と考えていたところ、シュピーゲル誌電子版が今朝(3日)、明日発売の同誌が「秘密作戦『サムソン』/いかにしてドイツが核大国イスラエルの軍備を拡張させているか」というタイトル(写真)で報道するとの→予告がありましたので、さっそくオリジナルを読んでみました。
シュピーゲル2012年6月4日号表紙 |
この、ドイツがイスラエルに供与している潜水艦が中距離格核ミサイルを装備しているのではないのかという疑惑は、4月の復活祭にギュンター・グラス氏が散文詩で指摘したため大変な物議をかもしたことは →83回でお伝えしたとおりです(この詩と経過については『世界』6月号で三島憲一氏も報告されています)。
どうやら、これをきっかけにシュピーゲル誌は取材を始めたらしく、この号でおよそ12ページに渡る報告をしています。わたしの知る限り大メディアが報道したものとしては最も詳しく、これまでは知られていないドイツ側機密文書も手に入れて公表しています。
また、驚くべきことに、イスラエル政府は同誌の二人の記者に、ドイツが供与し、核装備が疑われているドルフィン級潜水艦の一隻である「テクマ」号の取材を世界で初めて許可しています。
Made in Germanyのイスラエルの「核装備?」潜水艦の司令室の写真。同誌より |
右の写真の図にある先頭の魚雷と中距離ミサイル発射装置と、それらの武器庫(赤)のある二つのデッキには記者は入れませんでしたので、記者のひとりが対応した海軍士官に同艦内の核兵器の存在を質問したところ、「それに答えたら、私はグーラーグ(旧ソ連の労働収容所)行きですよ」とだけの返事があったとのことです。
わたしの推測では、イスラエルがこの機に、ドイツ誌にこのような取材を許可したのは、同国の安全保障にとって戦略中枢の要である潜水艦の存在の報道が、供与国のドイツでは半ばタブーであったところ、頑固爺さんの一遍の詩で世界中に知れ渡ってしまったことへの反応であるというこです。
依然としてイスラエルは核武装そのものは公式に認めていませんが、「ドイツから核装備が可能な潜水艦をこれまで3隻供与され、さらに技術革新された新型3隻が建設中で2017年までに手に入る」ことを公然と認める政治判断があると思われます。
バラック国防省はこの供与に関して「ドイツはイスラエルの安全を長期に保障することを誇りにするべきだ」と同誌に述べています。「良いことだ、何が悪い」との開き直りです。
この報道によれば、メルケル首相が今年の3月末に供与を許可した最新型は、最新の燃料電池のエネルギーで、これまでは3日であった潜水継続時間が、最低18日間は可能で、しかも動力音が押さえられ、仮想敵のイランに対してはペルシャ湾で長期に静かに作戦行動が可能になるとのことです。つまり、イランにとっては喉元に匕首を突きつけられるようなものです。
このような情勢について、ドイツ国防省の元政務次官で現在政府系シンクタンクにいるワルター・シュッツレ氏はメルケル首相に対して「もしイスラエルが先制攻撃をすれば、イランは加害者から被害者の役割へと入れ替わる。本当の友好関係とはドイツのイスラエルへの義務として、イスラエルに自滅的冒険をさせないことだ」と警告しています。
さて、同報告の核心は、上記の潜水艦問題よりも、これまで未公開であったドイツ政府のイスラエルへの軍備援助に関する極秘文書を請求して公開し、1950年代以来の両国関係の陰の歴史である核武装援助を叙述していることです。
ドイツの核の男爵シュトラウスとベンーグリオン(上)、「会談でベン-グリオンは核兵器製造に言及し、アデナウアー首相がイスラエルのネゲフ砂漠の開発に五億マルクの借款を約束した」との極秘文書の部分(下)同誌より。 |
たとえば、極秘の印のある文書によればイスラエルが核兵器製造の話が最初に出たのは1961年に当時の イスラエルのベン-グリオン首相と、わたしが中曽根康弘氏と同じドイツの核の男爵としてこのブログを始めたばかりの→第5回で紹介したシュトラウス国防相のパリでの会見のときであるとのことです。
極秘文書には「会談でベン-グリオンは核兵器製造に言及し、またアデナウアー首相がイスラエルのネゲフ砂漠の開発に五億マルクの借款を約束した」とあります。
公式には、「このイスラエル南部の砂漠の緑化のために海水の淡水化装置が必要である、そのためには安価な電力を大量に供給する原子力発電所建設の経費である」とされていました。ところが借款が履行されたにもかかわらず、原発と淡水化装置は建設されず、今砂漠の真ん中にあるのが、核兵器製造施設であるのは周知の事実です。
このときに同席したのが、当時の国防副大臣であったシモン・ペレス現大統領だけであったことも記されています。そして、ベン-グリオンはペレスに旧約聖書から採った「サムソン作戦」とのコードネームのこの極秘プロジェクトをまかしたとのことです。
すなわち、ドイツはイスラエルの核軍備に計画段階から同意し、極秘に援助していたことになります。どうやらドイツの核の男爵は日本のそれよりも悪党であったようです。
シュピーゲル誌の今回の報告は、そこまで踏み込んではいませんが、当時の政治情勢からすれば、ドイツが単に経済援助だけではなく核兵器製造に欠かせないウラン濃縮の技術援助も行ったのではないかとの疑いも出てくるのではないかと思われます。
いずれにせよ、ドイツのイスラエルへの膨大な「戦後補償」には、このような決定的な軍事援助がその裏側にあり、それが現在も続けられていることが、この報道で白日の下に晒されたのです。反響は情報ガラパゴス島の日本メディアの報道ではほとんどなくとも、世界ではかなりあるでしょう。
また、グラス氏が何を述べるかが楽しみです。
これに関する日本語の最初の報道は→ロシアの声です。イスラエルでは→ハーレッツ紙の英文電子版が早々に要旨を報道。
また日曜日でもあるにもかかわらず、メルケル首相のスポークスマンは「ドイツ政府は前任政権同様に潜水艦を核兵器なしに引き渡した。核兵器を装備するか否かの議論にはかかわらない」との、無責任な言い逃れのコメントを先ほどシュピーゲルに対し述べています。
この写真は、キールで建造中のイスラエル向けドルフィン級潜水艦です。
Haaretz紙より。写真AP。2012年3月27日 |
ドイツの反核運動を知りたくブログを見ました。私は日本のうたごえ合唱団の音楽監督・指揮者をしている守屋博之といいますが、来年3月下旬に合唱団がドイツへ行きます。ヒロシマ・フクシマなどテーマにした歌もうたうので、その時反核・反原発運動をしている方ともお話したいのです。ドイツの反核運動について日本語で読める資料などあったら教えていただけませんでしょうか。
返信削除守屋博之さま、
返信削除お返事遅くなり申し訳ございません。ドイツの反核運動に関しては、わたしがここ10年ほど『世界』や『週刊金曜日』に寄稿したものが多くあります。
また、当面の問題である低線量被曝に関する問題ではここの第95回に参考資料としていくつか挙げておきました。
最近、ドイツの反核運動の歴史について書かれた著作の翻訳が出版されたようですので調べてお知らせいたします。
梶村