2011年12月7日水曜日

55:ドイツ放射線防護協会から日本の政府への勧告と、市民、科学者への呼びかけ/追加あり

この55回のお報せは、たちまち大きな反響と関心が特に専門家の間であるようですので、以下英文資料等についていくつかの追加を青字でいたします。議論の参考にしていただければ幸いです(12月8日追加)。
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訂正とお詫び:
以下の翻訳の下訳について齟齬がありましたので訂正します。わたしは翻訳が松井英介氏から送られて来て「間違いあれば指摘して下さい」とのことでしたので、またゴアレーベン闘争が終われば翻訳紹介したいと考えていましたので、これ幸いと大幅に赤を入れて数回やり取りをした上で「松井氏との共訳による定訳」として公表しました。
ところが、実は送られて来た下訳とした翻訳が松井氏のものではなく、彼に送られて来た他の方の翻訳を松井氏が手直しされたものであることが先ほど判明しましたので、氏名不詳の元の翻訳者にお詫びし、また感謝いたします。 加えて読者のみなさまににもこの点をお詫びして訂正いたします。

先ほど判明したのは、この翻訳の下訳としたものはEisberg さんの友人の方によるものであるとのことです:
http://d.hatena.ne.jp/eisberg/

事実であれば、あってはならないことですので、ご両人にお詫びいたします。またドイツ語に堪能な専門医の松井氏の翻訳と思い込まされた立派な元の翻訳者の方には感謝いたします。ありがとうございました。(12月9日追加)
さきほど、Eisbergさんから、また元訳をなさったご本人からも、寛大なご理解をいただく連絡があり感謝とともに安心いたしました。あわや博士論文盗用でドイツ国防大臣を罷免されたGuttenberg男爵の指導教授とよく似た大恥をかくところでした。
読者のみなさまにも改めてお詫びし、ご理解をお願いいたします。(12月9日昼追加)

以下が本題です:

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ドイツの放射線防護協会の会長名の11月27日の日本の政府、市民、科学者へ宛てた緊急プレスリリースの定訳が出来ましたので以下お報せします。

日本政府の悲惨かつ無能力ともいえる間違った放射線防護政策、とりわけ妊婦と幼児のいる家庭の移住、厳格な食品検査、全国に汚染を計画的に広げる瓦礫処理の誤りなどについて、深刻な危機感をもち、学問的裏付けと長い経験と批判力を備え、経験を積んだドイツの友人からの日本の住民への貴重な警告と呼びかけです。(これがどれほどの裏付けがあるかについては原注の追加解説で示しておきました)

人類史上最悪の自滅行為である「フクシマ」の惨禍からこれから少なくとも数世代/孫と子供の世代は逃れ得ないことが運命づけられてしまった日本の市民のみなさまにはこの警告と呼びかけに真摯に耳を傾けていただき、まずはみなさまが置かれている放射能汚染の事実を直視していただきたいとおもいます。ここには目に見えないが確実にそこにある放射能の存在を捕らえて、不安に打ち克つ手がかりとなるいくつかのヒントが提示されています。

本文は短いものですが基本的な問題点が踏まえられていますので、翻訳に当たっては同協会の協力を得て、主張を裏付ける調査研究の出典もつけ加えました。特に心ある専門家のみなさまの参考としてくだされば幸いです。(梶村)

ドイツ語の原文は" Strahlentelex"の電子版 12月1日号の4頁の右側の囲み記事に掲載されています:
www.strahlentelex.de/Stx_11_598_S01-05.pdf


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 放射線防護協会 (訳注1)                                 

Dr. セバスティアン・プルークバイル
 
   プレスリリース          2011年11月27日 ベルリン

放射線防護協会は呼びかける:
福島の原子炉災害の後も放射線防護の基本原則を無視することは許されない。
 

放射線防護協会は問う:
日本の住民は、核エネルギー利用から結果するどれだけの死者と病人を容認したいのか?



放射線防護における国際的な合意では、特定の措置を取らないで済ませたいが為に、あらゆる種類の汚染された食品やゴミを、汚染されていないものと混ぜることによって特定の放射線量を減らし「危険ではない」ものにすることを禁止しています。日本の官庁は現時点において、食品の分野、また地震と津波の被災地から出た瓦礫の分野で、この希釈(きしゃく)禁止に違反をしています。ドイツ放射線防護協会は、この「希釈政策」を停止するよう、緊急に勧告します。さもなければ、日本の全ての住民が、忍び足で迫ってくる汚染という方式で、第二のフクシマに晒(さら)されることになるでしょう。これによって、明確な空間的境界を定め、安全に設置され、良く監視された廃棄物置き場を利用するより、防護はさらに難しくなります。「混ぜて薄めた」食品についてもそれは同じことが言えます。現在のように汚染された物質や食品を取り扱っていくと、住民の健康への害をより拡大することになります。

現在日本では、汚染物質が全県へ分散され、焼却や灰による海岸の埋め立てなどが始められようとしていますが、放射線防護の観点からすれば、これは惨禍であります。これでは、ごみ焼却施設の煙突から、あるいは海に投入される汚染灰から、これらの物質に含まれている放射性核種が計画的に環境へと運び出されてしまいます。放射線防護協会は、かくなる諸計画を中止するよう緊急に勧告します。

ドイツでの数々の調査では、チェルノブイリ以降、胎児や幼児が放射線に対し、それまで可能だとされていた以上に大変感受性が強いことが示されています。チェルノブイリ以降の西ヨーロッパでは、乳児死亡率、先天的障害、女児の出生率の減少などの領域(訳注2)で非常に著しい変化が起こっています。すなわち、中程度、さらには非常に低度の線量の増加に何十万人もの幼児が影響を受けているのです。ドイツの原子力発電所周辺に住む幼児たちの癌・白血病の調査(原注:KiKK研究)も、ほんの少しの線量増加でさえ、子供たちの健康にダメージを与えることを強く示唆しています。
放射線防護協会は、少なくとも汚染地の妊婦や子供のいる家庭を、これまでの場合よりももっと遠くへ移住できるよう支援することを緊急に勧告します。協会としては、子供たちに20ミリシーベルト(年間)までの線量を認めることは、悲劇的で間違った決定だと見ています。

日本で現在通用している食物中の放射線核種の暫定規制値は、商業や農業の損失を保護するものですが、しかし住民の放射線被害については保護しません。この閾値は日本政府が、著しい数の死に至る癌疾患、あるいは死には至らない癌疾患が増え、その他にも多種多様な健康被害が起こるのを受容できると表明したものに等しいものであると放射線防護協会は強く指摘します。いかなる政府もこのようなやり方で、住民の健康を踏みにじってはならないのです。
放射線防護協会は、核エネルギー使用の利点と引き換えに、社会がどれほどの数の死者や病人を許容するつもりがあるのかについて、全ての住民の間で公の議論が不可欠と考えています。この論議は、日本だけに必要なものではありません。その他の世界中でも、原子力ロビーと政治によって、この議論はこれまで阻止されてきたのです。

放射線防護協会は、日本の市民の皆さんに要望します。できる限りの専門知識を早急に身につけてください。皆さん、どうか食品の暫定規制値を大幅に下げるよう、そして厳しい食品検査を徹底させるように要求してください。既に日本の多くの都市に組織されている独立した検査機関(訳注3)を支援してください。

放射線防護協会は、日本の科学者たちに要望します。どうか日本の市民の側に立ってください。そして、放射能とは何か、それがどんなダメージ引き起こしえるかを、市民の皆さんに説明してください。

放射線防護協会
会長   Dr. セバスティアン・プルークバイル

この翻訳は、blaumeise.leinetalさんの翻訳を梶村太一郎が手直ししたものです/12月13日訂正)

(訳注1)ドイツの放射線防護協会の歴史と活動それを担う代表的な人々について、また松井医師については第38回を参照:
日独の脱原発を実現する人々:松井英介医師とドイツ放射線防護協会
http://tkajimura.blogspot.com/2011/10/blog-post_09.html

なを同協会の会長の姓の日本語表記に関しては、彼がこの秋に日本を訪問して以来の報道などで、かなり混乱しています。日本のメディアでは欧米の固有名詞を英語読みにしてカタカナ表記し、本人が聴いても理解できないことがしばしば起こります。Pflugbeil氏のPflugは「プルーク/意味は『鋤』」、Beil は「バイル/意味は『鉈』」です。したがって表記は「プルークバイル」としました。この姓の原意は「鋤鉈/すきなた」です。根気づよく核汚染と闘い続ける氏にぴったりです。

(訳注2)西ヨーロッパ各国での調査研究では、チェルノブイリ以降、例えばそれまでの男女の胎児の比率が女子の目立った減少として確認されている。2010年。
出典:
Von Dr. Hagen Scherb, Epidemiologe, Institut für Biomathematik und
Biometrie am Helmholtz Zentrum München:
www.strahlentelex.de/Stx_10_558_S01-04.pdf

(原注)ドイツ連邦環境省の原子炉安全及び放射線防護庁による委託研究:
「原子力発電所周辺における幼児発癌に関する疫学的研究」2007年。
出典:KiKK-Studie:
Peter Kaatsch, Claudia Spix, Sven Schmiedel, Renate Schulze-Rath,
Andreas Mergenthaler, Maria Blettner: Umweltforschungsplan des
Bundesumweltministeriums (UFOPLAN), Reaktorsicherheit und
Strahlenschutz, Vorhaben StSch 4334: Epidemiologische Studie zu
Kinderkrebs in der Umgebung von Kernkraftwerken (KiKK-Studie), Mainz
2007.



これは2003年から4年をかけた非常に膨大(330頁)な研究ですが、冒頭に簡単な英文サマリーもあります。

(訳注3)
ドイツ放射線防護協会は、チェルノブイリの直後からドイツ全国で盛んになった市民による、独立した「市民放射線測定所」設立の経験に基づき、日本全国の47都道府県で、主に食品検査に必要なガンマー線測定器を寄贈する募金を始めており、11月に最初の送金をしています。
日本の市民放射線測定所:
http://www.crms-jpn.com/


原注の追加解説
ドイツの22の原子力発電所(16地域)周辺5キロメートル内では5歳以下の幼児の発癌、特に白血病の顕著な増加が、それを越える距離よりも全ての16地域で認められると結論された当研究に関して、放射線防護庁による研究の背景と評価、その他の関連英文資料も同庁のサイトにあります:
http://www.bfs.de/en/kerntechnik/kinderkrebs/kikk.html

以下簡単に要旨をまとめておきます。 
この研究は1980年代の後半に英国のイングランドとウエ−ルズの核施設の周辺10マイルで幼児の白血病が増加しているとのふたつの研究が発表されて以来、ドイツでも1992年と97年にマインツ大学の小児癌登録(DKKR)によって調査が行われていました。
これらよっても小児癌発生頻度が原発との距離にあることが示され多くの論議が行われていました。それを踏まえて、同庁に設置された業績のある13名の専門家委員会により厳密で新たな調査方法で行われたのがこの研究です。この研究の実施は公募の上でマインツ大学医学部の小児癌登録部門に委託されました:
http://www.kinderkrebsregister.de/
 この研究に関する同大学の資料は:

研究は対象が膨大であるため4年をかけ、1980年から2003年の間に発病した原発所在地16地域の周辺に居住していた5歳までの幼児1592人の症例に加え、さらに比較コントロールするため同時代に同地域に居住していた発病のない同年齢で同性の幼児4735人を住民登録から抽出し、合計6327人を対象に調査を行っています。この全て幼児の原子力発電所からの居住地の距離は25メートル単位で特定されています。またドイツ全体の幼児癌の発生とも比較しています。

証明された主な結論は:
・原発から5キロメートル以内ではそれを越える地域と比較して顕著な癌の発症の増加があり、全ての腫瘍は基本的に白血病が原因である。
・原発に居住地が近づくほど発癌の危険が高まる。

この調査で、確定したことは「原発に近いほど幼児の発癌は増加する」ということだけです。誤解があってはならないのは、この調査は発癌の原因は研究対象ではないということです。
これまで公表され記録されている原発からの外気へ流出した核種の統計を根拠にしては、上記のような現象は医学的に証明できません。これほどの癌発病が可能になるのは、現在の学問水準では統計で得られている原発から外気に漏れた放射性物質が、1000倍から10000倍であれば、原因として特定できるとされているからです。
以上が簡単な要旨です。

したがって、この研究の以降は、なぜこのような現象が起こるのかの追究が研究者の間で盛んになっています。最近の一例としては、専門委員のひとりであったケルプライン博士(Dr.Körblein)による、この9月にある原発の燃料交換時期に排出線量が1000倍になった事実を指摘し、これが原因ではないのかとの指摘があります:
http://www.strahlentelex.de/Stx_11_588_S06-08.pdf

以上の研究の結果としていえることは、放射線防護委員会のこの勧告と呼びかけの背景には、少なくともドイツにおける最先端の研究が背景としてあるということです。日本では知られていても無視されているか目隠しされている貴重な情報なのです。

いずれにせよ、原発周辺、特に5キロメートル以内では幼児の白血病が異常に多いことは例外無く断定できるが、それと原発との科学的因果関係は現在の学問水準では立証できないというのが現状です。
勧告にある「ほんの少しの放射線増加でさえ、子供たちの健康にダメージを与えることを強く示唆しています/nachdrücklich hindeuten」という断定を避けながらも強調されている表現の背景がこれです。
つまり低線量の内部被曝の影響については、まだまだ学問的に解明されていないことが多くこれからの課題であることがこれからも判ります。

放射線防護協会のホームページは、これらの長年の欧米の研究や論争の資料が豊富に蓄積されていますので専門家のみなさまの参考としていただきたいと思います:
 疫学については:
www.strahlentelex.de/Epidemiologie.htm
 幼児の癌については:
 www.strahlentelex.de/kinderkrebs_bei_atomkraftwerken.htm

また、この研究はこのブログでも以下で紹介しました放射線防御庁のケーニッヒ長官のイニシアティヴで始められました。そしてプルークバイル博士は専門家委員会に参加したNGOのふたりの委員の内のひとりであったことも指摘しておきます。

17:ドイツ脱原発法施行・国内放射線量測定値情報公開について
http://tkajimura.blogspot.com/2011/08/blog-post_03.html
52:ドイツ核廃棄物最終処理施設の選定、振り出しに戻す合意
http://tkajimura.blogspot.com/2011/11/blog-post_12.html

(12月8日追加、一部は10日)




3 件のコメント:

  1. 凱風社の新田です。ツイッターでつぶやきました。

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  2. イエス♥日本 http://istimejapan.blogspot.com/

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  3. 放射能の中に生きる日本は逆さ望遠鏡の彼方か?
    政財界のちっちゃな現実世界の狂言は続いている。
    「安全復興除染冷温停止永久の戯れ後の祭り」
    独逸より自明の真実が照らす日本の姿はここに。
    危うき未来への警告は霞ヶ関の蜃気楼に飲み込まれていく。

    このような理路整然とした、厳然たる事実があるのに。

    楽観的見殺しのジェノサイドとはこのこと。
    3.11の世界的貢献は「放射能を侮る死の証」

    まさか!
    まさに!
    愚!

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