2013年9月23日月曜日

187:長引くドイツ新政権の連立交渉/脱原発はより確実に進行/メルケル女王の夫君はだれか?

 一夜明けて、昨晩のドイツ連邦議会選挙の暫定開票結果がようやく出ました。
正式な統計は→こちらで見ることができますが、とても複雑なので→シュピーゲル誌電子版から一部引用します。
ドイツの選挙法の5%条項により、それ以下の得票率では議席を得ることができません。
したがって、次期国会の議席配分は:
 
Sitze総議席数: 630Mehrheit過半数: 316 
Unionキリスト教民主社会同盟 311 
 SPD社会民主党192 Linke左派党 64 Grüne 63

との配分になります。
 ここで、メルケル首相の同盟は、単独過半数に5席足らないので、連立相手が必要です。
計算上は、野党3党が連立(赤赤緑)すれば319議席で過半数となりますが、社民と緑の党が連邦政策(特に外交問題)では左派党との連立が不可能であるとしていますので、同盟と社民(黒赤大連立)、あるいは同盟と緑(黒緑)連立が可能です。

 明日あたりから、メルケル首相はまず、社会民主党、次に緑の党に連立交渉の打診を始めるとみられますが、それぞれの党内事情もあり、厳しい交渉となることは間違いありません。したがって、新内閣が成立するまでには、最低でもひと月はかかると予想でき、長引きます。
 またドイツにおける原発ロビーの牙城であった自由民主党が、政権と議会から消えましたので、次期政権はいずれの連立となっても、2022年末までの原発全廃と、再生エネルギー促進政策は、より確実に進行することになります。
これについては、連立交渉の結果を見て、しかるべきところできっちりと報告するつもりです。
 
 選挙翌日の様子を端的に表現しているひとこまマンガが、本日のベルリーナツァイトングに掲載されていますので紹介しておきましょう。
メルケル女王の連邦首相の王座の横に、小さな粗末な空席の「副首相」の椅子があります。タイトルは「女王の夫君募集中」です。
Berliner Zeitung 23.9.2013 Heiko Sakurai

2013年9月21日土曜日

186:ドイツ第18期総選挙速報版/メルケル首相圧勝/原発推進の自民党は中央政界から消滅

さて、日本でもここ数日、明日の9月22日に行われるドイツの総選挙に関する報道が届けられていますが、ここで結果が出るまでできるだけ速報しましょう。
順次追加して行きます。
日付と時間は全て中央欧州時間とします。日本時間より7時間遅れです。

なお、今回の選挙については、東京のドイツ大使館が日本語で公式に、判りやすく解説していますので参考にしてください。これもシュタンツェル大使が日本語の達人ですので彼のおかげかもしれません。
 読みにくいので、第5回 の22日18時10分の最初のドイツ公共第1テレビARDと第2テレビZDFの最初の集計予想から逆に前に書き入れます。
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 第8回:23日01;00

 日付が変わりましたが、連邦選挙管理長による→公式暫定最終得票率の発表までにはもう少し時間がかかりそうです。
 
 現時点で確定していることは:

*メルケル首相のCDU- CSUが圧倒的な40%を越える得票率で勝利したことで、ほぼ間違いなく第3次メルケル政権が成立すること。だたし単独過半数にはわずかに届かない情勢であること。

*社会民主党は得票率はわずかに伸ばしたものの、25%ほどでその差が依然として大きいこと。
 
*緑の党は8%台にまで落ち込み、左派党と第3党の座を争う状態であること。

*自由民主党が史上初めて連邦衆議院から消滅し、新党のドイツの選択も5%に達せず、その結果、次期国会は4党体制となること。これだけでもドイツの戦後政治史のエポックとなること。

以上ですが、肝心の次期連立政権の組み合わせがどうなるかについては、明日以降にならないとわかりません。おそらく、明日から数日かかるでしょう。

というわけで、選挙速報版も一応これで終わります。続きは項を変えて書くことにします。

メルケル氏も自宅で就寝されたころですのでわたしも、そうします。

 Gute Nacht!


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 第7回:22日22:46

現在のところ、メルケル氏の単独過半数は確定していません。

党本部での圧倒的勝利宣言の写真です。その動画はこちらでご覧ください。雰囲気がよくわかります。この時も彼女はおなじみの手つきをしています。

またこれまでの連立相手の自由民主党の惨状を現す写真がツイッターで流れています。
「馬は知るや知らずや、食われてしまうFDPの選挙ポスター」 とのコメントがついています。

いやはや、政治の世界は厳しいですね。

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第6回:22日20;25

メルケル首相の党が単独過半数の可能性

 その後、票の集計と予想が進んでいますが、自由民主党がドイツの連邦政治から消えることはほぼ確定的です。ヘッセン州でも目下4.8%に停まっており、このままでは同党はわずかにザクセン州議会の議席だけが残ることになります。レスラー党首は先ほど、敗北宣言をしましたが、明日にも辞任するでしょう。

 さて、メルケル首相のCDU- CSUはその後、得票率を安定させており42.5%あたりで固めています。さきほど首相は党本部で、「わが党は国民政党として圧倒的な強さとなった、今夜はお祝いをしましょう。これからのことは暫定最終結果が出るまで待ち、明日の党会議で協議しましょう」と余裕たっぷりの勝利宣言をしました。
 この背景には、新党ドイツの選択が、ずっと4.9%の予想にとどまっており、5%に達する可能性も現実的にあることです。
 ドイツメディアは、同党が議会進出を逃した場合は、メルケル首相の党が単独過半数の議席を獲得する可能性が強いことを指摘しています。そうなれば、これもドイツの戦後史で敗戦後の1957年、アデナウワー政権以来の初めての出来事で、明日の世界中のトップニュースになるでしょう。

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第5回:22日18:30

原発推進派の連立与党の自由民主党が議席を失う情勢

18時30分発表の最初の集計予想は次のとおりです:

             
              ARD      ZDF
               18:10
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現与党

CDU.CSU

キリスト教民主社会同盟       42.0      42.3

FDP 自由民主党               4.7        4,5



現野党

SPD社会民主党               26.0      26.3

Grüne 緑の党                8.1      8.0

Linke 左派党                 8.3      8.5



 現議会外

Piraten 海賊党              ------       -----

AfD ドイツの選択            4.9     4.8

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  自由民主党が、史上初めて連邦議会で議席を失う可能性がかなり確実となりました。そうなれば強固な新自由主義経済政策と、原発推進派であったこの党にとっては、致命的とも言える打撃です。

 そうなれば、メルケル首相は連立相手を変えなければならなくなり、どうなるかは、新党ドイツの選択が 5%を獲得して議席を得るかどうかを見極めるまで、連立の行方はわかりません。あと数時間、暫定開票結果がでるまで緊張した状態が続きます。
選択が議席を得ない場合は、大連立から赤赤緑の現野党3党連立まで視野に入り、大変な駆け引きが各党の内外で起こる情勢となります。

この総選挙はドイツの政治史でのひとつの転換点になることは間違いないといえるでしょう。(18;50)


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第1回21日午後

 これは、ベルリン中央駅前の広場に建設中のビルに掲げられた巨大な選挙ポスターの夜景写真です。いかに大きいかはこの広場で先日から行われているオクトバーフェスト(ビール祭)のための仮設トイレ(下部のWC)と比べるとわかります。
 与党CDU(キリスト教民主同盟)の党首、メルケル首相の特徴的な手ぶりをモザイクで示しただけのものです。わたしもドイツの総選挙は10回ほど体験していますが、これほど見事な選挙広告は初めてです。
 メルケル氏が中央駅の対岸にある総理府で立ったままの記者会見をするときなどの、典型的な癖であるために、ドイツ市民はこれを観て、一目でメルケル氏であることがわかるのです。
 さっそくヨーロッパ以外でのメディアもこれを取り上げ、「メルケルの菱形」だとか、「ハートゼスチャー」だとか、様々な論評を書いています。

わたしの感想としては、今回の選挙戦で同党は、対立候補に対する彼女の圧倒的な人気に依存して、争点を隠して選挙を有利に乗り切ろうとする戦術にでており、この広告は、その象徴であるということです。
 先の世界的な金融危機と、最近ではユーロ危機に対して厳格な政策で対応し、ドイツの相対的な経済安定をもたらしているメルケル氏への有権者の信頼感には強いものがあるのです。ネットて出回っている写真集のように、まさに「しっかりしたお母さんのご機嫌が良い時の手ぶり」であり、ドイツの庶民は安心感をいだきます。
  その心理に訴えて、争点を隠す選挙運動が、どれだけ成功するかが、結論は明日の夜(日本時間23日未明)には判明することになります。

 同党が40%前後の得票率で第一党となり、第三期のメルケル政権ができることだけは確実であるとわたしも思いますが、はたしてこれまでのFDP(自由民主党)との連立が可能かどうかは、同党が5%の得票率に達して議席を獲得できるか否かにかかっており、また議席を確保しても他の野党諸党の得票率によっては、FDPとの連立で議席過半数を確保できない可能性もかなりあります。したがって、選挙の焦点は新政権の連立の行方だけとなっているのが現状です。現時点での各種世論調査は与野党の得票率が、それぞれ45%前後で拮抗しています。しかも有権者の30%が直前になって投票先を決断するとの調査もありますので、誰も予測できないというのが実情です。

 これほど、ふたを開けてみないと判らない総選挙は、これまで1994年と2002年の2度あっただけであるといわれています。したがって政界とメディアの裏舞台の緊張感には非常なものがありますが、 一般の有権者は、前述のように争点がぼやけた選挙戦であるために、関心が低下しており、得票率が70%を切って史上最低になるのではないかと危惧されています。一昨日、ガウク大統領も棄権しないように呼びかけています。(21日16:44)
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第2回:21日夜

 面白いのは、ミュンヘン大学が各種の今回の選挙結果の予想を総合的に統計学で分析して、その結果をほぼ毎日集計して公表していることです。
メディアでもほぼ知られていませんが、ここの→Polly Voteで観ることができます。

最新の昨日20日の結果は、ここでも現在の連立与党と野党の合計の得票率が、きっちり45%づつの互角になっています。 残りの10%はその他の政党です。

 さてメルケル氏の与党の宣伝の紹介だけでは面白くないので、他の政党の選挙ポスターで、わたしの目についた面白いものを紹介しておきましょう。

これは、「ドイツマルクス・レニーン主義党」のもの、「諸革命は歴史の機関車である/カール・マルクス」とあります。

 さすが、マルクスの故郷だけあって、150年以上の伝統は死に絶えませんね。鉄道フアンだけでなくロシア人、とりわけトロツキストの郷愁を誘い、彼らの蒐集対象となるようなポスターですね。
 古典的価値あり、感心しました。


これは緑の党のポスター。
この選挙では、緑の党はある意味で完璧な選挙戦術の失敗をしました。
従来の環境保護と、再生エネルギー社会実現を主要テーマとせず、経済格差に焦点を当てて、裕福層の増税政策を主に訴えたのです。そのため、選挙戦が始まってから、支持率が下がり続けており、今では10%前後のありさまです。
フクシマ事故の直後は、25%までになっていたのです。 わたしも、ひと月前には、黒緑連立政権の可能性もあると考えていたのですが、そのためこれもほぼ不可能となってしまいました。
このポスターは「ところで君はどう?」との標語のひとつですが、「わたしは別の見方をする」という文字をごていねいにも上下左右を逆転させた二重の鏡文字にしています。緑の党の失敗を非常によく現しているポスターです。


もうひとつ海賊党のポスター。
メルケルさんの首を監視カメラにすげ替えて、「二度と監視国家はごめんだ!」とあります。

海賊党は圧倒的に若者の、しかも階層を越えた支持を得て2011年のベルリンの州選挙では見事に議席を獲得しましたが、その後全国組織化がうまくいかず、今回の国政選挙でも2から3%と見られています。

しかしわたしは、この党の将来に期待しています。

 (21日23;43)

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第3回:22日昼

全国の投票所は朝の8時に開場されており、午後6時に締められます。今日は全国的にかなり低気温ですが、悪天候でもないので投票率は悪く何のではないかと報道されています。

ミュンヘン大学の核世論調査などの昨日→21日付の得票率の推定平均値は以下のとおりです。
現与党

CDU.CSU
キリスト教民主社会同盟 39.0
FDP 自由民主党    5.9

現野党
SPD社会民主党   26.2
Grüne 緑の党   10.3
Linke 左派党    8.4

 現議会外
Piraten 海賊党  2.7
AfD ドイツの選択  3.8
Sonstige その他  3.6

これによれば、現連立与党と現野党が、ともに44.9%で完全に拮抗のままです。
さて、午後6時に各テレビ放送が一斉に、窓口調査などで得票率を発表し始めますが、はたしてどうなるか、緊張した静けさがドイツをおおっています。

静かでないのは、土曜日から始まっているミュンヘンのオクトーバーフェストです。ここでは朝からビールをやたらに1リットルのジョッキでやるので、飲む前にみなさん、ちゃんと投票しています。まるで芝居の舞台のような光景ですが、現実です。

ベルリンではガウク大統領が、朝9時30分に大統領公邸の近くのケストナー小学校で投票を済ませました。

多勢の有権者が投票しているので、大変良いことだと喜びの声をラジオが中継していました。→その様子の動画はこちら。大統領でなくひとりの市民として投票できるのはよい気持ちだと述べています。東ドイツ出身として1990年に初めて自由な選挙に参加できたことを思い出すとのことです。

(22日12:42)

第4回:22日午後

 この総選挙と同時に、二つの大切な選挙がヘッセン州とハンブルグで同時に行われています。
 ヘッセンは同日の州議会選挙です。ここでは長年の保守中道、CDU・FDPの黒黄の連立政権が維持できるか、SPDと緑の党の赤緑連立が政権を奪回するのかが、連邦選挙と同様の激しさで行われています。この州の両陣営の対立は、近年凄まじいものがあり、ここも予断が許されない情勢です。ここで政権交替となると、連邦参議院での赤緑の勢力が、圧倒的となり、メルケル次期政権にとっては、両院のねじれの重圧がさらに大きくなります。
  
 ハンブルグ は議会選挙ではなく、市の送電線やガス管などのネットを、市営化すべきか否かでの住民投票が、国政選挙と同時に行われます。ここでも90年代後半にかけて、電力やガスが公営から民営化されましたが、現在再生エネルギーの躍進と、エネルギー供給の分散化が全国で進められており、ここでも市民が住民投票に持ち込みました。ひとつの年のこととはいえ、州のステータスを持つハンブルグの動向は、全国的な影響がありますので、注目されています。(22日16:01)





2013年9月8日日曜日

185:日本は80年前の東京オリンピク返上の歴史をふりかえろう。日中戦争とフクシマの処理で破綻。

 先ほどブエノスアイレスの国際オリンピック委員会の総会で、2020年の夏期オリンピック開催が東京に決定しました。
 3兆円の経済効果があり、アベノミクスの4本目の矢と見越されているようです。この決定に注文をつけるつもりはありませんが、あまり喜ばない方がよいでしょう。

 1964年の東京オリンピックは、60年ローマ、72年ミュンヘンと、かつての日独伊枢軸国、すなわち第二次世界大戦での敗戦国の国際社会への復帰を象徴するものでした。

 しかし今回は事情が違います。メディアも含め、舞い上がるまえに、歴史を振り返りましょう。

若い方は、ほとんど知らないでしょうが、日本はかつて1940年に決まっていた東京オリンピック開催を返上した歴史があります。これがまぼろしのオリンピックの公式ポスターです。2020年から80年前に予定され、中止となった幻のオリンピックです。

なぜ、そのようなことになったかは、→ヴィキでは以下のように解説されています。


1938昭和13年)に入ると日中戦争の長期化が予想されるようになったために、鉄鋼を中心とした戦略資材の逼迫を理由に、軍部が「木材か石材を使え」などと無理な注文を出した上に、杉山元陸軍大臣が議会においてオリンピック中止を進言するなど、反対の態度を鮮明にした。さらに河野が再び開催中止を求める質問を行うなど、開催に否定的な空気が国内で広まった。それまでオリンピック開催を盛り上げる一翼を担ってきた読売新聞や東京朝日新聞などでは、オリンピック関係の記事がこの年から打って変わって縮小している。
さらに、軍部からの圧力を受けた近衛文麿首相は、623に行われた閣議で戦争遂行以外の資材の使用を制限する需要計画を決定し、この中にオリンピックの中止が明記されていたことから、事実上オリンピックの開催中止が内定した。


すなわち、日本が始めていた日中戦争の推進のために開催を返上したのです。



さらに、80年まえの東京オリンピックはこの絵はがきに見られるように、朝鮮半島も併合された日本での開催であることが内外に誇示されていました。本当は当時の傀儡国家であった、いわゆる「満州国」もこの図面に入れたかったのでしょうが、公式には独立国としていたために、そうはしなかったのです。

 当時、日本の侵略で、朝鮮と中国でどれだけ多くの人々が生命と財産を奪われ苦しんでいたのか、また現在、フクシマ事故でどれだけ多くの人々が、同様に棄民同様になっている現状をここで考えてみるべきです。

  先ほどプレゼンテーションで安倍首相は、「フクシマの放射能汚染は東京には全く影響はない。空気も水も食物も安全だ」と、誰からも信じられていない真っ赤な嘘を堂々と述べて、それがあたかも効果があったように喜んでいると報道されていますが、そんなに甘いものではありません。

 フクシマの放射能環境汚染が、これからさらに拡大し深刻になることは防げません。1940年の開催返上に続き、80年後の2020年には、原発事故の処理のためにオリンピックを返上しなければならなくなることを、わたしは危惧します。

 日本が当時、日中戦争で追い込まれ破綻したように、今回はフクシマと原発政策の処理で追い込まれて破綻するおそれは 、極めて現実的なものです。
80年前に、もし中国侵略を抑制して近隣諸国の人々を苦しめず、オリンピックを成功させていたならば、世界の歴史は 全く違ったものになったでしょう。今回は逆に、オリンピックではなくフクシマの処理にまず国の全力を注ぐべきでしょう。地球環境の汚染と、自国民の苦難を無視してお祭りにふけるような国の将来は暗いものです。

下の写真は、日本が選ばれて直ぐに、ブエノスアイレスからドイツの通信社・dpaが 配信したものです。

 いずれもフクシマの危険性をみじんも感じず、徹底的に無視して済ませると思い込んでいる面々の「勝利」の記念写真です。かれらがフクシマと、原子力政策の処理で破綻することは確実です。

 かつては、軍事侵略で中国を押さえ込めると思い込んでいた過信と誤算、今回は原発事故を押さえ込めると思い込んでいる過信と誤算。歴史に学ばない無知無責任な日本の姿のプレゼンテーションの記念写真となるでしょう。その意味で歴史的な光景です。
    この人たちは、DiscoverではなくNever Tomorrowと主張しているのです。

 日本は、オリンピクに膨大な資金をつぎ込むのではなく、まずはフクシマの処理に邁進すべきなのです。地に落ちた世界の信用はそうして回復されるのです。歴史に学びましょう。



原発推進派の東京オリンピック。dpa




2013年9月6日金曜日

184:汚染水問題は「日本の制度的欠陥」から・南ドイツ新聞が論評で無責任体制を厳しく指摘

 このところ、世界中のメディアが、連日のようにフクシマの高度放射能汚染水の問題を非常に大きく報じています。ついには、「日本政府がここで470億円で汚染水処理に乗り出したのは、東京オリンピックの招聘が危なくなってきたからだ」との論調が、大きく報道されているように、世界の日本政府への不信はもはやそれ自体が危険水域をはるかに越えています。
 そこに、「南ドイツ新聞」は本日、主要論説(日本の新聞の社説に匹敵する)として東京特派員の厳しい日本批判を掲載しましたので、取り急ぎ以下翻訳します。
 同紙もここ連日、汚染水問題を報道した上での論説です。

なを、同紙のHPでは:→ Zu stolz für den Gesichtsverlust 

との別のタイトルで原文が読めます。 ネットでは関連が判らないので、リードの解説が付けられています。 本体のタイトルは下の写真のように以下のとおりです。------------------------------------------------------

        日本・制度の欠陥 

                      クリストフ・ナイトハルト 

 最近のフクシマ発電所廃墟でのだらしなさには責任者がいる:東電である。しかしながら、またこのカオスで得をしている者もいる:これも東電だ。この企業はもっと資金をもらえる。そして日本の政府はフクシマのカオスの共同責任を引き受けるつもりだ。これが東電を安楽にする。
 
 この電力会社は 回避できた三重の大事故(GAU:予測できる最大の原発事故=原文)に対する自分の責任を、決してまともに受け入れようとはしなかった。始めから、事故処理を場当たり的に、いい加減におこない、何よりも出費を押さえた。そのようにして汚染水のタンクをきっちりと監視することも怠ってきた。送水管の穴をガムテープで塞ごうとした。
 
 ここにきて政府は、問題処理に自ら着手しようと望んでいる。昨年はまだ専門諮問機関は反対していた:匿名の国家が責任を取るならば、だれひとりとして権限があると感じなくなるであろうというのだ。この分析は全く間違いとはいえない。そこで楽観主義者たちだけが、フクシマでは将来も十分責任が果たされるであろうと信じたのだ。

 国の最大の欠損:誰が責任を引き受けるのか?

 この場当たり主義の背後には、日本が核災害のあとで取り組まねばならなかった本来的な課題が隠れている:すなわち責任である。責任とは=古くから知られているとおり=社会的理解にとっての主要テーマのひとつである。安倍晋三首相は、第二次世界大戦で日本政府の名前で行われた犯罪に対する責任を、ほんの少しでも受け入れることを今日に至るまで拒否している。
  
 罪の告白は、日本の誇りがそれを許ず、面子を失うことであると理解されている。日本の(歴代)政府は何度も繰り返し、スキャンダルから逃避しようとしてきた。これは企業においても同様であり、東電でも何度も見られるとおりだ。

 日本は、まっとうなことであるが自らの技術者たちの功績を誇りとしている。ハイテクの世界で多くの貢献をしてきた。その間、国の社会技術者たちは、だれしもが場を得て、義務を果たす社会を築きあげてきた。そこではまずは、個人が度を超すことがない。でなければ、かれは社会から干され、排除されてしまう。この制度はすでに学校からはじまる。この規律が、列車が秒単位で走り、混雑の中でも誰も叫ばず、押し合いもせず、ほとんどゴミ箱がないのに、道路に紙くずが落ちていないことを可能にする。

 いったいこれほど義務感にあふれ、秩序立ったこの社会がそれと同時に、責任喪失者たちの社会であり得るのであろうか? 日本は厳しく序列化されており、それに加えて日本人は、かれらの個人環境=グループ、例えば会社と自己同一化する。個々人は値打ちがわずかである。特に日本の男性は、有利な条件にほとんど盲目的に従う。それが規則違反であったり、ごまかしであることが明らかであってもそうするのである。法と規則を柔軟に解釈し、グループへの忠誠の方がより重要である。違反が表ざたにならない限り、何も起こらない。
 
 日本の大企業の社員軍勢は自己責任を取ることはない。服従あるのみだ。それに日本の序列は、今ではワンマン経営者によってではなく、命令受領者としてのしあがった者によって指導されている。したがってそれぞれの権力の中枢では精神的真空状態が支配しており、国家もそうである。この真空は抽象的な想定で満たされている:日本人主義とか、東電精神とかによってである。このようにして日本の秩序のボスたちは、彼らの部下たちと同じく、「より高いもの」、例えば「東電の繁栄」に対して義務を負っている。

 このような頭部のない忠誠は、あの帯刀していた小貴族たち、サムライの伝統であると喜んで説明される。 サムライは、主に警察と治安役人として備えられていたのだが、日本の歴史的エリートとして美化されている。彼らだけが武器を携えることが許されており、彼らの管理のために盲目的忠誠が代償として要求されていた。

 第二次世界大戦後に、日本人はこの忠誠は、まさに武士階級から出たメンタリティーに相応するものであると吹き込まれた。例えばハーバードの日本学者、エドヴィン・ライシャワーの分析がそうである。日本人はサムライが殿様に忠義であったように、会社に奉公すべきであるというのだ。これを多くの日本人は今日まで信じている。
 
 このモデルが戦後の時期においても、また第一次世界大戦までは上手く機能したのは、ソニー、パナソニック、トヨタなどの当時の創成期の家長たちによって指揮されていたからである。彼らは部下がそれに奉公するだけのビジョンを持っていた。今では、わずかな企業にしかビジョンのある指導者はいない。他の大半は、東電もふくめて青ざめた、背骨のない、かつての命令受領者たちによって指導されている。そして、政治でもこの体制が継続しているのである。
            (2013年9月5日 『南ドイツ新聞』 主要論評 )

                      ( )内は訳注。訳責;梶村太一郎 

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 原文写真
Süddeutsche Zeitung 5.9.2013 S.4

コメントですが、要するに現在の日本の産業界、政界はビジョンのない空虚な頭に支配されており、責任者を喪失しているとの当然の批判です。
これほど厳しい日本社会批判は、近年稀です。これもフクシマ事故に対処できない日本に対する世界からの危機感の現れのひとつといえます。
 

2013年9月3日火曜日

183:ベルリンの日本人脱原発運動Sayonara Nukes Berlinの報告です。ベルリン郊外のひとこま。

 先日予告しましたベルリンの日本人の脱原発運動Sayonara Nukes Berlinのみなさんによる→講演会の報告です。わたしは当日多忙のため残念ながら参加できませんでしたが、ちゃんとブログで報告されていますのでご覧ください:
   こちらをご覧ください高雄綾子先生を招いて

 この講演会にも参加したドイツ放射線防御協会のトーマス・デアゼーさんたちのドイツの市民運動で、国際的にも大きな影響のある活動については、このブログでも何度も紹介しました。
 たまたま、わたしは昨日、所用があり、ベルリン郊外の彼の家を訪ねました。
トーマスさんとアネッテ夫妻の郊外の家は森のはずれにあり、そのため地所が大変に広く、ヒツジの親子がいます。ちょうど羊毛を刈ってもらったばかりでしたので、えらくさっぱりしていつもより小さく見えました。トーマスさんにヒツジの次に撫でてもらおうと順番を待っている子ネコが後ろに待っています。ネコたちも多くいますが、ほとんどが勝手に住んでいるのです。
このヒツジたちは、実は母子で、左がお母さんのクララ、右が息子のカールです。

リンゴがようやく色づいてきていました。

これはカリンです。アネッテさんによればあとひと月で熟れるそうです。

反原発運動の背後には、豊かな自然があることがわかるベルリンの早い秋のひとこまの紹介です。

 

2013年9月1日日曜日

182:オバマ大統領「前方へ逃避」し、議会に決断を投げる。冷戦後の西側覇権主義の民主化へ転機となるか。

 ここ連日、シリア内戦の毒ガス使用と、アメリカの軍事介入に関する危惧を報告しました。明日にでもトマホークによる爆撃があり得るとのニュースが飛び回っています。しかし当面それは回避されました。

 本日8月31日、ロシアのプーチン大統領は(おそらく日本ではあまり報道されていないでしょうが/わたしもいそがしくてゆっくりモニターできません)、ウラジオストクで記者会見し、昨日のケリー国務大臣が公表した「軍事介入の合法性」に関し、「きっちりと、アサド政権の犯行である確固たる証拠を提示すべきである」、「それ抜きの軍事介入は全くの狼藉行為である」と述べ、また「そのため市民の生命が脅かされることに、ノーベル平和賞受賞者のオバマ大統領は配慮すべきである」と、真っ向から批判しました。

記者会見するプーチン大統領 31.8.2013 Reuters
一昨日の、イギリス議会での7時間を越える論議で、オバメロンの半分であるキャメロン英首相は、軍事行動を否決されましたが、これは イギリスの議会史で1782年以来の出来事であるとのことです。30日のデイリーメール紙によれば、当時のノース首相は、アメリカの独立戦争に軍事介入すべきだとの議案を出しましたが、議会は否決。首相は「オー神様!これで全て終わりだ」と述べたそうです。まさに英国の議会民主主義の歴史的伝統の良き顕われだったのです。
 昨日、「オバマ大統領もアメリカの独立史から学んでほしい」と書きましたが、驚くべきことに、期せずしてそうなる可能性が出てきました。

 プーチン大統領の記者会見の後、オバマ大統領はワシントンで「いつでも軍事介入を命令できる用意はあるが、決断を議会の判断にゆだねる」と述べました。

(追加)声明全部の動画は→こちらで。じっくり聴くと面白い内容です。
「前方逃避」の演説をするオバマ大統領。31.8.2013
これは、冷戦後の西側の覇権主義にとっての大きな転機となる出来事です。すなわち冷戦後「世界の警察長官」としてのアメリカの無能力を認めて民意に判断をゆだねる判断であるからです。(それが何故かについては、毎晩、訪問者のお相手で大酒を飲んでからの書き込みなので、詳しくは書けませんことを読者のみなさまにお詫びします)。

 結論だけ述べれば、このような、政治判断を「前方への逃避」と言います。追い込まれた立場から逃れるため、未来志向(この場合は民主的手続きに判断をゆだねる)に逃亡するやり方です。オバマ氏の判断はその典型のひとつです。
 安倍政権の政策が何かにつき「反民主的管理主義への後方への逃避」であるのと対称的です。

 報道によれば、夏休み明けのアメリカ議会は9月9日ですから、それまでシリアに対する軍事介入は無くなったようです。これでプーチン氏も述べたように、9月5日から始まる、セント・ペータスブルクでのG20で、 シリア問題解決に関する討議もかなり冷静にできる条件ができたようです。願わくば、ロシアも中国も国連安保理での実質的討議に踏み込む努力をしてほしいものです。

 面白いのは、古典的立場で軍事介入に参画するとしているフランスのオランデ大統領の反応です。突然ハシゴをはずされた彼はどうするのでしょうか。「お前はオランデよい」と言われたようなものですから。

 いずれにせよ、世界中がとりあえずは、ほっとするできごとです。シリアの一般市民にとってはおいておやです。