる、これを過ちという“过而不改,是谓过矣”」ことの典型例が安倍晋三内閣なのです。
  つまりいくら歴史事実を無視しようとしても、それは無駄であり、史実を直視しするところからしか将来は開かれないことのひとつの証明です。
 三菱マテリアルは岸信介らの負の遺産を背にして、日本最大の旧財閥としてようやく自社の歴史を直視することを始めたのです。おそらくこれからもこの件で社内での葛藤は大きいでしょうが、和解を実現した努力と決意は、同社の得難い資産となる可能性があります。
 そのために謝罪碑建立など和解事項内容の実行を中国人被害者とともに実現する努力を期待します。和解はそれによって内実を得るのであって、金銭で買い取って終わるものではありません。すなわち和解事項の実現過程を体験することで、三菱も企業としてのコプライアンスを全うできるのです。その意味で和解事業は今日ようやく歴史的な一歩を踏みだしただけであり、これからが本番です。日本のメディアに、この「和解の本番」をしっかり報道することを期待します。これが非常に重要です。

 またもうひとつだけここで簡単に付け加えておきますが、ドイツの大企業と国家が、官民を挙げて実現した強制労働への謝罪金は、生存者だけを対象としたものであって、遺族は含まれません。日本の場合はこれまでに亡くなった犠牲者の遺族も対象にしており、この点は,ドイツよりも遥かに優れた和解です。これを実現したのは2000年の花岡事件和解ですが、これについては項を代えて紹介したいと思います。
1941年10月東条英機内閣成立 右端が岸信介 写真Wiki

2 件のコメント:

  1. 先週土曜日にこちらで行われた第19回日蘭印対話集会の結びの中で、この歴史的な合意に言及しました。2007年に提訴した中国人たちに対して、最高裁が1972年の日中共同声明を根拠に賠償請求は認めないという決定を下しましたから、三菱の行動は日本の現政権の方針とは独自の姿勢、という意味でも重要である、と申しました。
    遺族への支払いもする、というのはドイツの場合にもない、優れた点である、とのご指摘は貴重です。ただ、ドイツの場合、被害者が桁違いに多いですから、遺族までには及ばなかったのかもしれません。

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  2. 家内がもう一つ指摘したんですが、ドイツに比べたら日本はとてつもなく動きが遅かったのではないか、ということです。ドイツの場合は、相手国によって違うでしょうが、もう何十年も前から取り掛かっているのと違いますか? Better than never かもしれませんけど。

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